大変音の良いFET入力・FET出力の低歪A級BTLパワーアンプの製作紹介です。
理屈上、電源に信号電流が流れず、電源系(~送電系~発電所)の影響を受けません。
なので、大変音の良いパワーアンプとなりますが、回路数が2倍になるのがデメリットです。
A級BTLと言えば過去にはYamaha BX-1やマークレビンソンにも採用されていたと思います。
大出力のものでは、消費電力も大変大きくなり、発熱も凄いので導入を躊躇います。
(おまけに多くは高価格! 筐体も大きく、非常に重い!)
そこで、気軽に使うのに適した小出力のものを、しかも安価で作ってみる事にしました。
目標最大出力は5W程度で、形式は、【DC結合A級BTL方式】で出力素子はMOSFETです。
通常、出力段の電流調整を必要としますが、今回は無調整であり、安定度は抜群です。
回路は以下のような単純で簡単な構成になっています。
【回路図】
尚、ACアダプタ、オペアンプIC、出力用パワーMOSFET等は秋月電子通商の通販で購入
電源の8200μFは3300μF程度でも多分OK(オーディオ用である必要はありません。)
220μFは一般品の電解でOK、68μF(33μFでもOK)・0.47μFはタンタル電解です。
パワーMOSFET用の放熱器は、1個当たり10℃/W以下のものを2ch分で計8個必要
筐体は、電源部の壊れたTechnics SE-C01という小型パワーアンプですが、何でもOKです。
このアンプは横295mm、奥行245mm、筐体の高さが僅か43mmという小型製品です。
電源回路がスイッチング方式で、ここが壊れているものが時々ヤフオクに出ます。
そういう訳アリ品を落札して、内部を入れ替えて作りました。
【設計の方針と内容】
1.電源は汎用の12V・4AのACアダプタ、1/2分圧して中間電位を作ってGND用とします。
BTL方式のパワーアンプとする事でスピーカ出力を取り出す電流はGNDに流れません。
2.回路構成は、極力「音声電流の成分」が電源に流れないように工夫します。
前回同様、採用した方式はBTLですが、今回は最大出力までA級動作にしました。
BTLアンプの場合、正相と逆相の各アンプの信号の電源電流の位相は逆になります。
B級のように歪まず、位相が逆なので、合算した電流は理屈の上では直流になります。
この状態で動作させれば、スピーカに流れる電流は電源回路の影響を受けません。
理想的動作ですが、代償はアンプの回路数が2倍、A級故に消費電力大となります。
前回回路がスッキリせず、今回は正相・逆相共に出力系は反転アンプとしました。
又、入力抵抗を大きく(約1MΩ)したので、ケーブルの影響が小さい筈です。
3.オペアンプには、周辺回路に与える制約が少ないFET入力のものを使います。
今回は、TIのOPA1652を使いました。(SOPなので、DIPへの変換基板使用)
4.音声信号が通過する抵抗で負帰還ループ外は極力音質低下の少ないものにします。
昔入手した進工業の角板型金属皮膜抵抗器を使っています。(銅リード)
5.電源ON-OFF時のノイズ防止・短絡保護にカチカチと煩いリレーを使わずに済ませます。
低電源電圧で動作するOPアンプを使い、BTL構成とする事でポップノイズは出ません。
電源に保護機能付の汎用ACアダプタを使うので、出力短絡も問題ありません。
★この回路で工夫したところは、出力MOSFETのゲート・バイアス電圧の与え方です。
使用したFETは、今回のアイドル電流でゲート・ソース間に約2.5V与える必要が有ります。
普通ゲート・ドライブ段の電源電圧をかさ上げしますが、それでは電源が複雑になります。
そこで、C9、C10にその2.5Vを保持させる事で、大振幅時は電源電圧を超えて振れます。
当然DCに対しては効かないので、DCの最大出力は小さくなります。(むしろ好都合)
R9~12までの抵抗値に対して大きな時定数となるようにC9、C10の容量は設定します。
尚、C9、C10は負帰還ループの中にあるので、音質的な影響は殆どありません。
【内部の様子】
【出来上がりの外観】
針式のパワー・メーターを付けました。(照明付き)
【性能】
■結局、無歪最大出力は 4.5W x2 となりました。(20Hzでの出力低下は無し)
■出力4.5W時の入力電圧は約1Vrms
■F特はDC~20kHzで平坦
■残留ノイズは0.2mV
■出力4.5W時の高調波歪率は0.01%以下
■1kHzで1V出力時のSP端子における出力抵抗は0.16Ω(ダンピングファクター50)
*基板上の出力部ではダンピングファクター1000以上
■容量負荷0.1μFでも安定性に問題無し
■消費電力は32W(無信号時) 30W(4.5W x2出力時)
■スピーカの微小音直線性改善の為、DC電圧を約30mV出しています。(R25~27、C15)
*スピーカに10F3を使う場合に適した電圧で、余韻が長く伸び、奥行感が増します。
*JBL 2115 を使う場合は100mV位は出した方が良さそうな感じでした。
*直線性の測定を試みましたが、あまりに小さな音量領域なので不可でした。
歪感少なく、定位良く、空間の拡がり良く、非常に良好で、個人的には大満足です。
前回のMU-A051の改造DCアンプの音よりも更に良くなったと思います。
7/14 追記(上記7/5記載内容に追加)
高調波歪率の測定結果のグラフです。
4.5W以下では、どの周波数でも0.01%以下です。
(10kHzについては、測定可能周波数の上限が20kHzなので、2次高調波のみ測定)
(何故かSE-C01のSP端子を通ると歪が増えるので、基板上の出力部で測定)
録画していた音楽番組を真夜中に楽しんでいるところです。
左端は電力計で、この時点で32W弱を示しています。