10 歪んだ出世欲 | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 「沢村さん、お久しぶりです。そう声をかけていただくと話は早いですが、越智部長のことで少し相談があって来ました。」

 「お前が原案を書いた市長の政策方針の件か?それとも新しいプロジェクトを潰された件のどっちだ。」と、またもや先手を取られた。

 「どうしてそこまで知っているんですか?」と尋ねると。

 「知っているも何も、越智があちらこちらで敵将の首を討ち取ったと言わんばかりに大声で色々と話していたから、嫌でも耳に入ってくるんだよ。」と渋い顔で答えた。

 「ことの発端は市長の政策方針なんですが、なぜあの様に私に個人攻撃を始めたのか分かりますか?」と問いかけると、沢村部長は、「お前だから話すんだが」と昔の部下を労わるように話し始めた。

 「俺も越智も同い年だから定年退職まで残り2年というところだ。ヤツは若い頃からずっと花形の企画政策部門で仕事がしたいと言っていたんだよ。でもな、ヤツの仕事の進め方の強引さから、市役所内での調整能力に疑問符がつけられ、これまでヤツの希望が叶うことがなかった。それでもヤツは最後の2年間、どうしても市役所の事務方のトップの部長になりたいと思ったんだろうよ。」と最後の言葉に強い感傷を込めた。

 「その事と、私に嫌がらせをする事と何の関係があるんですか?」と恩師とも言える元上司に怒りをぶつけてしまった。

 「つまり、ヤツが市役所人生の最後に祈願を成就するためには、その時の企画政策部門の仕事ぶりをなりふり構わず批判し、自分がそこの部長ならこんな事にはならなかった、という事を市役所全体にアピールする必要があったんだよ。そこでターゲットにされたのが林口、お前だったんだよ。」

 沢村部長の言葉には、彼の想像が含まれているものの、越智の同期である人間の言葉は十分に信じるに値するものであり、悪質な市役所職員の歪んだ出世欲を目の当たりにし、そのために自分が利用されたということに堪えきれない怒りを覚えた。

 悪人をこのまま野放しにしてはいけない。越智を企画調整部長の座から引きずり下ろしてやると強く決意した。



つづきます


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第10話を書き終え、次回から、いよいよパワハラ上司への反撃篇に入ります。

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