1人旅

出発の日の朝、一睡も出来ずに、痛み止めも効いてなく、天気も悪い朝。

お薬は余分に持って行っておこうと思った。

何かあったらいけないからと、着いてからの近くの病院も調べておいた。


駅に行くのは疲れる事を考えて、タクシーを使った。

車椅子は軽いとはいえ、私が1人で持つのは不可能だ。


タクシーの中で、手の痺れと脚のつま先の痺れが酷い事に気がついた。

天気が悪いから、仕方ないと思う事にした。

時々痙攣したみたいになった。

コレはあんまりないから、少し不安になった。

でも、私は1人で何かをしようとする事に夢中になりたかった。

地元のライブに行く時のような高揚感はなく、不安と、真っ黒な水に首までつかっているようで、心臓がドキドキした。

初めて、車椅子で JR の切符売り場で切符を買う。

券売機はよくわからなかったから、並んだ。

握力はほとんどないから、右脚で地面を蹴りながら移動していた。

混んでいるからか、乗り換えなしの時間の新幹線に乗り遅れた。

この時点で私は時間というより自分の吐き気と戦っていた。

痛み止めが効きにくい時によく吐き気が来る。

しかも昨日は寝ていない。また並ぶ事を考えると、もう我慢するしかないなあ、と思った。

職員さんは、吐き気のせいで無表情な真っ青な顔の車椅子に、とても親切だった。

ホームまで連れて行ってくれた。

スロープをセットしてくれて、優しく乗せてくれてくれて、

「もう今度の駅の駅員には連絡してありますから、大丈夫ですよ」

お礼を言うのがやっとだった。こんなに親切な世界があるんだと思った。

とにかく吐き気をなんとかしたかった。

自由席を取った。座れなくても、車椅子で通路にいる事が出来るだろうとそちらを選んだ。

長い時は座席に移ろうと思っていた。

乗り換えたら長いから、事前に電話で聞いていた、一番後ろの席にしてもらい(空いていたらだけど)車椅子を座席と壁の隙間に入れてもらえる事までは考えていた。

吐き気は少し治まった。動いてからが勝負だなあ、と思っていた。

ビニールは持ってきているが、さすがに吐くかもしれない時にどうしたらいいのか、はトイレに間に合うようにする、という方法だけだった。

私の車椅子は、オーダーメイドではない。そこまでの予算はなかった。

とにかく軽いのを選んだので、おそらくベビーカー位の重さではないかと思う。

そんな感じで、私は少しだけ背が高いので、車椅子の足乗せをかなり低くしているのだが、太ももが浮いてしまう。

家では少し厚いお座布団を引いているのだが、そんな荷物になる重たいもの、持ってくる訳がない。

案の定、お尻に一定の負荷がかかるので痛くなってきた。

でも、すぐだし大丈夫…と思っていたら、静かに座っている分にはいいのだが、乗り換えで駅員さんが運んでくれる時に、意外にフラットに見えてそうではないホームはがたがたとゆれる。い、意外に痛いのだな…。

視覚障害者の方の命綱の点字ブロックは至る所にあるので、それは避けようがない。

点字ブロックがなかったらあの方達はホームに落ちてしまうだろう…おそろしい。

実際に落ちた人の話を聞いているので、あれはなくてはならない。

考えた人天才だ。


しかし、乗り換えのホームが遠い遠い。私1人では新幹線は行ってしまっていただろう。

駅員さんにお礼を言った。振り向けないのはもどかしい。

新幹線のかっこいい制服の車掌さんに引き継がれる私。

制服はなかなか女性の心をわしづかむアイテムだ。

バカな私は、震える手で、すぐにバカなメールを打ち吐き気の嵐の中、片想いの相手に送った。本当に、受け取った相手の心中お察しします、という感じだ。

簡単に言えば、その人がそれを着ていたら、後を着いて行くだろうとか、その程度の、起き抜けに読んだら脱力して、さわやかな朝を返して欲しいと訴えられても、敗訴間違いなしなアホメールだ。

新幹線にこんなに長い時間乗るのは初めてで、ドキドキした。


その人が、携帯の充電をしたいから、窓際を待っていたと何ヶ月も前のメールで言っていた事を思い出した。なるほど、コンセントが使えるんだあ~。足元なので、気がつかないなあ。と幸せな気持ちになったりした(はい、アホですけれど何か?)


しかし、まさか窓際がいいとも言えずに、携帯もばっちり充電してしまっている私は、静かに一番後ろの通路側に座っていた。

ここで、吐き気には最高の威力を表す、「睡魔」が訪れた。

私はよく、コレを心の中で「水泳選手」と呼んでいる(スイマーだから…スイマせん。)


しかし、寝ている時にクラッチに顔をつけて寝てしまった私は、起きた時の衝撃に思わず写メを取って晒してしまおうかと思う。クラッチの後がほっぺに…もう跡がついたらなくならない私のほっぺにっ!!

コレは憧れの人には送れないわ…とあきらめたけれど、なかなかの面白い顔になっていたので、やはり1枚くらい写真にしておくべきだったかなあ。


新幹線を降りたら、また乗り換えで、県をいくつ超えようが、JR の駅員さんや、民間の駅構内に入っているスタッフさんに抜かりはない。

本当に素晴らしい連携プレーだ。

そして今度は電車だ。同じ JR なのになんだこの広さは…1人じゃ迷子間違いなしだ。もう何回エレベーターを使ったのか分からない…やさしい女性のスタッフさんでした。


私は、車椅子に乗ってるし、何もしてないはずなのに、あり得ないくらい疲れていた。

座っているだけでやっとだった。

体幹が弱いので、うっかりすると転げ落ちてしまう。

車椅子にしがみついてると言う感じがした。

そして、やはり初めてなので、申し訳ない気持ちも出てくる。

自分が介護していた時には「なんにも申し訳なんてないよ~」と言っていたが、やるのとされるのは大違いだ。

でも出来る事は「ありがとうございます」だけだった。

痛み止めが効かない事も気になり出した。

次の痛み止めが効かなかったら、ライブに行けないのではないかと心配になった。

この状態ではどうしても首が上がらない。何の為に立つ練習していたのか分からないではないか。

最悪、二回分一気飲みまでは考えていた。

ところで、次の電車では、お尻は痛いが車椅子に乗っていた。

そんなに長いとはあんまり考えてなかった。

そして、海が見えた。

島とか、船とか、灯台とか。

私は窓に子供のようにしがみついていた。

楽しくて、幸せだった。

リハビリの先生や治療の先生が「絶対にダメ」と言っていた理由は嫌という程わかった。でも、私の精神状態は以前のように、アホな私に戻ってくれたよ?

吐き気とか、痛みとか、そんなのでは縛れない私を見つけられたように感じた。

まあ、降りてからもタクシーの運転手さんや、ホテルの人に迷惑はかけてしまいましたが、タクシーの人が、車椅子に空気が入っていない事に気がついてくれました。

ホテルでは空気入れはないとの事でした。




そして、初めての地で私がした事は、トイレにかけこみ思う存分吐いてしまうと言う、なんとも病人らしい事でした。



確か、15:30くらいには着いたのかな?

そして吐いて、フラフラでアラームかけて、少し横になろう、あ、その前に無事に着いた事をメールしよう…メールをして、アラームをセット…メールを送った後から記憶がない…


目が覚めたら

16:59…


「ん?5時??」

ライブの入場は 17:30~18:00



着替えもしてない!


「きゃあ~~~!寝過ごしたっ!!」


と、とりあえず血迷った私はメールをした。




次は「3」で。

ライブ編。