逢いに恋ひの慶喜さんの台詞から
好き勝手に妄想したこばなしです。



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「○○、前においで」



慶喜さんが露店と彼の間に挟むかたちで私を人だかりから庇ってくれる。


引きせられる一瞬だけ腰に回された手にどきっとしながら目の前に並んだ色とりどりの果物たちを見た。


「わぁ!きれいですね、それにいい匂い」


嬉しくなってそう言いながら振り向くと、慶喜さんもにっこりと微笑み返してくれる。



今日は慶喜さんからお誘いをもらって、二人で京の街を歩いている。


何処へ行くという目的も持たずに手を繋いで歩くのがとても楽しい。慶喜さんが連れ出してくれる時はよく二人でこんな風に過ごした。


目新しいものが好きな彼は普段通らない道を選んでは、珍しい商店や新しい景色に興味深そうに瞳を輝かせていたし、


私はその慶喜さんの表情を隣で見ていられること、彼が楽しいと思う時間を一緒に過ごせることがとても嬉しかった。



それに、慶喜さんといるとこちらも小さな冒険をしているようで純粋に楽しい。




今こうして珍しい果物をたくさん並べた露店に出逢えたのも、慶喜さんが連れ出してくれた冒険のおかげだった。



「せっかくだから藍屋へどれか持って帰ろうか。あの楼主のご機嫌をとって、お気に入りの娘への逢状を優先してもらわないと」



慶喜さんに冗談っぽく肩を引き寄せられて、彼の頬が髪に触れた。私は少し頬を染めながら笑った。




「そこの旦那はんと別嬪はんも、どうぞつまんでっておくれやす!」


お店の男性が差し出してくれたお皿を見ると、 一口大に切られた果実が並んでいる。


慶喜さんは空いている左手で、それを器用に二切れつまんで、そのひとつを口の中に入れた。



「へえ、この果実は珍しいなあ。○○も食べてみなよ、おいしいよ」



そう言って、もうひと切れを私の口の前に寄せる。


肩を抱かれて身動きの出来ない私は、慶喜さんのきれいな指と少しだけ悪戯な色のある彼の瞳とを見比べた後、小さく口を開けた。


「もっと」


慶喜さんに口を開けている姿を見られていると思うと羞恥で顔に熱が集まる。


一度口を閉じた後、思いきってもう少しだけ大きく開けると甘い香りとともに果実が入れられた。下唇にちらりと触れて離れていく指先に目を伏せると、肩に置かれていた手のひらで後ろ髪を撫でられた。


「堪らないな」


くすっと笑ってそう言われると、今までなんとかなだめていた羞恥心が爆発する。


「もう!そういうこと言わないでください!」


赤い顔で抗議すると慶喜さんは ごめんごめんと笑って胸元で小さく手をあげる。


そのタイミングで、他のお客さんにも試食を勧めていたお店の人が、さっきとは違うお皿を乗せた手をこちらに伸ばす。


「こっちも香り良く人気どす、おひとつ!」


また彼に食べさせてもらうのは恥ずかしい。

どうぞと出されたお皿に急いで手を伸ばすけど、横からすっと現れた慶喜さんの指の方が素早く二切れの果実を摘まんでしまう。
彼はそれを一つ口に入れて、うんと満足気に頷いた。



「……」


「甘いよ、○○」



意地悪に手を遮られて、呆然とその動作を見ていた私と視線を合わせた彼は、得意そうな顔をしてそう言った。


(甘いって…素直に果実のこと?
…いや、このしたり顔は絶対私にも言ってる…)


「ん?」

小首を傾げる彼に

「…今、秋斉さんの気持ちがものすごーーく、解った気がします」

不服そうにそう伝えると声をあげて笑う。


「…慶喜さんの意地悪」


「敗者はなんとでもいいたまえ。はい、あーん」


ぶうっとする私の口許に寄せられる透き通る香りの果実と理想的な形の指先。


一瞬仕返しに噛んでやろうかなという思惑がよぎったけれど、それも恥ずかしいし面白がって余計にからかわれそうだったし、それにそんな大胆なことをできる間柄でも無いので、結局大人しく果実を頬張る。


口をもごもごさせる私を彼は嬉しそうに見守っている。


(そんな顔で見つめるなんてずるい)


「ずるいな、○○」



今思っていたことを逆に言われて目を丸くすると、少し照れたように笑って話題を変えられる。


「さ、どっちが美味しいと思った?」

そう聞かれて、私は丸くしていた目でパチパチと何度かまばたく。


「あ…」


(…私…。どうしよう)



慶喜さんの指や視線に気をとられ過ぎて
試食させてもらいながら全く果物の味を覚えていないことに気付く。


「○○?」


(…絶対言えない…)


自分のばかさ加減にかぁっと顔が熱くなる。


「旦那はん、どないどしたか?」

「…今食べたもの、どちらももらうよ」


赤い方を何個と…と慶喜さんはお店のひとに頼んで置屋へのお土産を用意してくれる。それを片手で抱えて、もう片方で私の手を引いて歩き出した。


「…あの、慶喜さん。たくさん買っていただ」


お礼を口にする前に振り向いた彼の胸に顔が埋まる。慶喜さんが繋いでいた手を放し私の後ろ頭を抱き寄せたから。



「もっと」



「…?」



「もっと、お前が俺に夢中になればいいのにね。食べ物の味も解らなくなって、暑いのか寒いのかも解らなくなるくらいに」



驚いて一瞬呼吸を止めたけれど、彼の言葉通りに想像してみてちょっと可笑しくなる。


「そんなの絶対嫌だし、慶喜さんもつまらないと思います…」


「はは、本当だね。今日みたいに散歩をしてても、笑ったりはしゃいだりしてくれなくなるのか」


それは困るな…と視線をさまよわせる彼の表情を盗み見る。


「ーどうしたんですか?なんだか…」


「発想が赤い着流しの男みたい?」


「…いえ、あの」


「俺らしくなかった?」


私が慶喜さんらしいなんて、決めつけるのは傲慢(ごうまん)かなと迷ったけれど、感じた通り正直に頷いた。


「…そうだよ、○○のことになると途端に欲深くなるんだ。他のことにはそんなに固執しないのにね。…逃げ出したくなった?」



「…いいえ、ちっとも」


慶喜さんの内側を聞かされる声はひどく居心地が良くて。


私は彼に抱き寄せられているのをいいことに、その温かい胸にそっと頬擦りをした。
彼の衣服に薄く焚かれた上品な香りが鼻孔をくすぐる。私にとってはどんなに香り高い果実のそれより、魅力的で幸せな香りだった。



「これから先、慶喜さんが何を言ったって…私が逃げたいと思うことはありませんよ。」


そう伝えるとぐっと頭を胸板に押し付けられた。


「お前は…本当に、ずるいんだから」














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春になって追加された台詞かな?
弥生ではじめて拾いました。



私は基本
「もしかしたら相思相愛…なのかな?」
というグレーゾーンにこそときめく性質ですが、今回はそれよりもう一歩踏み込んでみました(あれ、どうでもいい?)



人前だよー、お二人しゃん(´゚∀゚`)ゞ