アラフィフ 遥子の気持ち | Last will

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こんにちは。ヨモリコウです。日記のつもりで書いているので、読んで楽しいものではないと思います。
自己満足を垂れ流ししているかも知れません。
でも、もし、共感していただけることがあれば幸いです。

遥子には職場で少しいいなと思う人がいる。
毎日、真面目に仕事に向き合っているアラフィフの遥子にとって、それは仕事のモチベーションをあげるためのときめき要素であり、本気でつきあいたいと思っているわけではない。

遥子の職場はシフト表によって毎日コンビが変わるのだが、ときめき要員である斎藤晃は遥子にとって最も仕事のしやすい同僚でもあった。
それは晃も感じていたらしく、『林さんとはツーカーの中だよね!』と言われたこともあり、その言葉に遥子もまんざらではなかった。
確かに彼の行動は言われなくてもわかる。たぶん思考回路や価値観が似ているのだと遥子は考えていた。
ただし、仕事に限定するのだが。

晃は遥子より若いが、じっくり見ているとシワあり白髪ありシミありのアラフォーの『オッサンだよね』だと自分のことを棚上げして晃の横顔を不自然にならない程度に見つめる。
遥子はそうやって頭をもたげそうになる恋心を牽制するのだ。

いい年して恋愛だなんて馬鹿じゃないの、こんなオバサンを誰も相手にするわけないじゃないと戒めたりするのだが、もともと恋愛体質の遥子は今でも自分のオンナの部分がもしかして通用するのではないかと心の奥底では考えていた。

それさえも遥子は自覚しており、そんな自分を『気持ち悪いオバサン』と揶揄もしている。それでも本能の最終的な欲は抑えきれずにいた。

彼は既婚者だ。年頃の娘達がいて、彼女達の行事には仕事を休んで参加していることも遥子は知っている。晃が家族思いのパパであることも、遥子がひそかに好感を抱く1つである。
彼が決して自分に心を動かされることはないと言い聞かせるのにもってこいの事実だ。

そして、遥子は数年から二人の娘のシングルマザーである。晃もそれは知っているが、彼の性格からして遥子の事情には興味がないだろう。もともと晃は他人に対して必要以上に興味がない。つまり自分本意でクール、もっと悪く言えば、自己中心的だと職場では評価されている。

その自己中心的な性格のせいか、職場の遥子以外の女性は全員口をそろえて晃のことを嫌いだと言っている。
遥子にも彼が嫌われる要因はわかっていた。女性たちの愚痴や噂を聞いて思い当たることも多かった。

それでも、他の女性たちから聞く晃の対応と遥子への対応は少しずつ違っていた。
そのことは遥子に少しだけ優越感を抱かせ、晃に好意を持つ理由となった。

そして、別の同僚の松本弘と晃の三人で飲み会をすることになったのが2ヶ月前だった。
前々から飲み会に誘ってくださいよと遥子は本音を隠し、弘には社交辞令のように言っていた。
本当は気になる晃とゆっくり話してみたい。確かに下心はあった。しかし、自分に興味はなく家族思いの晃が遥子との飲み会を実現させるわけはないと心の片すみでたかをくくっていた。
ところが、実現した。それも晃主導で。
遥子は嬉しかった。恋をした時に似たこそばゆい気持ちだった。飲み会ごとき1つに『だから、どうした』と反芻しつつも、その飲み会が予想どおりアッサリと終了してもフワフワした気持ちはしばらく続いた。

その後、弘からは『今度の飲み会はいつにしようかな』と話があったが、遥子が進めることもできず『そうですね~、シフト見ないとわからないですよね』と大人の対応で受け流していた。

それが、しばらくして晃とコンビを組んでいたある日、
『林さん、まっちゃんが飲み会って言ってるけど…』と遥子は飲み会のことを持ちかけられたのだ。
心の底では晃との飲み会を心待ちにしていた遥子はシフト上では飲み会をするにはこの日しかないという1日があることを知っていた。
『そうですね。それなら27日がいいんじゃないですか?』と理由も合わせて晃に伝えると、『それ、いいね。じゃ、後でシフトで確認するか』と楽しそうに答えた。彼の乗り気な様子は遥子には意外だったが、こうして2回目の飲み会はその日のうちに晃が決定させた。

しかし、晃とコンビを組んでも飲み会の話にはあえて触れないままだった。遥子はがっつくことでもないとスルーを決め込んでいた。
それでも、飲み会を来週に控えると場所もそろそろ決めないとまずいなと遥子が考えて始めたある日、仕事を終えた晃から『飲み会さ、飲むなら近場だけど、飲まないなら遠くに行かない?』といきなり切り出された。
遥子は晃の意図が理解できず一瞬固まり、ようやく『え?遠く…って?』と答えるだけで精一杯だった。
晃は遥子の問いに『温泉…とか』と答えたので、以前、遥子が温泉に行きたいと言ったことや晃も温泉好きなことを思い出し『あー』と返事はしたものの、温泉ってどの辺りの温泉を指し示しているのか、日が暮れてから温泉に向かったとしていつ帰ってくるつもりなのか、弘と3人で温泉に行くことを前提に言っているのか、ひょっとしてこれは誘われているのかとまで、次々に頭の中に考えが浮かびあがった末に混乱してしまった遥子は『そうですね。ちょっと考えてみますね。』と返すことしかできなかったのである。

つづく