リニューアルショックからこっち、
なんとなくそわそわしちゃって妄想が止まっておりますが…


これはショック前に書いて寝かせていたものです(´ェ`*)



では どうぞ……♡





大好きな艶先輩のお誕生日に寄せて♡
(↑バレたから書きました 笑)





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「ふーん、面白いね…」


右から聞こえた声の主が、今どんな顔をしているのかを知りたくて…
我慢しきれずに目の黒いところだけを動かした。


「これ、わての方だけ見とき」


秋斉さんの魅惑的な言い回しにも、私は取り乱すことなくくすりと笑った。

だって、今秋斉さんが言葉で揺らそうとした相手は私ではなくて…



「聞いた?今の言い方…。俺の前でわざとお前にあんな風にするなんて、底意地が悪いよ秋斉は…」

「別の部屋で行儀よう待っときなはれと何編も言うとるんに、図々しく入って来はるからとちゃいますか?」


秋斉さんの正論に思わずうんうんと頷きそうになるのを、すんでのところで堪えた。


危ない…
今頷いていたら絶対、後で拗ねた振りをした彼にに苛められていたと思う。


一瞬だけ、横目で慶喜さんの顔を窺う。


「…◯◯」


猫みたいな目で私の顔をじっと見て『今、秋斉に同意したね?』と言外に伝えて来た。

私は含み笑いになってしまいつつ『そんなこと無いですよ』と小さく首を振って返した。




「…次動いたら紅は塗ったらへん」


秋斉さんの言葉にしゃきっと姿勢を正すと、以前に私が好きだと言った薄づきの紅を筆にとってくれた。


(あ…)


感謝の気持ちを伝えたくて、真正面にある深い色の瞳を覗くけれど、秋斉さんはまるで知らん顔をしながら唇に筆を置いた。


(…ありがとうございます、秋斉さん)


心の中で呟くと、ふふっと息が漏れそうになった。
でも、せっかくの慶喜さんとのお出かけに、紅は塗ってもらいたいから我慢する。




「慶喜はんも……次から邪魔したら◯◯はんとの外出は許したらへん」

「なかなか強引だね…」

「どっちがやろか?」

「だって面白いじゃないか。野の花みたい  に可憐な◯◯が、筆でなぞる度に牡丹のように艶やかに変わっていくんだから…。そして、そのどちらの姿も本当にきれいで……選びがたいよ」


照れたように頬を掻いた慶喜さんに、私は少しだけ俯いてしまい、秋斉さんは一蹴した。


「何を選ばはるんか知らんけど……野の花に牡丹どすか。……桜の君やなかったん?」

「!」


いつものじゃれ合いの果てに、顔をぎくりと強ばらせたのは慶喜さんの方だった。

秋斉さんは満足気に微笑みながら私の唇に紅を乗せていく。



(…桜の、君…?)


私には何のことかさっぱり解らなかった                    けれど、慶喜さんはそれきりぴたりと押し黙ってしまっていた。


(な、なんだろう……)


すごく気になる。
秋斉さんの手が顎から離れていき、紅筆を拭うところを確認すると、私はすぐに慶喜さんに聞いてみた。


「あの、桜の君ってなんですか?」

「え?……あ、あぁ…なんだろうね?」



例えば今みたいに…

楽しい気持ちで問いかけたことでも、こうして慶喜さんの気まずそうな笑顔を見てしまうと、私は決まってそれ以上は踏み込めなかった。



(…桜の、君……)



主観が入らないように、客観的に客観的にと思っても、どう考えてもその言葉の影には女のひとの存在を感じずには居られない。

障子を通して射す午後の光は白いのに、胸の中はぶわっと暗雲に覆われた。


思わず表情を曇らせてしまいそうになりながら、私は無理やり眦を下げて口角を上げた。



「…お待たせしました、慶喜さん!…秋斉さん、綺麗にしていただいてありがとうございます」



なんですかもう…って茶化してあげられる余裕はないし、聞かせてほしいと詰め寄るほど自信があるわけでも無い。


可愛くないなと自分でも思うけれど、こうしてただ笑顔でいることだけしか私には出来なかった。


(秋斉さんに素敵に着付けてもらったお着物が、桜色なのが皮肉だな…)


心の内で苦笑しながら、慶喜さんが行こうと言ってくれるのを待っていた。







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「……泣きな。折角の化粧が落ちてまう」

「……え…?泣いて、ません…けど」


まさかと思って頬に触れるけれど、やっぱり泣いてなんかいない。


化粧道具を箱にしまう秋斉さんの背中を見ながら、小さく首を傾けた。






「……◯◯」


名前を呼ばれると共に、撫でるようにそっと右手を重ねられた。


「呆れないで聞くって、約束してくれるかい…?」


少し改まったようにそう言われて、身体ごと真っ直ぐに慶喜さんに向き直った。


「……はい」

「俺はね、子供の頃から…」


話し始めた慶喜さんの雰囲気がいつもより繊細で、いつの間にか私は両手で彼の手をそっと包み返していた。



秋斉さんはそんな私達を部屋に残して、音も立てずにすっと後ろ手で襖を閉めた。
部屋を出る前に見えた彼の横顔はとても穏やかで優しかった。





慶喜さんは時々伏し目がちになりながらも、ひとつずつ、当時を振り返るように話をしてくれた。



慶喜さんが生まれたお家の環境から、普通の子供のようには過ごせなかったこと…

自分の存在に知らぬ間に付けられた付加価値だけが先行してしまって、慶喜さん自身はずっと孤独を感じていたこと…



そんな慶喜さんを慰めてくれたのは優しいお兄さんの存在、それと、
一本の桜の木だったということ…




「見事な木だったんだ。俺が心をぐしゃぐしゃにしていても、その木に触れると不思議と落ち着いた。
夏の葉の青さは気持ちを前向きにさせてくれたし、秋の色づきは縮こまった視界を広げてくれた。冬の幹も力強くて好きだった…」


まだ大人になる前の慶喜さんが桜の木に登っている姿を思い浮かべる。
そんなところで一人、心を痛めていたのかと思うとぎゅっと胸が締め付けられた。


(慶喜さんは独りじゃないって…そばにいますって、会いにいきたい…)


だけど過去へ、抱き締めにいくことは出来ないから。
想像の中の大きな桜の木に、ありがとう、と思いを馳せる。



「…春になると一層美しくてね……。その木の傍に立つだけで、すべてを柔らかく癒してくれるようだった…。花びら一枚まで、大切に想っていたんだ」


お話の邪魔にならないように、私は慶喜さんを見つめながら数度ゆっくり頷いた。



「…思い入れが強すぎて、気持ち悪いと思わないの?」


慶喜さんがおどけて笑う。
だけど私は笑わなかった。


「そんなこと、思う訳ない…」





(慶喜さんにとっての、その桜の木のようになれたら、どんなに……)




「……。お前といるとね、◯◯」


慶喜さんを包んでいた指を、確かめるように大切そうに撫でられた。

それを見下ろしていると、とても落ち着くような、なんだかひどく焦るような不思議な感覚がして、胸がぎゅっと締まる。



「その、春の桜を思い出すんだよ」



慶喜さんの言葉が頭に届いて、私は目を見開きながらゆっくりと視線を上げた。

目があった慶喜さんは気恥ずかしそうに頬を緩めた。


「同じなんだ。傍にいて、触れているだけで固くなっていた心が 柔らかくなる…」


じん と、目頭が熱くなって慶喜さんが少し滲む。
肩を引き寄せられるまま、慶喜さんにくっついた。



「あーあ…お前には内緒にしておくつもりだったのにな……。この話をね、この前酔った時に秋斉にしたらしいんだ。それが全ての元凶だったね」



耳許でくすくす笑う慶喜さんの声。寄せた身体からもその震動が響いて幸せだった。



「私は……すごく嬉しいです。…お話してくださって、ありがとうございます。慶喜さん」



「……うん」と頷く仕草にあわせて、慶喜さんはさっきよりも深く、私を抱き寄せる。


「ありがとう◯◯…、俺の傍にいてくれて…」


出かけるはずの予定も忘れて。
私達はしばらくの間、そうして体温を確かめ合うように寄り添っていた。





















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桜の木の話はもちろん、ねつ造です(´ェ`*)スミマセン♡