見えない告発者

氷室は匿名の手紙に記された通り、再びホテルを訪れた。指定された時間、指定された部屋に入ると、そこには誰もいないはずだった。だが、妙な違和感があった。静まり返った空間の中に、何かが「存在している」という気配が漂っているのだ。

「ここにいるのか、白石遼?」と氷室が声をかけると、不意に部屋の隅から静かな声が返ってきた。

「やはり、あなたが来たか……氷室刑事。」

その声に氷室は身構えたが、目には何も映らない。だが、声は確かにそこにいた。白石遼のものだ。彼は透明化技術を利用してこの場に現れたのだと、氷室は確信した。

「お前が資産家を殺したのか?」

「違う。私は真実を話すためにここにいる。」白石の声は冷静だった。

白石の告白

白石は、透明化技術を持ち出してからの経緯を語り始めた。彼が資産家と接触した理由は、光学迷彩の技術が悪用されることを止めるためだったという。資産家はエクリプス・テクノロジーの主要なスポンサーであり、技術を武器産業に売り渡そうとしていた。その動きを知った白石は、彼を説得するために接触したのだ。

「彼は私の話を聞こうとしなかった。それどころか、私を脅し、この技術を渡せと言ってきた。私はそれを拒否したが、その直後から彼の部下たちに追われるようになったんだ。」

白石は命を狙われながらも、資産家を説得するために何度も接触を試みた。だが、その度に彼の態度は変わらなかった。そして、事件当夜、白石は再び資産家の部屋を訪れたという。

「その時、すでに彼は死んでいたんだ……」

透明人間の目撃

白石の話によれば、彼が部屋に到着した時、すでに資産家は何者かに殺害されていた。だが、白石はその瞬間、見てしまったのだ。自分以外にも「透明化技術」を使っていた人物が部屋を出ていくのを。

「私が持ち出した装置は一つだけではなかった。エクリプス社には別の試作品が残されていたはずだ。あの夜、私が目撃したのは、もう一人の透明人間だ。」

その言葉に、氷室は息を呑んだ。つまり、白石ではなく、エクリプス社の関係者が技術を利用して資産家を殺害した可能性が高いということだ。

「私がここに来たのは、その事実を伝えるためだ。そして、あなたにこの技術の真実を暴いてほしい。」

氷室の決意

白石はそう言い残すと、再び部屋の中から姿を消した。彼がどこに行ったのかは分からない。だが、彼の言葉は氷室の中に強烈な疑問と決意を残した。

エクリプス・テクノロジーが技術を悪用しているのか? もう一人の「透明人間」とは誰なのか? 資産家の死の背後には、どれほど深い闇が広がっているのか?

氷室は白石が残した情報を手掛かりに、改めてエクリプス社を調査することを決めた。そこで明らかになるのは、予想を超えた驚愕の事実と、さらなる危機の予兆だった――。

透明人間の密告者は、真実への扉を開くきっかけとなるか、それともさらなる混乱を呼び込むのか。事件の核心が見え隠れしながら、氷室の捜査は新たな局面へと突入するのだった。