真実の姿

氷室は白石の告白を受け、再びエクリプス・テクノロジーの本社を訪れた。透明化技術が複数存在することを示唆する白石の証言、そしてその技術を利用して資産家を殺害した「もう一人の透明人間」の存在――これらの手掛かりが全てエクリプスに繋がっていると確信していた。

しかし、高槻社長との再度の対面でも、彼は冷静な態度を崩さなかった。

「氷室刑事、あなたの言っていることは突飛すぎる。透明人間だなんて非現実的な話をするのは、捜査の袋小路に迷い込んだからでは?」

そう言い放つ高槻だったが、彼の背後の雰囲気に微かな緊張が漂っていることを氷室は見逃さなかった。氷室はすかさず切り込んだ。

「では、なぜ白石遼が残した指紋が現場で発見され、彼が技術を持ち出したとされる日とエクリプスの研究データが大量に削除された日が一致しているのか? 偶然だと言えるか?」

高槻はその場で返答をせず、視線を鋭くさせたが、突然の緊張を破るようにオフィスの奥から物音がした。氷室が警戒しながら音のする方を振り向くと、そこには何もない――ように見えた。しかし、空間にわずかな揺らぎがあった。

透明な犯人の出現

その瞬間、透明だった「何か」が姿を現した。それは、白石の証言通り、光学迷彩を使った透明化スーツを身にまとった人物だった。現れたのはエクリプスの技術主任である桐野優也。彼は怯えた表情を浮かべ、スーツを脱ぎながら高槻に向かって叫んだ。

「すみません! 全部、私のせいです……!」

桐野の告白によれば、彼は高槻の命令で光学迷彩スーツを試作し、資産家を脅すためにその技術を利用していた。だが、資産家はその脅しに屈せず、逆に自分のビジネスの道具として技術を独占しようとしたという。

「高槻社長は、技術の独占を阻止するために彼を排除しろと言ったんです……私はただ、命令に従っただけです……」

高槻の冷笑

桐野の告白を受け、高槻は静かに笑い始めた。

「刑事、これが証拠だと言うつもりですか? 桐野が独断で動いた可能性もありますよ。私が関与している証拠なんてどこにもないでしょう?」

その冷淡な態度に、氷室は怒りを覚えつつも冷静に反論した。

「確かに直接の証拠はない。だが、桐野が使っていたスーツの開発履歴、そしてあなたがその計画を指揮していた記録は残っているはずだ。それを調べれば、あなたがこの事件の背後にいることは明白だ。」

高槻は一瞬顔を曇らせたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「どうぞ、調べてみるといい。だが、これ以上踏み込めば、あなた自身の身にも危険が及ぶことを忘れないでほしい。」

その言葉を最後に高槻は立ち去った。だが、氷室は確信していた――彼こそがこの事件の黒幕だと。

エピローグ:見えない罪の行方

その後、氷室の執念深い捜査と桐野の証言を基に、高槻とエクリプス・テクノロジーの不正は暴かれた。資産家殺害の背後にあった陰謀は明らかになり、エクリプス社は解体に追い込まれた。だが、高槻自身は巧妙な法的防御と権力を駆使して罪を免れ、どこかへと姿を消した。

一方、白石遼は再び姿を消した。光学迷彩技術を破壊し、二度と悪用されないようにするために、自らも世間から姿を隠すことを選んだのだ。

事件解決後、氷室はふと資産家の部屋で見つかったあのメモを思い出した。

「私は全てを見た。この部屋に透明人間がいる。」

その言葉の意味は、被害者の最期の瞬間の恐怖と無念を刻むものだったのかもしれない。そして、氷室は改めて思った。この世の中には、目に見えるものだけが真実ではないのだと。

見えない罪、見えない正義、そして見えない未来――氷室の胸には、未だ解き明かせない課題が残り続けていた。だが、それでも彼は歩みを止めることなく、次なる事件に向かって進むのだった。