12 早すぎる反撃 | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 提出した訴えの趣旨は、私が担当した3月の市議会での市長の政策方針の内容を、部長職の越智が係長職の私に対して、私が自分の父を市長に当選させるために現職の市長の評判を落とそうとしていると恫喝したことがパワーハラスメントであるというもので、自分の記憶を元に事実を正確に記した。

 この訴えには付属的な情報として、総務部長の田外との会話の詳細も記載した。

 訴えが人事課で受理されてちょうど1週間が経ったある日、同じ部門内の情報システム課の吉武課長から電話がかかってきた。

 吉武課長は私が資産管理課で仕事をしていた時の上司であり、ふた月に一度は一緒に酒を飲みに行く間柄である。

 「林口、少し話がある。庁舎の外で少し会って話がしたい」ということだったため、その日の業務終了後に市内の喫茶店で会う約束をした。

 喫茶店に着くと吉武課長は先に到着しており、私がテーブルにつくなり吉武課長が抑えた声で話し始めた。

 「本当は、誰にも言ってはいけないことなんだが、林口、お前は今、人事課の調査対象になっている。お前は何をしたんだ。」

 吉武課長が言っていることの意味が理解できなかったが、言葉を返した。

 「実は、吉武さんには相談していませんでしたが、私は今、人事課に、ある職員のある行為を通報しているところなんです。その事でしょうか?」

 それを聞き吉武課長は少し驚いた表情を見せながらも「いや、そういう話じゃない。お前が市役所の機密情報を外部に漏らしているという通報が人事課で受理され、田外総務部長名でお前の業務用パソコンの操作記録を調べるように俺のところに調査依頼がきているんだよ。もちろんこのことは越智部長も知っていることだ。」

 それを聞かされ、頭の中が一瞬真っ白になったが、思考回路が正常に戻ると、すぐにある考えが頭の中を駆け巡った。これまで内部通報が1件もなかった市役所で、私が通報した途端にすぐに私を訴える通報が提出された。なんということだ。

 明らかに越智の反撃だ。そう確信した。

 吉武課長に対し「誰にも話してはいけないような話を私に教えていただきありがとうございます。これ以上聞くのも恐縮ですが、吉武さんは私のことを通報した人物を知っているんですか?」と尋ねた。

 「俺が聞いた話では、通報者は匿名ということだ。俺は林口がそんなことをするわけがないのを知っているから、現状では何度か調査依頼を拒否しているんだが、越智部長からも早く対応するように指示されていて、なかなか抵抗できない状況になってきているんだ。」

 「吉武さん。ありがとうございます。私にやましいことはありませんので、その調査、堂々と受けてください。」

 必死に後輩を守ろうとしてくれている先輩にこれ以上の迷惑をかけるわけにはいかなかった。



つづきます