逢いに恋ひの台詞から妄想した
小説というには山も谷も足りないこばなしです。



*台詞のネタバレあります*





---------------------






(良かった…今日はなんだか元気そうだな)


新造の女の子達に囲まれるようにして歩いている慶喜さんの横顔を見てそう思う。



安堵のため息は冷たい空気を一瞬白く染めて消えた。




今日、私や花里ちゃんを含む藍屋の新造は、楼主である秋斉さんに連れられて、山の上のお寺へ参拝に来ている。

なんでも芸事の上達にご利益のある弁財天が祀られているそうで、時々こうして新造が集められ参拝に来ているそうだ。


参拝の後は町に降りてお茶屋さんで甘いものをご馳走してもらえるのが恒例らしく、参拝が目的なのか優しい楼主が新造の女の子を労ってくれる為か…


慶喜さんの隣で話している秋斉さんのクールな表情からは読みとることが出来ないけれど、なんとなく後者のような気がして、胸がじんわりと温かくなる。




「なんやあの娘ら、慶喜はんと一緒やからってはしゃぎっぱなしや」


「あはは、秋斉さん効果もありそう」


「確かに…旦那はんも男前やし、二人が並ぶとなんや絵になるもんなぁ」




私と花里ちゃんは他の女の子達の勢いに気圧されて、皆の少し後ろを二人で並んで歩いていた。




「せやけど、慶喜はんも気の毒に…」


「ー気の毒?」


不思議に思って花里ちゃんの方を向くと、大袈裟に呆れた顔をされる。


「…慶喜はんが何のためにわざわざ着いて来はったんか、解ってへんなんてこと、あらへんよね?」


素直に「え?」という表情を出してしまうと花里ちゃんはまた「あかん、こら気の毒やわ」と苦笑する。







朝、身支度を終えた私達は置屋の玄関で秋斉さんのお仕事が終わるのを待っていた。


その時、慶喜さんが暖簾の外から現れた。
綺麗なアーモンド型の目で私達を映して、
「今日は皆揃いでどうしたの?」と聞くと
女の子達は頬を染めて口々に答えた。


それを聞いた慶喜さんは私の方をじっと見ながら、「ふーん」といたずらを思いついた子供のような顔をした。


「あの顔はなんや考えとるで」と耳元で囁く花里ちゃんに小さく頷いていると、彼はいつものように秋斉さんの部屋へと入っていった。




その少し後、頭の痛そうな秋斉さんを連れて戻ってきた慶喜さんが、参拝に同行してくれると言うので、楼主の手前遠慮がちに女の子達が歓喜の声をあげていた。






もちろん私も、
とてもとても嬉しかった内の一人だ。







「○○はんも慶喜はんと話したいんとちゃう?」


「うん…でもこの場所もいいの。横顔が思う存分見られるのも嬉しいし、花里ちゃんと色々話ながら歩くの楽しいもん。」

「○○はん…確かにそやね!」

顔を見合わせてくすくす笑い合った後、またどうしても慶喜さんの横顔を目で追ってしまう。




最近はお仕事が忙しいのか、前よりも疲れた様子の時が多い。置屋で偶然会う時も、お座敷に呼んでくれる時も…。だけど、私と話を始めると彼はその疲れを隠してしまう。

いつも自由奔放なようでいて、
いつもいつも、周りに気配りをしている彼らしいけれど、私はその距離を寂しく感じ始めていた。

彼が隠す以上、私はずかずかと踏み込めない。

だからこうして、こっそり彼の様子を伺うことが癖になってしまった。


(でも、今日は顔色もいいし、よく笑ってる…)




慶喜さんの明るい表情につられるように
にやけてしまいながら歩いていると、
突然彼がこちらを振り向いたのでドキッと大きく心臓がはねた。





「○○、そこの段差で転ばないようにね」





「ーえ?段…きゃっ!」




まんまとつまづいて花里ちゃんに支えられた状態で、しまったと思う。

(…なんて間抜けな姿を…!)

恥ずかしくて花里ちゃんに捕まったまま固まると、慶喜さんがぶっと吹き出した。

かぁっと頬が熱くなる頃には、彼はあははと笑いながら皆の元を離れこちらへ近づいてくる。

花里ちゃんに謝って立ち直すけど、慶喜さんの顔を直視出来ない。



「お前はほんとに…。」


「…ごめんなさい。せっかく教えてくれたのに」


「何も謝ることなんかない。俺は○○のそういうところが堪らなく愛おしいんだから」


慶喜さんはそう言って俯いていた私の頭にぽんと優しく手を乗せた。

戸惑いながら慶喜さんの顔を見ると、思っていた以上に至近距離で驚いたけれど、困ったように笑う表情が可愛くてじっと魅入ってしまう。


それに気付いた慶喜さんは少しだけ照れたように私の頭をぐしゃぐしゃ撫でて、その手で今度は手を握る。


「お前の大好きな花里を巻き添えにするよりいいだろう?それに、近くで見た方が、俺の調子もよくわかるんじゃない?」


「!…っ」



 
慶喜さんも巻き添えに出来ません、

その前にもう転びません、

なんでそんなに何もかも解ってるんですか、

いつからですか。

手が!



言いたいや聞きたいことだらけなのに、
口から出る言葉はひとつも無く、
ただ馬鹿みたいに唇があわあわと動く。



慶喜さんはそんな私ににっこり微笑むと前を向き、こちらを振り返って唖然としている女の子達に向かって「さ、もう少しだよ」なんて暢気な声をかけて歩き出す。




「良かったやないの」

と耳打ちしてくる花里ちゃんの声が、本人が思ってるよりも大きくて「わー、わー」と無意味な音を出して打ち消す。


繋がれた手の方からくすくすと慶喜さんの笑い声がする。聞こえた、だろうなぁと思っていると案の定、

「良かったの?」

手の繋がりを私の目の高さまで持ち上げられて、そう問われるので観念する。

「…良かった、です。慶喜さんがこうして手を繋いでくれているのも…元気そうなのも。」

慶喜さんは繋いだ手にぎゅっと力を込めて、私を肩がふれるほど近くに引き寄せた。

「お前は…可愛いね。心配してくれるなら、こうしてちゃんと俺のそばにいて」

慶喜さんが伏し目がちに囁いた言葉はまた、冷たい空気を一瞬だけ優しく白く染めた。











---------------------




慶喜さん小説か、花里ちゃん小説か、
際どいところですな…


逢いに恋ひやってると、
一見そんなにときめかない台詞こそ
どうしてこの言葉を言ってるのかが
気になって、スイッチ入っちゃう (∩∀`*)

恐らくどエムだからでしょうね…




とにかく、

慶喜さんの白い吐息燃え(変態)