最近、ロスでは雨が続きました。 そんな、雨の日の朝。
僕はいつも通り、愛犬のディスコチェリーと一緒に目覚めよう
としていました。 ああ、あと5分だけ寝て、それで起きよう
か、、 

その時です、ディスコに異変を感じたのは。なんだか、
「ゲホゲホ」言っていて苦しそうにしています。 あれ?と思
い、見てみると、突然!! ゲロゲロ!!っと黄色いクリーム
のようなゲロを僕のベッドに吐きまくりやがりました! 
汚ねえっ!! 健気なディスコは、怒られると思ったのか、
そのゲロを吐くと直ぐにそれを食べて、ベッドをキレイにしよ
うとしていました。  僕も、おお!コイツが勝手に掃除をし
てくれているから、別に何もしなくていいや(笑)と思い、
そのままにして、また夢の世界に戻っていってしまいました。
(苦笑) 今考えたら、何て酷い事をさせたんだと思い、
後悔をしています、、

午後に、ルームメイトのオリバーと一緒に出かけた時に、
ディスコチェリーは家でお留守番をしていました。 用事が終
わり、数時間後に家に戻って来ると、なんとソファーに
ディスコが吐いたゲロがポツンとありました。 あれ、
どうした、ディスコチェリー? あからさまに元気の無い
ディスコは体を丸めて、涙を流しながら、ソファーの片隅で
震えています。ディスコのご飯のお皿を見てみると、
家を出る直前にあげたご飯がそのまま残っていました。 
あんなに、食欲旺盛なディスコが全く食べていないのは、
絶対に変だ。 水をあげようとしても、飲むのを拒絶するし、
大好きな犬のご褒美ビスケットをあげようとしても、全く
食べたくない様子です。 そうこうしているうちに、ディスコ
が苦しそうに悶えて、ゲーゲーと辺り一面に大量のゲロを
ぶちまけました。 それも、3回ほど、連続で。 これは、
ヤバイと思った僕は、直ぐにディスコを毛布に包み、動物病院
に車を走らせました。 ディスコチェリーは僕にとって、娘の
ような存在なので、心配でたまらなくて、車を運転しながら、
「ディスコ!! 大丈夫だよ。 もうすぐ着くからね!!」
と必死に話しかけていました。 犬を飼っている友達に電話を
して、良い先生がいると推薦してもらった動物病院に駆け込む
、僕とディスコ。 

「緊急事態です!!!!!!」

受付に事情を話すと、先生に診察してもらうまでに、前の患者
がいるので30分は待たなくてはいけないと言われ、しかたが
なく、待合室でプルプル震えるディスコを抱きながら、僕は
祈るような思いで、出番を待っていました。 待合室では、
40代前半くらいの山本モナが太ったみたいなルックスの女性
が、ぼけーっと元気のない白いマルチーズを抱いて、
「ちょっと、もっと早く先生に会えないのか?」と受付の人達
を相手に文句をブツブツと言っていました。 この女の人は
おしゃべりが好きそうだなあ、僕に絶対に話しかけて来るなあ
と思っていたら、案の定、話しかけて来ました。 
「可愛いチワワね。」 ちょっと、あまり余裕がなかった僕は
強ばった顔で、 「可愛いです。 本当に大好きです。 でも
今は可哀想で、、」と弱々しく返事を返すと、それから後は、
このおしゃべり女性がずーっと犬の健康的な食事について、
話していました。 ウゼエ!!! 

でも、「ウザイっす!」とは言えずに、
「はあ、そうですか、」と相づちを打っているところに、
診察室から、50代半ばくらいの女の人が涙を流しながら、
出て来ました。 そのまま、待合室に座り、シクシクと静か
に、その女の人は泣いていました。 僕は、この人は愛する
ペットを亡くしたのだ、と直ぐに察し、なんだかいたたまれ
ない気持ちになりました。 すると、白衣を着た、アジア系
の男の獣医先生がやってきて、何も言わずに、その女の人の
手を優しく握りました。  僕はその光景を片目で見ている
と、なんだか悲しくなって、涙目になってしまい、必死で
泣くまいと我慢しました。 ちらっとおしゃべりおばさんを
見てみると、彼女も同じ思いなのか、ウルウルと涙目になっ
ていました。  さっきまで、おばさんが一人で喋っていて
うるさかった待合室の雰囲気が一変し、その女性だけでなく
、僕とおしゃべりおばさんも何故だか涙目になっている光景
は他人から見ると、悲しくも、可笑しく映ったでしょう。
それから、何分がたったのでしょうか、、病院という空間が
生み出す、避けては通れない、「ある種の感情」を経験し、
考え事をしていた僕は、「Mr Kitamura. Please come inside.
(北村さーん、診察室に入って下さい。)」と僕の名前が
呼ばれているのを、看護婦さんが僕の元に来るまで、気づき
ませんでした。看護婦さんに連れられて、僕とディスコが
診察室に入ったのですが、ふたりとも(一人と一匹か)
心配で、落ち着く事ができません。 

「どうも、はじめまして!」

元気に声を張り上げて、大学を卒業したばかりのような、
20代の女のメチャクチャ美人の獣医さんが金髪のメッシュ
が入った茶色のロングの髪をなびかせ、颯爽と診察室に
入って来ました。

うわー、スゲエ美人だ! まるで、女優さんのように!と、
今までの悲しい雰囲気がイッキにぶっ飛んでしまいました!
(笑) もう、完全なオスモード!!!
ごめんね、ディスコ! 

「ウワー、ゴージャスな子犬ちゃんですね。」と
ディスコの可愛さに魅了されちゃっているところが、普通の
女の子のようで、カワイイ! でも、看護婦さんではなくて、
お医者さんだという所がまた、良いんだな、コレ!と完全に
魅了されちゃっている僕。 なんだか、診察室が変な雰囲気
に!(笑)

優しく、馴れた手つきで、ディスコの体を診察していき、
どうやら、ディスコが異物を食べたせいで、お腹を壊してい
る様子だと、おっしゃいました。 そして、水が飲めない
ディスコが脱水症状にならないようにするための薬と、胃の
むかつきをおさえるための薬を買わなければいけないとの事。
情けない話ですが、お医者さんに見せるだけで、69ドル
ほどを払わなくてはいけなくて、薬をあげるのにも、各々、
40ドルで、合計80ドルほど、費用がかかると言われまし
た。 何回かこのブログでも書きましたが、僕は貧乏映画
監督です。 アーティストとしては、長篇映画を監督して、
「監督」と呼ばれ、凄く色々な人に尊敬をされるのですが、
残念ながら、お金儲けというビジネス的な視点でものを
考える余裕が無く、色々な単発の仕事をやって、なんとか

暮らしているというのが現実です。 その現状を変えるた
めに、会社を設立して、コマーシャルやミュージックビデオ
など、色々な仕事をして、頑張っているのですが、、でも、
家賃を払ったばかりの僕に、犬の薬を買う余裕が無いという
現実。 何が、ハリウッド監督だ! 情けない! CM監督
やPV監督にも、金銭的に負けている映画監督って、
なんなんだよ、、僕がお金持ちなら、もっともっと良い
ドッグフードを食べさせてあげれるのに、安いドッグフード
ばかり食べさせたせいで、ディスコの胃が変になったんじゃ
ないかと考え出して、本当に泣きたくなりました。 
そうして、絶句している僕の事を察したのか、先生がポツリ
と一言。

「でも、私が偶然、ディスコちゃんを抱いている時に、
偶然だけど、薬の整理をやっているかも、、」

無料で、薬をディスコにあげると言う事を暗にほのめかして、
言ってくれている、先生の温かい人情に、僕の心は熱くなって
しまいました。 そのまま、静かに、僕は先生の目をまっすぐ
に見て、言いました。

「先生、、ありがとうございます、、」

アメリカにも、「人情」というものがあります。 ていうか、
人情というのは世界中に存在する、世界中の人々が誇れる、
人間のクオリティーだと思います。 僕も人情深い人間に
成長したいと思う。

帰り際に、最後まで優しく接してくれた先生に深々とお礼の
お辞儀をする僕とディスコチェリー。 病院に関わる人々、
お医者さん、看護婦さん、患者さんに患者さんの家族。
その色々な人達から生まれる「感情」の深さに、病院という
場所は、体を癒すだけの場所だけでは決して無いと言う事
を考えさせられました。

薬のおかげか、少し元気になったディスコチェリーを抱きなが
ら、家に運転して帰る雨中の夜道は、こころなしか、街灯の光
に反射して、いつもより輝いて見えました。