ご無沙汰しております。
しれっと。
お庭のホトトギス。
近頃、日が短くなりました。
17時過ぎるともう真っ暗です。
暗闇で昨日、見つけたお話。
帰り道。18時過ぎぐらいでしょうか。
わりと車が通る道からちょっと入った、
住宅街の暗がり。道のど真ん中に。
ベビーカーみたいな車輪のついたものが転がっていて。
ここ、車通るし、危ないなー。
車に乗ってたら、わざわざ降車してどけようと思わないよなー。
なんて思いつつ。
わりと、そういう偽善的行為に前向きな広田さんです。
歩いている私がどけなきゃ、そうさそうさ。
と使命感に駆られて近寄ってみたらですよ。
え。
黒いお爺さんが横たわってて。
なんというか、道の真ん中でキレイに真横なので、
車が通るのを身をもって制しているような角度でもあり。
ベビーカーと思っていたものは、歩行器でした。
歩行器と一緒に転んだの?倒れたの?轢かれたの?轢かれたいの?
待て待て待て。
落ち着けよ、お爺さん。
いや、私。
やばい、これ、令和いち、やばいかもしれない。
不謹慎な話ですが、
こういう時必ず思ってしまいます。
道を横切ろうとして立ち止まった私、
近寄った私、見つけた私。
リアルなリアクションってやつを、どうしても見てみたいと思ってしまう。
どこかに隠しカメラとか防犯カメラとかでアップ撮っててくれないかしら。
だって見たいじゃん。お芝居の嘘、どうしても、知りたいじゃん。
今まできっと、ものすごい恥ずかしい芝居を、
これぞリアルと思ってやってきたんでしょうよ、あたし。
さて現実。
想像としては、ノーリアクション。
人って驚いたとき、そんなに目を見開いたりしないのかもしれません。
近年まれにみる驚きでしたよ。
そりゃ、心臓バクバクしてましたし、
そりゃ、西川きよし師匠も真っ青なくらい目玉飛び出ましたし開きましたよ瞳孔。
でも、イメージは無。
ああいうときの真実は、無。
答えは無。無が答え。禅問答。
いや。まさか。
まさか、こんな暗闇にお爺さんを見つけると思ってないですし。
ノーマーク。この展開、聞いてない。
お爺さんは黒いコートに黒いズボンで。
顔も隠れてしまっていたので、
本当に黒の闇に溶け込んでおりまして。
歩行器のパイプに若干、白い部分があったから気づいたものの。
えー?
そして、見た感じ、ちょっと近づいたのを後悔した気持ちも本当です。
だって・・
なんかもしかして、息をしてないパターンの、
もしかして、人生初、知らない人の為に救急車を呼ぶパターンの、
もしかして、警察に連れていかれるパターンの。
これ、いろいろ初なやつ。何十年も生きてきて、いろいろ初なやつ。
そう思えていろいろドキドキするくらい、お爺さんの横顔が、
闇でもわかるくらいグレーで青黒くて重症風だった。
繰り返します、重症風、だった。
お、お願い、応えてね。
そう念じながら、ひときわ大きくなってしまった声で尋ねました。
「大丈夫ですかぁ~~?」
ちょっと、岩井監督の映画ラブレターの中山M穂さん風、
「元気ですかぁ~?」気味の叫び。
自分らしくない聞いたこともないトーンが出ちゃった。
お爺さん、二回くらいの中山コールでようやく目を開いてくれて。
でも体が重いのか、起き上がろうとはせず、
首だけこちらに向けて、
「あ~~~。ちょっとね、ちょっとね、酔っぱらってるんですぅ~。」って。
・・・・本当によかった。
どこかケガをしている感じでもなくて、
病気っぽさも急に無くなって。
轢かれてもいないようで。
よく見たら胸の近くに日本酒の500mlくらいの小瓶が転がっていて。
持ち上げてみたら、きちんとフタは閉まっているけど半分くらい飲んだ感じ。
ん~。これ1本目じゃないね、きっと。
「すみません。ちょっと、ちょっとね、お酒を飲んでまして~~~。」
ずっと連呼。
原因とか言い訳じゃなくって、心からの大丈夫を先に聞きたいのだが。
そんなところに、通りすがりのお兄さんがスマホ片手に現れて。
「どうしました?」って。
なんというか、いい声でした。
警察官とか、医療従事者の人が尋ねる言い回しというか。
救世主、来た、と思いました。
ナイスです!この展開ナイスです!!
お爺さんは私に言ってた事と同じ言い訳をお兄さんに連呼。
お兄さんは私に「ずっとこの状態なんですか?」
と聞いてくれたのですが。
いや、今私もお爺さんに話しかけたばかりですと応え。
「とりあえず、ここ轢かれてしまいますよ。」
中腰で語りかけるお兄さんは、
まるでスピード違反を見つけた時のお巡りさんくらい優しい言い方でした。
です、ですよね。
お爺さん、一歩も動きたくなさそうで、
目の前にある、知らないお家の玄関の灯りを見て。
「じゃあ、そっちに。」と返事。
いやいや、最短距離は確かにそっちだが。
逆サイド。歩道があるのはレフトサイドやねん。←急にどうした
みるからに、お爺さんは上半身だけ自力で起き上がったのが精いっぱい。
明らかなる充電不足。
もうね、動きますよ、こうなったら助けるよ。
こっちとら、バッテリー7割充電中だい。←7割か。
私があまりにも前向きに動いたせいか、
もしくは、このコロナ禍で、酔っ払った他人を触っていいものなのか、
躊躇するのが普通なのか、
なぜが私だけがお爺さんを抱える態勢。
お兄さん、ちょっと見てる態勢。
ん?
う、うん。だいじょぶ、私強い子だから。
ひとりでできるもん。
かっこつけてみたものの、重い。
うん、知ってるよ。
脱力して筋肉を使わないご老人の尊いお体は、見た目以上に重いのだよ。
見かねたお兄さん、
「脇に手を回す方がよさそうですね。」
冷静。
あなたの意見、かっこいいくらい冷静。
でも、えっと。
なに、私。
そんなに手を貸す隙もないくらい、お爺さんの背中を積極的に抱きしめたがってますか?
あすなろ白書のキムタクよ。
俺じゃダメかな。ダメだった。
ようやくお兄さんの左手が伸びてきて、お爺さんの右腕をそっと持ち上げてくれて
なんとか中腰になるお爺さん。
そやねん。もっと早く手ぇ貸してくれたらええねん。←だから急に。
しかし数秒ともたず、すぐ四つん這いに。
ですよね。
ですよね。
そのタイミングで、道端にさっき私が持ち上げた自分のお酒を見つけたお爺さん。
すばやく手を伸ばし、歩行器の袋を開けて、大切なお酒をしまう。
え、早いじゃん。
その動き、めっちゃ早いじゃん。
コントか。なぁ。シソンヌのジローさんか。
なお冷静なお兄さん。
「じゃあ、四つん這いのままでいいんで、せめてここ(歩道)まで入りましょう。」
そうか、四つん這いのまま、というアドバイスは思いつかなかった。
この人、正しいぞ。
無理やりにでも力づくで移動させようとした私の無駄な労力が恥ずかしい。
合理的。最短。
何かのインストラクターなのか?
できない人へのアドバイスが的確すぎるではないか。
お爺さん、言われたとおりに、よいしょよいしょと、
四つん這いで進んでくれまして。
結構、膝痛くなってるだろうなと思いつつ。
柔らかい絨毯を敷いてあげることもできず。
ものすごく模範的な生徒さんでして、
言われるがまま、一生懸命一歩一歩進むのを、
わたくし目を細めながら見守りまして。
結構な時間をかけて、ようやく目的のエリアまで到着。
「いや~。酔っぱらっちゃいまして。」
爺さん、まだ言うか。
わかったわかった。
お兄さん、
「お家はお近くですか?」
振り向くと優しい目はお爺さんに。
あ、私に聞いたのかと。いや~酔っぱらっちゃいまして、はは。ははは・・・。
お爺さん、
「はい。ちょっともう少し休んでから帰ります。」
決死の四つん這い運動が効いたのか、少し話し方がハッキリしてきて。
その口元から、お酒のニオイが漂ってきて。
まぁ、いいじゃん。楽しい帰り道に酔っぱらっちゃったんだな、と。
美味しいお酒なら、あたしゃ許すよ。
程なくお爺さん、
自分で歩行器につかまり、
ブレーキをセットし、向きをかえて、
ちゃんと自分で歩行器に座る態勢に。
なんだ、この歩行器、座れるやつか!
華奢な布一枚で、お買い物を運ぶくらいのものかと思いきや、
座れるのね。
こういうの、福祉用具ってすごいよね。助かる。
開発してくれた人、ありがとう。
家は近いと言ってたけど、
さすがに酔いが覚めるのを待って家まで送るまでは、
いくら偽善者地区代表のわたくしでも出来なくて。
お兄さんも潮時と思ったのか、似たタイミングで、
「じゃあ。」「それでは。」と、ほろ酔いのお爺さんから離れる私達。
「どうも、お手数おかけしました~~。」
座ったままゴキゲンにそう言った後、
歩行器のハンドルに両手をかけ顔を乗せるお爺さん。
授業中の居眠りスタイルじゃん。
うんうん、意外とあれはあれで気持ちよく眠れるんだよな。
また眠ってるところを心配した誰かに話しかけられなきゃいいけど。
もしかしたら、この態勢から転んだのを私が見つけたのか?
ループしてるのか?今日何回めなのか?
一応、お兄さんにひとことお礼。
「ありがとうございました、助かりました。」
「いや、とんでもない」
なんだか、駅に向かう方向が同じ気がして。
気まづい。
超気まづい。
人助けしちゃいましたね、カフェでお茶でも、とかそういう文化は私の国にはない。
逃げるように先を歩く私。
いつになく痴漢から遠ざかるような速足で、もはや失礼な私。
あ、しまった。
先に行ってもらって、私がのらりくらりと後から歩く方が精神的に楽じゃん。
遅い。
いや、どっちでもいい話じゃね?
もう、風のように去った手前、
たとえ全て見られているとしても、
自意識過剰で全く見られていなかったとしても、
背中に全神経を張り巡らせながら、
時に何気なく長い髪の毛を揺らしながら、
スタスタと、ただただ前だけ見つめながら、風になりきりました。
どうも、最近ヒットチャートに賑わせている広田風と言うアーティストです。
THE不自然。こんな不自然な帰り道はあるだろうか。
広田風、幻のまま、引退宣言。
お爺さん、あの後、ちゃんとお家に帰れたのかな。
あのね。
お爺さんの背中を抱えたとき、
お爺さんの着ていた黒いコートの質感が、
とても上質だったのです。
こんな事で人を判断してしまって浅はかで偏見だらけで本当にすみません。
でもね。
お肌や髪型や、歯が2本くらいしか残ってなかった感じとかがね、
ちょっと申し訳ないけれど、あの、少し、そういう印象になりがちな風貌だったのですが。
でも上着の質感がね、
大丈夫、お家があって、ご家族の誰かが待っている人なんだろうなと思いました。
寒くなってきて、本人ではない誰かが、これからの季節のために用意した、
なんというか、まだ新しい感じのコートで。
(よく、男性がスーツの上に羽織っているようなね、
薄地だけど柔らかくてちょっと起毛素材であたたかくて、雨の日には撥水もするみたいな。)
とんちんかんな偏見かもしれないし、間違いかもしれないのだけれど、
でも、暗がりで横たわっていた第一印象よりも、何倍もずっと、清潔で紳士的なお爺さんでした。
ちゃんと帰れているといいな。
帰った先に誰かがいる人だったらいいな。
怒られんだろうな。
そして、私は。
名前の知らない誰かの帰宅を心配する夜も、
結構、悪くないものだなって。
風邪、ひかないといいなとか。
またどこかでこっそり会えるといいなとか。
その時、めっちゃ恩着せがましく話しかけられたらいいのに、
私って、きっと、知らないふりした顔で、こそこそ探すんだろうな。
人に直接触るって、やっぱり違うのです。
人が人を助けたりするのは、やっぱり触らなきゃできないこともある。
コロナ禍が私達から奪ったものは、やっぱり大きいんだ。
そしてひとつ勉強になりました。
高齢の父には、夜に黒いコートを着せるのはやめよう。
万万が一、道端で転ぶような事があった時、
夜の闇に溶け込んでしまう。
頭を打って意識を失ったりでもした時、あれでは車から見つけられない。
父よ。
私が蛍光色のジャージを買ってきたらごめん、
着ろよ。
着ろよ、絶対。
もし着なかったら、知らないお爺さんにあげちゃうからな。
