猫と雲雀3
怒りをあらわに、猫氏は雲雀の前に音を立てて座った。口を尖らせてそっぽを向いている。
「んふふふ」
楽しくて堪らないように、雲雀は席を立って、猫氏の横に座る。雲雀は猫氏の背を撫でながら、柳眉が歪むのをみつめる。
「素直になれば、いいのに。これじゃあ、話もできない」
「あんたと話をするような事はないよ」
雲雀は猫氏に冷たくされるのがこそばゆいように構えている。
「ハナシできるじゃないか」
猫氏の眉間にぎゅぎゅっと皺がよる。
「もう、顔も見たくないんだ。本当は」
独言のように猫氏はそうこぼす。
「そうすれば、いいじゃないか」
「……」
そうできれば苦労はないと猫氏は頬杖をつく。
ヨシヨシヨシヨシヨシヨシ
雲雀は背を撫でていた手を頭にやった。
「君は生意気」
雲雀は猫氏の少なくとも十(とう)は上のように見えるが、実際猫氏のほうが生きてきた年数はずっと上だ。いちばん偉そうで、いちんばん年下なのである。
「雀(すずめ)はもう十六だよ」
雀は雲雀の息子だ。
猫氏はもうそんなに大きくなったのかと思った。まだ雀が幼かった頃、よく遊びにきていた。
雀が生まれる前は雲雀もこんなにひねくれていなかったし、ふたりの関係も良好だった。
原因は?と雲雀に聞けば、「悪いのは、貴方だ」と薄ら笑いを張り付かせていうだろう。
だから猫氏はそのことには触れない。
津村は自分の所為だと思っている。自分がずっとそばに居たいと望んだからだ。
猫氏にそれを聞けば、「それは違う」というだろう。だから、津村もそのことについて主(しゅ)に訊かれなければ言わない。
「サバさん、そろそろ出て行ってくれませんか。せっかく、小向さんにも譲ってもらったのに時間がなくなってしまう。今は僕だけのもの、でしょう」
雲雀の瞳の奥に昏い嫉妬の炎が燃えていた。
「ひばり!」
猫氏がたしなめるように声をあげた。
「それとも、ここにいるかい? 共有するのは嫌いだけれど。見せつけるのは悪くない」
「帰って、よ」
泣きそうな細い声で猫氏は言った。
「本当に? 今帰るなら、ずっと来ないですよ」
猫氏は息をのんだ。
津村は奥歯を噛み締めた。
「失礼致しました。気がまわりませんで、何かございましたら、お申し付け下さい」
障子を閉めた後から、息の合わさった音を聞く。津村は目をぎゅっと閉じて、奥に控えた。
