※こちらは、
祭さんのハーフバースデーに捧ぐ、
艶友うぬちゃんとのリレー小説です。


未読の方は
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-- 4 青褐色の小休止 --










「あ、祭はん!今夜はえらいお忙しそうどすなぁ」

「…………」

「……? 祭はん?大丈…」


肩に手を置かれて振り向けば、揚屋の女中さんが目を見開いた。


「いやや、真っ赤やないの…!どないしたん?無理に飲まされたんか?!」

「い、いえ!まさか…!大丈夫ですから…!」


言い逃げるように給仕場へ駆け込んで、はぁとため息をついた。


(翔太くんが……あんなこと…言うから…)


火照る脳を冷やすには賑やかな調理場からは独立したところにある、この薄暗くひんやりとした土間の給仕場がいい。

お水をいただいて、落ち着いたら次のお座敷へ向かおう。さっき女中さんに言われた通り、今日はすごく忙しいんだから……。

「よし…っ」

水で冷やした両手を頬に当てて、一人で気合いをいれる。
気持ちを立て直して、姿勢よく引いた顎は、伸びてきた細い指先によって、いとも簡単に持ち上げられてしまった。


「……なんや…あったんか?」

「ーっ…!あっ…秋斉さん…??!ど、い…いつからここにいらっしゃったんですか?!?」

「座敷で……何やあらはった?」


秋斉さんは私の問いかけには答えずに、分析するみたいに無機質に、私の瞳の中を覗く。


(ひぃ…っ。やっぱり…秋斉さん、怒ってるような…?)


つい数刻前も、届いた逢状の漢字が読めなさすぎて思いきり呆れられた。

それに……。
最近は秋斉さんが前ほど笑ってくれなくなったように感じていた。
少し前までは、姐さん達にお気に入りだとからかわれるほど優しかったのに……。


そう思うとこちらもぎくしゃくしてしまって、上手く話せなくなってしまって、
こうして二人きりで向き合うことでさえ、随分久しぶりのような気がする。

気まずさに顔を伏せようとすると、それよりも早く秋斉さんが俯いた。


(あ…やっぱり……)

「………って、秋斉さん…?!」


そのままふらりと傾いた彼を、支えるように受け止めた。


「だ、大丈夫ですか…?」

「どうも…ない。付き合いで同席した座敷の酒が強うて……大丈夫や、堪忍…」


すぐに私から離れようとするけれど、重心を失ってるようでひどく危なっかしい。
頭の隅で、こんな秋斉さんは珍しいと思いながら、離れていく彼の腕を、もう一度捕まえた。


「だめですよ、そんな状た…っ」


ぷつりと途切れた私の言葉。音の無くなった薄闇の給仕場。

侍従が香るお着物に、私は顔を埋めていた。
捕まえたはずの秋斉さんの腕は離れて、そしてすぐに私を彼の胸に閉じ込めた。


「秋…斉……さん…?」


名前を呼べばより一層強く抱き込まれる。息が、苦しくなるくらい。


「行かさへん。祭はもう、どこへも……」


いつも理路整然としていて、隙なんてどこにも見えないこの人の、突然に見せられた我儘のような感情。

胸の中がきゅっと柔らかく締め付けられて、恐る恐る、その背中に腕を回した。ここへ来て間もない頃に見た、あの、傷だらけの背中に……。


藍色の着物越しに、そっと撫で下ろすと、彼は我に返ったようにぱっと私を解放した。

一瞬だけ目が合って、その後すぐに体ごと背を向けられる。


「あきな…」

「…早ういき。ここでのんびりしてる時間なんて、あらへん筈やろ?」

「で……でも」

「ええから…!」


荒げられた声も初めて聞いた。思わず涙ぐんだ私を見て、秋斉さんは恐がらせたと思ったのか、表情を緩めて頭に触れた。
そうでは、無いのに。


「うちの看板を、旦那はん達が心待ちにしてはる…。にっこり笑って、ええ夢を見させて来なはれ」


ほんの一瞬だけ姿を現した本物の彼は、また見えなくなってしまった。

これ以上何かを言っても困らせるだけのような気がして、私は頷いた。


「……はい、秋斉さん」








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秋斉さんはちょっぴり切なめ仕様

続きはまた明日の
7月23日20時~公開予定です