05 新たなプロジェクト | あるハラスメントの告発

あるハラスメントの告発

ある市役所内で実際に起こった「係長の乱」に着想を得て執筆したもので、いわゆるバブル世代の市役所の管理職(バブル時代に市役所にしか就職できなかった人たち)と、一人の中堅市役所職員との壮絶な職場内バトルを綴ったものです。

 4月に入り、定年退職となった前部長に代わって防災部長だった越智が企画政策部門のトップに就任した。それ以外は、若手職員数人の入れ替わりがあったものの、新年度の1週間が過ぎても前年度と同じように部門内は機能しているように感じた。

 私は越智の宣言どおり、4月1日に課長を通して政策調整からプロジェクト事業の業務への担当替えが下命され、極端に業務量が減った仕事を30才の澤田と25才の粟林、この2名の部下と一緒に進めていくことになった。

 4月の初めの1週間は、プロジェクト事業の過去の経緯を調べ、現状を考えた上で実現の可能性があるものに優先順位をつけることなどを検討してはみたが、空想とも思えるプロジェクトばかりのため、早々に検討は行き詰まった。

 そこで考えたのが、「新たなプロジェクトの立案」だ。これは過去のプロジェクト事業を進めるというものではなく、実行に困難は伴うが市民からのニーズが高いという事業を新規プロジェクトとして企画立案するというものだ。

 この考えを部下に伝えると、働き盛りの2人の目は輝きを取り戻し、手元の動きも急に慌ただしくなった。

 初めに目をつけたのは「私立高校」の市内への誘致である。これはいくつかの市民アンケートや市議会での質問状況から、ニーズが高いものと考えた。
 
 さらに既に市内にある専門学校を運営する学校法人が私立高校の開校を考えているということも耳にしていたため、プロジェクト化を進める価値があると判断した。

 そんな中、部下の澤田がある提案をしてきた。「今年度は私立高校の誘致プロジェクトの調査費用に充てられる予算がありません。そこで調べてみたんですが、国のある研究機関が共同研究として調査などの費用を全額補助してくれるというメニューを見つけました。その研究機関にコンタクトしてもよろしいでしょうか。」というものだった。

 「面白そうだな。部長と課長には私から話をしておくから、その研究機関との協議を進める準備をしてくれ。」と指示を出し、自らの発言どおり越智部長と課長に報告したところ、「いいんじゃないか、進めてくれ。」と2人の上司が口を揃えた。

 ただ、その時、越智の表情が何かを企んでいるように見えたのは、ただの気のせいだと自分に言い聞かせた。



つづきます