☆ 食生活は運命を変える!? ☆
【食は命なり】~ 水野南北(江戸中期の観相学の大家)
         (1760~1834)
 
 江戸中期の 偉大な観相見に 
 「水野南北」という 人物がいました。
 彼は、
 『食は命なり』 という名言を残しています。
 「飲食により、人間の運命が変わる」
 という意味です。
 
 水野南北の経歴は それだけでも 数奇な人生です。
 両親を早く失い 
 子供の頃より 盗み 酒を覚え
 長ずるに 酒と博打と 喧嘩に明け暮れ
 18歳の時、酒代ほしさに 押し込み強盗をしでかし
 とうとう 牢屋に 入れられました。
 
 ところが これが 観相学への第一歩となったのです。
 
 南北は 牢屋の中で
 罪人たちの顔を まじまじと 観察して
 ある事実に 気付きます。
 それは 
 「人の顔には それぞれ相がある」
 ということでした。
 
 入牢している 罪人たちの顔と 
 娑婆に過ごす 一般人の顔とでは、
 その特徴に 著しい相違が ありました。
 
 この時点から 南北は
 観相学に 興味を持つ様に なります。
 
 出牢後、大道易者に
 「剣難の相がある。1年は生きられない
       死相が出ている」と告げられ
 その災いから逃れるため 禅寺へ行き、出家を願い出ます。
 
 住職に
 「1年間、米飯を口にせず、
  麦と大豆のみで過せたら入門を許す」と言われ、
 南北は 生命の危機の恐怖から
 好きな酒も ぷっつりと絶ち
 麦と豆を常食にし、川仲仕をして暮らします。
 
 
 1年後、易者と再会し
 「不思議だ!剣難の相が消えている!!
  何か大きな功徳を積まなかったか」と聞かれ
 別に 何もしなかったが
 食事を 麦と豆だけにしたことを言うと、
 「食を節することは 天地に陰徳を積むことであり
  それにより 知らず知らずに 天録が書き換えられ
  相まで変わったのだ」と教えられました。
 
 
 これが契機となり 観相学に興味を持ち、その道を志します。
 まず3年間、散髪屋の小僧になって 頭の相を研究。
 次の3年間、風呂屋の三助をして 裸体を観察。
 これで 生きている人間は 「よし、解った」と。
 
 さらに3年間、
 火葬場の隠亡(おんぼう・・・死体を処理する人)をして
 死者の骨相や 死因がわかっている死体を観察。
 
 これ以降も 研究を積み重ね 学究の徒と 化していく。
 神道や 仏教から始まり、儒教、史書、易まで網羅する。
 
 南北の名である 南と北は 火と水であり
 陰陽 すなわち「易」である。
 
 しかし そこまで研鑚を 積み重ねても
 従来の観相学では 百発百中とはいえず 悩んだ末に
 伊勢の五十鈴川で 断食水行50日の荒行を行い 
 断食のさなか 天啓が訪れる。
 
 『食は命なり!』~「人の命運は総て食にあり」
 
 南北は喝破した。
 美味大食を戒め「慎食延命法」を説くに至る。
 
 以後、観相にあたっては
 必ず詳細に その人の食生活を聞いて 占断を下し
 外れることが なかったという。
 
 また凶相の者でも 食生活を改善することにより
 運を変えることが 出来るとし
 『南北相法極意』を執筆、
 後『相法修身録』と改題し 刊行され 広く世に知られた。
 
 
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 結論として
 水野南北の教えの要点は、
 いかなる良相・吉運・健康な人であっても
 常に美食をし、十二分に食事をしたならば
 悪相となり 凶運短命となる。
 
 如何なる悪相・凶運・病弱の人でも
 口にする物を節し 食事を腹八分目にする人は 
 良運となり 健康長命となる、という事です。
 
 
    ◆ エピソード ◆
 
 南北は 人相観に似合わぬ悪相であったため、
 地方などへ行った際
 偽物と間違われることが しばしばあった。
 そのため自分の人相書を 門人に画かせ、
 それに身体の特徴を記入して 持ち歩いていた。
 
 
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閑話休題。
わたしは50年以上ながく、
毎年1回、一週間程度の断食を行うが、
それとは別に、週末断食とか1日断食も、
年に数回行っている。
修行と間違えられそうなのだが、
わたしにとっては身体の大掃除であり、
暴飲暴食の「罪滅ぼし」であり、
はたまた「道楽」でもある。
断食は人間の生存本能を呼び覚ます
一つの方法であろうか。
『食は命なり』の食は、
「正食」と「断食」で
表裏一体なのだと、わたしは考えている。
 
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  南北の「食を慎む」教えは、
 「独りを慎む」~『中庸』 に通ずるものです。
 
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          参考資料
 
 ※ 水野南北 著「相法極意修身録」
 
 ※ 水野南北著・玉井禮一郎訳「食は運命を左右する」
       (「相法極意修身録」の現代語訳 )
 
 ※ 小説「だまってすわれば―観相師・水野南北一代」
         神坂次郎著