一応、続き物になりますので、
お嫌で無ければ ①慶喜さん からお読みください
今回はひと月の遠征(岐阜?遠すぎるから京都かな)お仕事中、もう一人のあの人が訪れます…♡
---------------------
「失礼します。お呼びで…」
襖を開けてそう大旦那さまに問い掛ける途中で、その向かいに座る藍色の背中に息を呑んだ。
ゆっくりとその背中が振り返るのを呼吸を止めたまま見守ってしまう。
瞳の焦点が私のものと重なると、彼はふっと親しげな表情を見せた。
「あ…」
秋斉さん。
そう呼び掛けた言葉は音になり損ねる。
驚きと喜びと、泣きたいような複雑な気持ちが胸に溢れて声にならなかった。
「…いつもそないに呆けた顔して旦那はんのお相手させてもろうとるんなら、楼主としてお詫びさせてもらわなあきまへんな」
何も言えない私をフォローするような、場の雰囲気を柔らかくするような、秋斉さんの言葉と笑顔にはたと我に返る。
私が今…このひと月、お仕えしているのは大旦那さまだ。ここでみっともない対応をすることは藍屋を、楼主である秋斉さんを貶めることになる。
動揺からこれまで見せたことのない素の私が出てしまっていた為だろう。大旦那さまからは訝しげに私と秋斉さんとを見比べるような視線を感じた。
私は溢れだしそうな感情を今一度胸のなかに押し込めて、少しだけおどけて明るく笑ってみせた。
「ごめんなさい、突然で驚いてしまって…。いつもこんな顔して大旦那さまとお話しているわけではないんですよ」
「はは、そうや藍屋はん。この娘は礼もきちんとわきまえとるし、親切で気取ったところも見せずにほんにようしてくれてはる。せやからどうか叱ったらんといたって」
この通りやと、大旦那さまも冗談で頭を下げるふりをしてくれる。硬い空気が和んだことにほっとして、笑顔を作りながらちらりと秋斉さんを見ると目があった。
彼にだけ伝わるように表情で感謝の意を示すと、目元を和らげて小さく頷いてくれた。
その後は大旦那さまから、いかに私がいる生活に喜びを感じているか、いかに私がよく気がついて家の人を助けているかという、有り難くも贔屓目すぎる評価を恐縮しながら拝聴した。
秋斉さんがお仕事用の笑顔で「へぇ」とか「そうどしたか」とか当たり障りない相槌を返す度に、どう思って聞いているんだろうと考えると恥ずかしかったが、その横顔を覗き見ても本当の感情は読み取れなかった。
ほんの四半刻ほどそんな時間を過ごした頃、秋斉さんから大旦那さまへお暇の挨拶をする。
『もう行ってしまうんですか?もう少しだけ…』
この場では絶対に口にできないそんな言葉を秋斉さんの背中に祈るけれど、すぐに腰を上げてしまった二人に続いて玄関へと向かう。
「わざわざ遠くまでご苦労どしたな、藍屋はん。○○はほんまにようしてくれとる。決して辛い思いさせんようにわしが見とくさかい、安心したらええ」
「へぇ、おおきに。…期日まで後半月ほどの間、○○をよろしゅうお頼申します」
大旦那さまに頭を下げる秋斉さんを、私はただ見つめていた。こんなにも近くにいるのにいつものように会話をすることも無く帰ってしまうのだろうか。
仕方の無いことだと解っている一方で、やっぱり寂しいとも感じてしまっていた。
「○○はん」
「秋斉さん…」
はい、という返事も返さず場違いに名前を呼んでしまった私に向かって、秋斉さんは優しく目を細める。
「仕事のことで伝えて置きたいこともあるし、ご贔屓はんからの預かりものも持って来たんや。…ちびっとだけ、この娘を貸してもろても構いまへんやろか?」
-----
大旦那さまの許可をもらってお屋敷を出た後、秋斉さんはしばらく何も言わずに歩いた。
私も何となく、お屋敷を出てすぐ秋斉さんと親しげに話をするのは大旦那さまにも失礼な気がして黙って後ろを歩いていた。
どのくらい離れたら話していいのだろう。身内と話す時の秋斉さんの顔が見たくてそわそわしてしまう。久しぶりに親い人に会えたことで、こどもみたいに心が浮き足立っているのが自分でも解った。
「 秋斉さん。あの、今日はわざわざ来てくださってありがとうございました。…お元気そうで安心しました」
歩く後ろ姿に声をかけた。秋斉さんは振り向いて私の顔をじっと見る。
「……?」
お礼を伝えたままの微笑みで、少しだけ首を傾げてその視線を受けた。
「…ようやってくれたはるみたいやな。先方さんもえらい誉めてはった」
「あれはすごく、大げさです…。秋斉さんがどう思われながら聞いてるんだろうってどきどきしました」
さっきの話を思い出して赤い頬を押さえながら笑った。
「○○はんは、ようしてもろとるん?困りごとやらあらへんか?」
(皆に会えなくて寂しい…)
困りごとと聞いて頭に浮かんだことがあまりに幼くて苦笑する。忙しい中時間を作って様子を見に来てくれた楼主に向かって、こんなこと言える訳がなかった。
「いいえ。お嬢さまに似ているから…とお話をいただいた通り、大旦那さまも家の方もとても良くしてくださいます」
それに、秋斉さんが契約時に先方と結んでくれた数々の約束ごとが私の心のお守りだった。慣れない暮らしの中でその約束ごとひとつひとつが、置屋に居るときと変わらず秋斉さんに見守られているようでとても心強かった。
「……慶喜はんは、えらい怒ってはったわ」
なんのことか解らないまま、心配そうに見つめる私にくすりと笑う。
「こん仕事が決まったって話をした時、○○に何かあってから後悔するのか、て。…生意気に」
ここへくる前日に聞いた、慶喜さんの話を覚えている。
『秋斉から話を聞いた時、俺は反対した。
でも秋斉に怒られたよ。○○のことお前が信用しないでどうするんだってー』
(私の、ことで…)
私の知らないところでー。
こんな風に二人が真剣に考えて話をしてくれていたなんて、ばかな私は思いもしなかった。
慶喜さんが私を心配してくれたこと、秋斉さんが信じてくれたこと。
そしてきっと同じように、秋斉さんも私を心配してくれていること、慶喜さんも信じてくれていること…。
二人の温かさに胸がいっぱいになって、視界が滲(にじ)んだ。
「……せやけど、わてらが思うてたよりずっと…○○はんは一人でしっかり、ようがんばってはるんやな」
幼いこどもを誉める時のように、にっこり笑ってよしよしと頭を撫でられるともうだめだった。
「……っ」
「…ん?」
止まれ止まれと思うのに、全く反抗的な涙はついに目のふちから流れてしまう。一度道が出来ると次から次へと大粒の涙が零れた。
それを見た秋斉さんが、満足そうな…ちょっと勝ち誇ったような笑みになるから、私はぐっと唇を噛んだ。
「ざんねん、せっかく我慢してはったのになぁ」
「……いじわるすぎます、秋斉さん」
なんだか悔しくて口を尖らせると秋斉さんにせやな、と優しく笑われる。
「あんさんが、わての前でまで強がろうとするからや。……そないに大人ぶって我慢せんでええ、なんの為に会いに来たんやと思うとる?」
知っている。秋斉さんは意地悪すぎるんじゃなくて、優しすぎること。
「この頑固で強がりで…ほんまはえらい泣き虫な娘を甘やかすために来たんや」
やっぱり張り詰めていたんだなと、秋斉さんを前にすると実感してしまう。彼の言葉ひとつひとつに返事でもするように涙が生まれてしまう。
「…そこは、がんばり屋さんとか、言ってくださいよ」
これ以上甘えないように、泣きながら軽口をたたくと「やかまし」と笑ってその腕にそっと閉じ込められる。
驚いて一歩後ろへ下がるけれど、すぐにまた引き寄せられて彼の胸に頬を預けるかたちになった。
間近に感じる秋斉さんの匂い。もっと低いと思っていた体温は意外なほど温かくて、その心地よさに少しだけ目を閉じた。
「あと少しや」
身体中から染み込むような優しい声。
「……はい」
「最後まで、がんばりはる?」
夢見心地で答えた後、意外な問いかけに秋斉さんを見上げ微笑んだ。
「もちろんです!」
「こんなに泣いてはるのに?」
そう言って撫でられる目尻がくすぐったい。
「…秋斉さんが泣かせたんじゃないですか」
頬を少し膨らませる私に対して、楽しそうに笑いながら「違えへん」と言う。
「待ってる。慶喜はんも、置屋の子らも…。もう少うしだけ、旦那はんに尽くしてきぃ。ええ旦那はんや」
はい、と頷く。
「その後は、もうどこへも出せへん。○○はんは……藍屋のもんや。ええな?」
ぐっと秋斉さんの腕に力が入ったけれど、私を抱き締める強さに変化は無かった。
私も秋斉さんの袖だけをぎゅっと強く握りながらもう一度「はい」と頷いた。
---------------------
はい、お粗末ながら秋斉さんでした(*´ェ`*)♡
あのねこれね、難産中の難産 笑
最初に慶喜さんに好意を示しすぎた為の難産、あーんそこ計算しとくの超基礎(;´▽`A``
なんとか…
なんとか許せますか?ちょっと主人公ちゃんがだらしなく見えたらごめんなさい、書いてるひとの本能がだらしないんだきっと(゚∀゚ll)。o(ワラットコ)
…という理由で、
当初、予定していた20日をぐだぐだに遅れての公開となってしまいましたが、
丁度ターゲットの弥生さんが岐阜に遠征中とのことで、ちょっと救われました(*´ェ`*)♡ナイス
弥生さん、気をつけて帰って来てね☆
お仕事の繁忙期も「あと少しや♡」(引用)
次のお帰り偏で最終ですー☆