逢いに恋ひの台詞から妄想した
小説というには山も谷も足りないこばなしです。



*台詞のネタバレあります*





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山茶花(さざんか)の濃い緑色の葉に白い雪が映えてきれい。


しっかりとした葉は雪の重みに負けることなく、こうして見てる間にもその上に幾つもの雪片を乗せてその層を厚くしている。


ここではこうして雪が積もることは珍しいことでは無いようで、初めての冬を過ごしている私ももう何度かこんな日を過ごしてはいるのだけど。



空から不規則な動きで舞ってくる雪が、目の前の小さな葉に降り積もるのがなんだか面白くて、

何台かの荷車が通りすぎるのを待つために立ち止まったことも忘れ、ガラガラという車輪の音がとっくに聞こえなくなってからも、その山茶花の隣に立ちすくんでいた。



そんな時、後ろから肩に手を置かれてびくっと全身が跳ねた。


「…!」


振り向いて、そこに居た人に驚いて一瞬言葉が詰まった。



「ー慶喜さん?」


「うん、おはよう○○。なんで疑問形?」


慶喜さんが面白がるように首を傾げる。


「ごめんなさい、突然で、とても驚いて…。おはようございます慶喜さん。」

改めて彼に向き直り、ぺこりと頭を下げる。顔を上げてどうしてこんなところにと聞く前に

「何かあったのかな?」

そう問われて今度は私が小さく首を傾げた。


「思い詰めたみたいに、じっと花を見てた。」


慶喜さんにそう指摘されて、ただ雪が面白くて眺めていた私はきまり悪く答える。


「…いえ、そうじゃないんです。あの、私の故郷では、こうして雪が積もることがあまり無かったので、こんな小さな葉っぱの上に、雪が積もっていくのがその…すごいなって…」


慶喜さんに説明しながら、先ほど見ていた葉の裏側から人差し指でそっと触れると、厚く積もっていた小さな雪の層がパサッと音を立てて下に落ちた。


その落ち方さえ珍しくて、つい地面の雪に混じるまで目で追ってしまった後、慶喜さんの方を向くと彼は私を見て少し困ったように笑っていた。

その顔を見てしまったと我に返る。


「ーご、ごめんなさい、私、秋斉さんのおつかい中にこんなところで油を売って…あの、急いで置屋にー」

こんな風に仕事中にバカみたいにぼうっとしてるところを見られて、慶喜さんに呆れられたかと思うと恐ろしくて赤い顔でわたわたと取り乱す私の手を慶喜さんがすっと掬(すく)った。


「違うよ○○、そんなことはどうでもいいんだ」


急に触れた慶喜さんの手の温もりに驚いて、「どうでも…」と彼の発した言葉の一部をバカみたいに反芻してしまう。


「そう、どうでもいい」


はっきりと言い切る慶喜さんにどうでもいいことは無いんじゃ…と頭のどこかで思いつつ、じゃあ先ほどの困ったような表情はなんだろうとおずおずと彼の瞳に問いかける。



「○○は自分が可愛いってこと、本当にわかってる?」


「……」



慶喜さんの言葉が予想外すぎて、素直に頭に入らない。


「…なん…ですか?」

「ほら全然わかってない」


慶喜さんはひとり拗ねたように、私を責めるように口唇を尖らす。


「……?」


「見てたよ」


「……え?」


「何人もの男が足を止めてお前を見ていた」


彼の言葉の意味よりも早く、その可愛い表情に思考を支配されて胸がドキドキと主張し始めた。遅れて言葉の意味が脳に届く。



「ーそんなわけ」
ないじゃないですか、と言う前に慶喜さんの声が重ねられる。

「俺の右肩越しに見える団子屋の前」

(慶喜さんの右肩越し…?)


なんだろうと思って目を向けると、甘味屋の前に立っていた二十歳くらいの男性二人と目が合った。男性達は気まずそうにそそくさと店の中に入っていく。



「それからお前の真っ直ぐ左」


言われた通り真横を向くと、今度は枡屋さんくらいの年齢の男性が一人。でも雰囲気はどちらかというと新撰組の原田さんのようなサバサバとした色気の男性で、私と目が合うとおっという顔をして片手を上げてにかっと笑った。


びっくりしてその男性に曖昧な会釈だけを返して、視線を慶喜さんに戻した。


「……」


混乱した私の沈黙と、それを意地悪に見守る慶喜さんの沈黙は彼のため息混じりの言葉によって破かれる。


「大変な娘を好きになってしまったな」


私の中で本気にするなと警笛を鳴らす防衛軍と、後で傷ついてもいいから信じてしまいたい気持ちとがせめぎ合う。


「心配だから、秋斉にお前をつかいに出さないように頼もうかな…」

「け、慶喜さん…」

我慢出来なくてかあっと熱を持って俯く。



「だって、途中で雪見て遊んでるんだもん」


「そ…そっち?!」


赤い顔のまますっとんきょうな声を上げた私に、慶喜さんは腰から上を少し前に曲げてあははと笑う。



からかわれてむぅと膨れた頬を軽く引っ張られる。彼は私のそのまぬけな顔にもう一度くすりと笑った後、



「そっちじゃないよ、独占欲の方」



と言って、いつの間に手に持っていたのか、雪を払った白い山茶花を私の耳の上にそっと挿した。










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記録的な大雪が降った記念に雪妄想 (*´艸`)


もしかして山茶花、
耳の上に挿したら痛いかな…((゚Д゚))