身体障害者手帳申請について 

身体障害者福祉法・第15条による障害者手帳の交付は、病体生理等の明確化とは関係なく、固定された「障害」に対して交付されるものです。
障害者手帳交付後、自治体により障害区分を認定されると、様々な支援(身体介護・買い物などの家事援助等)が受けることができるようになります。

過敏症については国会において以下のような答弁がありました。

2017・2・22 第139回国家予算委員会
以下、環境疾患過敏症患者について
①災害時の避難行動要支援者名簿に過敏症患者も登録すること
②災害避難所に患者用のクリーンルームの設置を積極的に対応すること
③経済的に困窮する患者は生活保護の加算が認められること
④障害者差別解消法で定める障害者の対象になること
⑤障害年金の対象になる

2024・2・27 衆議院予算委員会第5分科会
①障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供が義務化され、化学物質過敏症も障害者差別解消法の対象である。改正後の障害者差別解消法 第8条第2項に則って、意志の表明があった場合には、柔軟仕上げ剤等、香料に対する配慮も合理的配慮の提供にあたる。前例がありません、特別扱いできません、といったことは発言してはならない。
②ケアプランがあるにも関わらず介護サービスの提供がされないという事態があってはならない。提供が困難であると認める場合には居宅介護支援事業者へ連絡適当な他の事業者の紹介等の必要な措置が速やかに講じられなければならない。
③過敏症は障害者であり、香りによって症状が悪化することは間違えない。香りに対する合理的配慮は必要である。内閣府では、障害者差別に関する事例データベースに化学物質過敏症に関係する合理的配慮、不当な差別的取り扱いなど今後加えていく


1、一般的な身体障害者手帳申請の流れ

・自治体窓口で申請書・対応する診断書をもらう。
・都道府県知事認可の指定医に診断書を書いてもらう。
・自治体を通して都道府県知事に申請する。
・却下された場合には3ヶ月以内に、都道府県知事に対し審査請求をすることができる。


2、環境疾患・過敏症障害の障害者手帳申請の問題点

1)制度上の問題 診断書を何にするか?

環境疾患過敏症・障害単独での手帳交付は困難な状況にあります。
手帳交付が困難である最も大きな原因は、「過敏障害」という新たな概念による環境疾患過敏症・障害が現在の担当科目(障害)にないことです。(障害年金申請は過敏症専用用紙ができました)

そのため、「過敏障害」という固定された障害ではなく、暴露によって変動する「様々な症状のうちの一つ」で申請することを余儀なくされています。これは「過敏障害の申請の際は、【もっともひどい症状】で申請してください」という厚生労働省の指示によるものです。
本来申請は【固定された過敏障害】で申請するべきところ、【変動する随伴症状】で申請しなければなりません。「固定された障害」で申請という本来の手帳申請に反する状況が起きています。

過敏障害によって引き起こされる症状は、全身に多岐にわたりその症状は変化するものです。「過敏状態」が固定された障害であり、症状は暴露によって再燃し、暴露する化学物質・電磁波によっても変動します。現代社会において、化学物質・電磁波等を完全に排除することは困難であるため、常にこれらの症状は混在して継続します。変動・変化する様々な「症状」のうちの一つで申請しなければならないという厚生労働省の指示は過敏障害の障害の状態にも手帳申請の申請方法にも合致していません。
「過敏障害という固定された障害」ではなく、上記のようにやむを得ず、暴露によって「変動する症状」で申請するわけですから、【障害(症状)に永続性がない】ということを理由に申請は却下されてしまいます。
「症状」で申請しているわけですから、本来の申請とは異なる申請をしているわけですから、これは当然といえば当然な結果です。
このような理由で過敏症の手帳交付が困難となっています。
新しい過敏障害という障害に対し、現状にそぐわない法律を改正する事が早急に必要です。


2)自治体窓口での対応

診断書は自治体・福祉事務所等でもらうことができます。
障害によって診断書は異なります。
ですが、まず対応する自治体職員が環境疾患・障害を知らない、そして過敏障害専用の診断書もないため、「環境疾患では障害者手帳申請はできません」といわれてしまいます。そのため、多くの過敏障害者がこの時点で手帳をあきらめています。

過敏障害の診断書がないわけですから、現状では厚生労働省の指示通り、「もっともひどい症状」での診断書をもらうしかないので、症状と診断書を照らし合わさなければなりません。
過敏障害ではなく「ひどい症状」というおかしな申請をしなくてはならないため、過敏症についての知識がなく医師でもない自治体職員と障害者とが相談して、診断書選びをしなくてはならないのです。

現状では、身体障害者福祉法の第15条第3項に定められた障害の別表を見て、自治体職員と相談しつつ、診断書を決めるしかありません。


3)指定医師がいない

都道府県知事によって定められた指定医師に診断書を書いていただくことになります。

環境疾患を診ていただいている主治医が、該当する「もっともひどい症状」の指定医となっている場合は、主治医に診断書を書いていただけますので、指定医がいないという問題は起こりません。

ですが環境疾患の主治医が、該当する「もっともひどい症状」に関する指定医でない場合は、指定医をさがす必要があります。多くはこのケースです。
指定医師は担当科目(障害)ごとに指定され、担当科目(障害)ごとに診療科名が定められています。ですがここに過敏障害が明記されていません。本来なら、過敏障害の診断ができる指定医師によって診断書が書かれるべきですが、そのような指定医師は現在定められていません。あきらかに「法律の不備」です。過敏障害に対して、法改正が追いついていない状態です。

よって、「もっともひどい症状」に該当する診療科目の指定医師に診断書を書いていただくことになります。
ですが、ここに大きな問題があります。
指定医師は「もっともひどい症状」を診ることができても、必ずしも過敏障害を診ることができるわけではないということです。診断どころか過敏症という病名さえ知らない指定医もいます。
過敏障害で手帳申請をするにもかかわらず、過敏症の病名さえ知らない医師に「もっともひどい症状」で診断書をお願いしなければならないのが現状です。手帳申請をこの時点であきらめる人が非常に多いのです。


4)都道府県審査会の問題

障害者手帳の交付の認定調査を行う、各都道府県の審査会に、環境疾患についての知識がある方がいない場合が非常に多く、およそ見当違いの審査が行われているため、却下されてしまいます。


3、私の家族場合

1)自治体窓口での対応

私たち家族はシックハウスにより重度過敏症を発症しました。子どもたちへの学校での対応を始め、様々な相談を市役所にはしていました。
ですから、市役所は過敏症について理解してくださっていました。
市の担当者が自宅を訪問してくださり、どの診断書が、「もっともひどい症状」に合致しているか話し合いました。
過敏障害ではなく「ひどい症状」とでいうおかしな申請をしなくてはならないため、障害者と相談して、診断書選びをしなくてはならず、市役所も迷惑な話です。
私の家族は暴露による「もっともひどい症状」が四肢の筋力低下、著しい脱力、筋肉痛、筋肉の硬直、四肢のしびれ、めまい、頭痛、瞳孔反射異常などだったため、脳神経内科での肢体不自由による診断書がいいだろうということになりました。


2)指定医師がいない問題

手帳申請前から、家族がお世話になっていた(過敏症ではない疾患)神経内科の医師がいました。この医師は肢体不自由の手帳申請の指定医でもありました。
まず、過敏症の主治医から、神経内科医師に話をしていただきました。環境疾患・過敏症についての医学的資料とこれまでの診療情報を事前に医師間で情報共有していただきました。
その後、主治医にさらに診療情報提供書を書いていただき、神経内科医師に受診しました。過敏症状と随伴症状がひどく外出できない状況でしたので、訪問診療をしていただきました。


3)却下について

一度目の申請は却下されました。
審査請求をするつもりであることを市に相談しました。
これまで様々な過敏症の問題について市・福祉事務所には相談していたということもあり、過敏症について理解してくださっていた市の方が県に問い合わせ・相談をしてくださいました。市と県の話し合いにより審査請求ではなく、再申請をすることになりました。
以下は、県からの診断書追加記入のお願いに対して私が提出した文書です。以下の文書提出数ヶ月後、手帳が交付されました。
また、その後も県へは過敏症についての様々な資料・文書を提出しています。

①県健康福祉部障害者支援局長様

 平素よりお世話になっております。
 この度、○○○○の身体障害者手帳再認定申請に係る診断書の追加記入についての文書を、○○市を通していただきました。
 手帳の審査をしてくださった医師は、過敏症について専門の知識をお持ちの方でしょうか。追加記入を要する事項を読みますと、「自律神経障害の影響で日常生活動作に支障があるのではないかと疑義が生じる」「自律神経障害や中枢神経障害の影響を除いた肢体不自由の状態についての詳細説明」と書かれています。過敏症の主症状は、自律神経障害、中枢神経障害です。瞳孔反射異常、視力障害、不整脈、血圧変動、胸痛、関節痛、関節の腫脹、手足の震え、痙攣、貧血、甲状腺機能障害、耳鳴、難聴、めまい、頭痛、味覚異常、咽頭痛、嚥下困難、頻尿、排尿困難、ホルモン異常、等々、症状は多岐にわたり、恒常性を保てなくなり、通常の生活を送ることが困難となります。またROMが正常であっても曝露によってADLが著しく制限されます。ですから、自律神経障害、中枢神経障害を除いて考えることができるとは思えません。症状が全身に及ぶため、肢体不自由での申請となります。
化学物質過敏症(MCS)、電磁波過敏症(EHS)の患者の多くは病気の特質上、入院・施設入所が困難です。MCS、EHS専門の入院施設のある病院は、日本には現状ではありません(以前、北里大学病院にありましたが、現在閉鎖中です。アメリカにはECUがあります)。○○○○はこの数年症状が悪化し、外出困難なため定期的な訪問診療を受けています。
過敏症は、2009年の医師国家資格試験から環境疾患として加えられた新しい疾患です。手帳の認定につきましては、資料についてもご考慮いただき、過敏症について知識のある医師にご判断いただけますようお願いいたします。


②県健康福祉部障害者支援局様

この度は、○○○○の身体障害者手帳認定について、大へんお世話になっております。○月○日付にての文書のご送付ありがとうございました。
障害の永続性についてですが、過敏症が重症化した場合ごく微量の化学物質(ppm・ppb単位)への暴露で、日常生活動作が困難となります。MCSとなった場合、現代社会においてECUの中で生活しない限り、原因物質の完全除去は不可能です。
重症のMCS患者は、曝露を避け身体機能を保持するため、過敏症患者用に開発された空気清浄機を設置し(電磁波に過敏な場合は空気清浄機の使用も困難)、自宅から外へ出ることのできない生活や、空気環境の良い山の中などでの生活を余儀なくされています。そして、重症化すればするほど、病院を受診することさえできなくなります。患者にとって安全なごくわずかな空間で立位や歩行が可能であっても、その場から外へ出て暴露されると間もなく、さまざまな症状(著しい脱力、めまい、腹痛、頭痛、吐き気、排尿困難、筋肉硬直・痛み、しびれ、震え、視野障害、瞳孔反射遅延等々、中枢神経・自律神経障害など)が出現し、座位さえも困難となります。この患者のMMTは1でしょうか、5でしょうか。問題なしでしょうか。一度このような症状が出現すると重症者の場合症状の軽快までに数カ月を要することや、症状が固定されてしまうこともあります。そして過敏反応はさらに悪化します。一度過敏性を獲得した患者は、軽快することがあってもその過敏性は生涯にわたって続くというのが現時点での専門医の考えです。通常の社会生活を送るためには、仕事場や学校等へ外出する必要がありますが、暴露すると上記のような症状が出現するという障害のため、社会生活・参加が困難です。また、ご存じのことと思いますが、過敏症の病体生理の解明は未だ成されておりません。ですから、県が重度の筋力低下を説明するための医学的見解を求めておられることについて大へん疑問に思います。
こうした重症患者の深刻な状況は、なかなか表に出ることがなく、ごく一部の専門外来のドクターのみが理解している状況です。重症患者は一般の建物に入ることはできず、合成洗剤などを身につけた人との接触ができないうえ、自治体の理解が得られず、障害者認定の手続きを行うことさえも困難です。このような患者は、医療が受けられなくなり、社会保障も受けられず、自宅で亡くなっています。自死のケースも少なくありません。
また、このたびの手帳取得とは直接関係はないかもしれませんが、過敏症以外の疾患にかかった場合、重症のMCS患者は治療を受けることが困難です。薬の投与、O2マスク、点滴、カテーテル等医療器具の使用、X-P、CT、MRI等の検査、さまざまな医療行為が原因で著しく体調の悪化をひきおこすからです。わたしは、東京の病院でICU、CCUに勤務しておりました。過敏症という疾患は、医療の常識を覆してしまうような疾患です。薬剤投与さえ困難な患者の治療法が今後確立されるかどうか、現状では全く希望を持つことができません。

関係各所に報告する必要があり、手帳の認定の可否にかかわらず、詳細な内容を文書にてご回答、ご返信くださいますようお願いいたします。


③資料

1、1998年頃厚生労働省(当時厚生省)が自治体に向けて化学物質過敏症についてのパンフレットを配布した。

2、2009年医師国家資格試験出題基準に環境疾患として化学物質過敏症が盛り込まれた。同年保険病名認可。

3、この20年間の間に文部科学省が各自治体、学校に対し「化学物質過敏症の児童・生徒に対し特別な配慮をするように」という内容の通知文書を何度も出している。また、過敏症のため教科書が使えない子どもたちへ特別な対応をしている。

4、2017年2月22日第139回国家予算委員会において内閣府が認めた内容は次の通りである。

①災害時の避難行動要支援者名簿に過敏症患者も登録すること

②災害避難所に患者用のクリーンルームの設置を積極的に対応すること

③経済的に困窮する患者は生活保護の加算が認められること

④障害者差別解消法で定める障害者の対象になること

⑤障害年金の対象になること


5、相模原病院が中心となり(計6つの病院)、2018年から過敏症患者の遺伝子解析が始まっている。

6、化学物質過敏症についての看護教育における厚生労働省の見解(2021年6月29日 厚生労働省 医政局看護課)
 化学物質過敏症を含め、様々な症状を抱える患者に対応できるよう、症状や生活に及ぼす影響とその対応等必要な知識や技術を有する看護職の養成を行っているところである。具体的な教育の内容や方法については、養成所毎に教育目標を設定し、カリキュラムを構成している。その詳細な内容については各養成所の裁量によって決定されている。

保健師・助産師・看護師国家試験において、化学物質過敏症に関連のある項目は次の通りである。
①    疾患と徴候―主要な症状と徴候―感覚過敏、鈍麻
②    神経機能―感覚器系の疾患の病態と診断治療
③    身体防御機能の障害のある患者の看護―病期や機能障害のある患者の看護
④    公衆衛生における生活環境と問題への対策―住環境