15 最大の屈辱 | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 審査結果通知書に書かれた「事実確認できず、是正措置なし」の文字をただ見つめていても結果は変わらない。

 人事課長の小裏に内部通報の審査結果の説明を求めると、あっさりと受け入れられた。

 小裏から指定されたとおり業務時間終了後に人事課の隣りの相談室のドアを開けると、そこには小裏だけではなく、総務部長の田外も控えていた。

 テーブルに着き、私の方から会話を切り出した。「内部通報の結果を受け取りました。結果について不明な点が多くあります。今日はその辺りのことをお伺いしてよろしいでしょうか。」と言うと、田外が「どうぞ。」とまるで子供にでも物事を教えてやるというような表情で答えた。

 「一体どのような調査で、事実なし、という結論になったのでしょうか?審査委員会ではどのようなことが議論されたのでしょうか?」

 田外から指示を受けているのか、小裏は一切口を開かないという雰囲気だ。

 田外は、「調査の手法や、誰から聞き取りをしたということは、内部通報の被害者保護の観点から一切教えることはできない。そして、審査委員会は秘密会なので、そこでの発言は一切公開できないことになっている。」と人を小馬鹿にするように答えた。

 「加害者の越智部長からは聴取したのでしょうか?何と言っていたんですか!」と田外の挑発に乗り、少し大きな声で反応した。

 「そのことも本来は教えられないんだが、オフレコということで聞いてくれ。越智部長からは、林口に対してパワハラに当たるようなことを言った覚えはない、という聴取結果が出ている。」

 「加害者は処分を受けないようにするために、そう言うに決まっています。それと、企画調整課の職員を次々に呼び出していたようですが、私と越智部長とのトラブルに関係の無い職員から聴取を行ったのはなぜなんでしょうか?聴取された職員からは、職場でトラブルを見聞きしたことがあるか、というような抽象的な質問だったと聞いています。どういう調査だったんですか?」と詰めよった。

 田外はため息を一つつき、「繰り返しになるが、内部通報の調査では、被害者つまり通報者の保護を第一に考えることが大事になる。そうなると、君の名前を出して証言を募るという調査は一切できないんだよ。だから抽象的な質問しかできなかったということだ。」

 自分の頭に血が昇るのを感じながら追求を続けた。「そちらの調査手法についてこれ以上伺うつもりはありませんが、ひとつ大きなこととして、越智部長がパワハラ発言の事実を否定したとしても、田外部長と越智部長との会話においても、越智部長が私のことを非難する発言があったことを田外部長は認めていたじゃないですか!田外部長は審査委員会でどのような証言をしたんですか!」

 田外は少し口籠もりながら、「内部通報の審査委員は、通常、委員長に遠藤副市長、そのほかの委員に企画調整部の越智部長、総務部長の私、財務部の大林部長で構成されるが、今回は委員の一人である越智部長本人が訴えられているので越智部長が委員から除外された構成での審議ということになった。私は委員としての中立性を守るために、林口が有利になるような証言をすることはできなかったということを理解してもらいたい。」

 「何をおっしゃっているんですか?どう理解しろと言うんですか!本気で言っているんですか?」という怒りしか表現できなかった。

 田外は、最後に、という言葉の後に「今回の審査結果は結果として受け止めてもらうしかない。そして、この審査結果はいわゆる市長の行政処分の手続きにあたらないので、この結果に対しては一切の異議申し立てをすることはできないということを付け加えておく。」と私にとって大きな屈辱を与えて説明を終えられた。

 月並みな言葉だが、ただただ悔しいとしか言えなかった。



つづきます