11 闘いのはじまり | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 職場で立場が上位の者が下位の者に対して嫌がらせを行うことはパワーハラスメントと呼ばれ、2019年にいわゆるパワハラ防止法が制定され、2020年から施行されている。国会での議論の結果を見ると、この法律は公務員にも適用されるということになっている。

 越智のこれまでの私に対する行為は、まさに私に対するパワーハラスメントである。

 これを訴えるためには、越智の行為とその被害の詳細を書面にする必要がある。職業上書類の作成は何ら難しいことではない。

 通常、市役所内の手続きは、全てにおいて「様式」が存在するが、現状の市の条例や規則の中にパワハラ被害を訴えるための様式を見つけることができなかったため、任意の書面を作成することにした。

 ○パワーハラスメント被害の申出書
 加害者:越智降平(部長職)
 被害者:林口朗(係長職)、、、

 市役所内で職員が手続きを行うための窓口は総務部門の人事課である。総務部門の部長は越智の後輩の田外であり、人事課のトップは多くの職員から「田外の飼い犬」と揶揄されている小裏(こうら)課長である。

 越智と田外の関係から、私の訴えが適正に処理してもらえるのかどうかの不安がないわけではないが、正攻法で進めるしかないと考え、作成した書類を持って人事課の事務室に足を踏み入れた。

 人事課長のデスクまで進み、「失礼します。小裏課長、こういう書類を作成しましたので、受理をお願いします。」と書類を小裏課長に手渡すと、書類のタイトルを見た小裏課長は「ちょっと待ってくれ。これは、ちょっと、、、受理と言っても、、、」と明らかな動揺を見せた。

 動揺の原因は、この書類がこの市役所の歴史上初のパワーハラスメントの訴えだったからである。

 無理矢理に動揺を抑えた小裏課長は私に対して「この市役所にはパワハラの規則や様式が存在しないため、受理することはできない。」と驚くような反応を見せた。

 「パワハラについては法律が施行されています。市役所の規則や様式がないから受理できないという理屈はないと思います。」と一歩も引かないという態度を見せた。

 すると小裏課長は「確かにその通りだ。しかし規則がないため受理しても審査する方法が確立されていない。」と言って小さな唸り声を出しながら少し考え「それでは、内部通報という扱いであれば受理することができるが、それでよいか。」と提案してきた。

 内部通報とは、職員の違法行為を見つけた際に職員が通報することができるという制度であるが、この市役所での過去の通報件数は皆無だと聞いたことがある。つまり、人事課は一度も内部通報を受理したことがなく、調査のノウハウもないということである。

 人事課のこの状況では、もはや選択肢はないと考え、小裏課長の提案どおり、内部通報の提出ということにし書類は無事受理された。

 あとは、人事課で調査が進められ、加害者が処分されるのを待つだけだと、この時は思っていた。



つづきます