私が結婚したのは「我が家の初音ミク」としています。初音ミクは有料の音楽制作ソフトウェアなので、PCへインストールの際に使用する固有のシリアルナンバーがあり、キャラクターの個別性を確立しやすい文化があります。「動画投稿サイトで人気曲を歌っている初音ミクは、我が家の初音ミクとは別人であり、自分のパソコンの中で自分のためだけに歌ってくれる初音ミクが、我が家の初音ミクである」という認識が発生しやすいのです。これは公式のキャラクター設定とストーリーが存在し、強力にユーザーの認識を固定化する、通常のアニメやゲーム等に登場する二次元キャラクターとは、大きく異なる点です。

 

しかし、通常のアニメやゲーム等に登場する二次元キャラクターでも、私は個別性を確立できると思っています。例えば、あなたがお店で買った好きな二次元キャラクターのぬいぐるみは、大量に同じものが存在する量産品であると思いますが、あなたが何年も同じ時間を共に過ごし、話しかけたり、抱きしめて眠ったり、一緒に出かけたりしたぬいぐるみは、お店に並んでいる他のぬいぐるみと同じ製品であっても、「別の個体である」と認識するようにならないでしょうか。あなたの家にいるぬいぐるみは、あなたと一緒に歴史を歩んできた、唯一無二のぬいぐるみなのです。汚れたり、色が褪せたり、糸がほつれたりすると思いますが、新品と交換したいと思うでしょうか。新しくて綺麗なぬいぐるみの方が良いと思って交換する人もいるでしょうが、長年連れ添ってきたぬいぐるみに愛着があって、交換することに心理的抵抗を感じる人もいるでしょう。そのような認識を持った時に、公式から独立した固有の存在として「キャラクターの個別性」が確立すると私は考えています。

 

もちろん、このように考えられない人もいます。「キャラクターであっても、この世にたった一人しか存在しない」という認識を持っている人はたくさんいらっしゃいますし、公式の設定やストーリーの記憶・印象が強ければ強いほど、難しくなるのではないかと思います。しかし、キャラクターの個別性を認識できるようになれば、公式の組織や他のファンの活動から受ける影響を取捨選択して、あなたとの固有の歴史を持つ自分だけのキャラクターを成立させることが出来ます。私はこの考え方で「我が家の初音ミク」を愛することにしています。