【16 アルニコ対フェライト、磁石の違いで音質は?】で違いは判りました。 

ですが、元々は、磁石の種類によって音が違うとは思っていませんでした。 

大昔は、スピーカ用の磁石にアルニコが使われるのは当たり前でした。 

(と言うか、アルニコと、一部に励磁型が存在するだけだったと記憶してます。) 

HiFi用に限らず、テレビ用、携帯用トランジスタ・ラジオもアルニコだったのです。 

 

アルニコ磁石は、鉄にアルミ(Al)・ニッケル(Ni)・コバルト(Co)等を加えたものです。 

ところが、コバルトが60年代以降に産地コンゴ動乱の影響で価格が暴騰しました。 

その為、供給が安定し安価なフェライト磁石に急速に置き換わっていったのです。 

 

私自身は、フェライト磁石を使ったスピーカを意識したのはfoster FE103が最初です。 

電気のパーツ・ショップで売られていた物を見て「なんと大きな磁石!」と思いました。 

受けたイメージから「磁石が大きくて強力なら良い音が出そうだ」と思ったものです。 

(当時は、そのように思った人が多かったように思います。なので、急速に普及) 

 

磁石は、ボイスコイルが有る磁気ギャップに直流磁界を発生させるのが役割です。 

どんな磁石でも同じと思っていました。 

ボイスコイルに流れる音声電流に依る交流磁界は直流磁界に対する外乱となります。 

その関係性は、磁石の種類に依らず同じような振る舞いをするのだろうと思いました。 

なので、「磁石で音は変わらない・・・だろう?」と考えていました。

 

ですが、DAT(Digital Audio Tape)の技術開発中に「ある事」に遭遇しました。 

私たちが使っていた磁気ヘッド(回転ヘッド)はセンダストのラミネート型でした。 

(センダスト合金(抵抗値が小)の薄板を重ねて渦電流損を減らしたヘッドです。) 

他の多くの会社が使っていたのはフェライト・ヘッドでした。 

(渦電流損が小さいので、高周波特性に優れる。(DATの最高周波数は4.7MHz)) 

 

商品化前のEIAJ合同テストで、CN比の値や、信号波形の比較が行われました。 

(DAT懇談会の実験ワーキンググループに参加し、毎月のように出席していました。) 

他社と比較して、CN比の値で3dB位低く、波形(アイパターン)もノイジーでした。 

ところが、エラー率の評価では何故か、我々が最良(最小)でした。 

この頃は、「何故だろう?」と疑問を持ちました。(他社からも不思議がられました。) 

 

ある日、フェライト・ヘッドのサンプルが手元に来ました。 

早速、CN比を計り、波形も眺めました。 

どちらもセンダスト・ヘッドよりも良いのです。 

当然、信号の質が良くなったと考えられるので、エラー率の低下も期待しました。

 

ところが、何故かエラーが増えた!!! 

ヘッド以外は、ほぼ同じシステムだけに不思議でした。 

原因調査で現代のようにネット検索でパッと情報が得られる時代ではありません。 

(初号機の発売が1987年で、Windows95出現の8年も前の時代です。) 

あらゆる情報は、殆ど書籍等の紙ベースが当たり前なので調べる事自体が大変です。 

 

どうやって調べたのか記憶が曖昧ですが、ビデオの事業部に訊いたような気がします。 

得られたのは「フェライト・ヘッドはテープと擦れる時に【摺動ノイズ】が出る。」でした。 

これは、連続して出るホワイト・ノイズのようなものではなく、単発性のもののようでした。 

CN比の測定値や波形では良好なのにエラーが増えるという現象になったのでしょう。 

そう言えば、我々の会社の最高級ビデオデッキはセンダスト・ヘッドだったような・・・ 

 

これを知った時に「フェライト」という材料に不信感を持ち始めました。 

【摺動ノイズ】の原因は、機械的な外力がフェライト・ヘッドに加わる事です。 

スピーカではどうでしょう?(アルニコは合金、フェライトは焼結体という違い有り) 

スピーカ自体が発音時に振動し、磁石に機械的外力が加わるのは当然の事です。 

アルニコなら問題無くても、フェライトではノイズが発生しても不思議はありません。 

 

これが、【16 アルニコ対フェライト、磁石の違いで音質は?】の原因かもしれません。 

技術データで証明する事は出来ませんが、オーディオの世界では聴けば判ります。 

「やっぱりアルニコが良いなぁ」というのは『正解』のような気がします。

 

 

おまけ 【アルニコの減磁と再着磁について】 

 

ネット上で磁石メーカーのサイトでアルニコ磁石の減磁について調べました。 

どうも年当たりの減磁の数値ははっきりと書かれていません。 

アルニコの場合「パワー減磁」に気をつける必要がありそうです。 

(プロ用で、屋外PAは無茶苦茶にパワーが入るので要注意だそうです。) 

但し、家庭で楽しむパワーなら、まず問題になる事は無さそうです。 

 

どこかのサイトで10年での磁力の低下率が0.2%以下というのを見た気がします。 

50年経っても1%以下なので、全く問題無さそうです。 

指針式メーターの磁石はアルニコですが、劣化したとは聞いたことがありません。 

 

スピーカの場合、フルレンジやウーファではQ0の値を測れば推測出来ます。 

磁石が弱くなるとQ0の値が上昇し、パワーアンプでの制動が効き難くなります。 

メーカーの発表した所謂カタログ・スペックに対して大きくなってなければOKです。 

私は手元のJBL 2115やfoster 10F3を測定していますが、全く問題ありません。 

【16 アルニコ対フェライト・・・・・】で音量は同じなのも減磁していない事を示しています。 

 

という事で、正常に扱われたアルニコ採用のスピーカは、多分、再着磁は不要です。 

 

 

オーディオは面白い!! オーディオは科学です!!