16 思わぬ展開 | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 田外による審査結果の説明を受けてから1週間ほどの間、田外が言っていたことを一言一言思い返し、いろいろなことを考えてはみたが、これといった打開方法を見つけることはできなかった。

 そんなある日の昼休みに、めずらしく市議会議長の父から電話がかかってきた。

 父は「朗、今少し話せるか」と言い、話を続けた。「実は昨晩、遠藤副市長から電話があって、この度は市役所の越智部長が議長の息子さんにとんでもない嫌がらせをしてしまい申し訳ありません、と言ってきたんだ。お前から全く話を聞いていなかったから、ただ副市長の話を聞くしかなかったんだが、最後に副市長から、議長のところに越智部長を謝罪に行かせます、という話になって、今日の午前中に越智君がこちらに謝罪にきたんだよ。」

 思わぬ展開に思考が混乱しながら「それで、越智部長は父さんとどんな話をしたの?」と言葉を返した。

 「私の方から越智君に、なぜ息子にハラスメントをしたのか?と聞いたところ、越智君は、いいえ私と息子さんとの関係は良好で、息子さんにハラスメントをしているのは総務部長の田外なんです、というんだよ。それではなぜ今日私のところに謝罪にきたのか?と聞くと、遠藤副市長から謝罪するように指示されたので謝罪にきました、この度は申し訳ありませんでした、としか言わなかったんだ。」と狐につままれたような話だった。

 さらに父は「越智君が言うには、お前が提出した内部通報書に田外君の名前が書いてあったことに田外君が腹を立てて、お前を潰そうとしている、と言っていたんだよ。話の筋がよく分からんのだが、とにかく越智君から謝罪があったということだけはお前に伝えておくぞ。」と言い父は電話を切った。


 父から聞いた話の中で、腹立たしい点がいくつかあった。まず、謝罪の相手先が私ではなく、なぜ父だったのか。審査委員会の委員長だった遠藤副市長がパワハラの事実を確認し越智に謝罪を指示したにも関わらず、内部通報の審査結果は、なぜ、事実確認できず、だったのか。

 そして、何よりも、なぜ越智は私が提出した内部通報の内容を知っているのか。

 遠藤副市長が越智に謝罪を指示した目的は、市役所と市議会の政治的関係を配慮した結果に違いないが、この市役所内で起こったパワハラ事件の被害者はほかでもなく私だ。

 こんな幕引きで許せるわけがない。加害者である越智や総務部長の田外、この二人を今のポジションでこのままのさばらせておくわけにはいかない。

 まだまだ私の闘いは終わっていない。




つづきます