■■ ミッドタウンのレストランにて ■■
年明け早々のあなたとの約束に胸をときめかせていた私。
だって、とっても寂しかったから。
寂しかったわけ?
それは、あなたが、クリスマス前にさっさと旅に出てしまったからよ。
あなたとクリスマスを過ごすために、私はニューヨークのクリスマスを我慢して帰国したというのに。
一般的に言うと、恋する乙女にとっては、クリスマスと年末年始は愛しい人と過ごす大イベントだ。
でも、ニューヨークから慌てて帰ってきた乙女は、今年も寂しく一人で年末を過ごす破目となった。
でも、私は文句は言わない。
私は、あなたと過ごす時間さえ与えられれば、それでいいと思っているから。
あなたが旅に出る前に、その時間を約束してくれていたから、私はそれでよかったの。
私は、乙女だけど、クリスマスだって、大晦日だって、ロマンティックな時間を欲していない。
だって、それらは私にとって不可欠なものではないから。
私は多くを望まないから。
不可欠なものさえあれば、それは、クリスマスでなくてもいいの。
ただ、ちょっぴり寂しかっただけ。
だから、その不可欠なものを埋めるがごとく、年明け早々の逢瀬を指折り数えて待っていた私だった。
そんな私だもの、年が明けた瞬間に「あけましておめでとう」のメールをついあなたに送ってしまったってわけ。
でも、例年のごとく、あなたからの返信は三が日中には届かない。
それでも、私は平気。
ちょっぴり寂しかったけれどね。
でもね、私はあなたが好きっていう事実さえあればいいから、大丈夫なの。
こんな恋愛、男には都合が良すぎるかしらって時々思うけれど、私はそれを肯定しないし、否定もしない。
それは、あなただから。
あなたは、恋愛において損得を何も考えていないの。
私と同じくね。
さて、年が明けて、三が日の翌日、やっとあなたから電話が入った。
私たちは、その晩に会うというのに、たわいない会話を繰り返した。
今日の天気のこととか、今日の道の混み具合とか。
あなたの今日のネクタイの話をしていたかと思ったら、あなたは唐突に言った。
「そういえば、ニューヨークの話を聞いていなかった」
「あら、だってお話する時間を与えられなかったんだもの」
私は、計算のないあなたの質問に思わず笑ってしまった。
「僕の旅の話と交換でいいかな」
「じゃあ、今夜会った時にお話するわ。それより、今日は何を食べましょうか」
そうね、2人の好きなイタリアンはどうかしら。
すると、あなたは、言った。
「その前にひとつ聞いていいかな」
「何かしら」
「ニューヨークのロックフェラーセンターのスケートリンクは見た?」
「ええ、あの巨大クリスマスツリーと共にクリスマスシーズンのニューヨークの名物よね」
「そうか。では、スケートリンクと隣接しているレストランを知っているかい?」
「シーグリルのこと?」
「そうそう、そこには食事に行ったのかな?」
「ええ、行ったわ。寒かったからクラムチャウダーをオーダーしたわ」
「なるほど。ロマンティックだったかな?」
「雪が降る夜のディナーだったから、それなりにね。
でも、あなたならわかるでしょ?私がいつも欲していることを。
私には、ロマンティックと感じるシチュエーションに不可欠なものがあるの。
それは、ニューヨークという場所ではないし、雪が降っているということでもないし、
スケートリンクと隣接したレストランではない」
「おや?では、不可欠なものとはなんだろうか」
あなたには計算がないから、何も気づいていないようだ。
「何かしらね。あなたは、気がついていると思うし、気がついていないのかもしれないわ」
「どうかな。気がついていないから聞いたんだが」
私は笑ってしまった。
だって、真面目に答えるあなたがかわいいと思えるんだもの。
私が笑ったら、あなたが沈黙したので、私は、話題をかえた。
「で?なぜシーグリルなの?今日はシーフードを食べたいってこと?」
「いや、そうじゃない。でも、たった今店が決まった。予約を入れたらメールするよ」
「わかったわ」
私たちは、とりあえずはそれで電話をきった。
ほどなくして、「20時。ミッドタウン1Fインド料理」とだけ簡潔に書かれたあなたからのメールが届いた。
20時5分前にミッドタウンに到着すると、外苑東通りに面したビルの吹き抜けには青いイルミネーション。
クリスマスだけの点灯かと思ったけれど、新年もなのだわ、と思いながらビルの入り口へと急ぐ。
今日は風が冷たい。
スターバックスでくつろぐ人たちが、とても温かに見えた。
ビル風を受けながら、建物に入ってほっと一息。
1Fのインド料理のお店は、一度行ったことがある、確か、エントランスが赤いフロアだった、など思い出しながら、あなたの姿を思い浮かべる。
新年の初シーンは、私を待っている後ろ向きのあなたかしら、それとも、私が先に到着して、あなたが私に近づいてくるシーンかしら。
そうして、赤いフロアに足を踏み入れると、あなたの後姿が目に入った。
今年の初シーンは、あなたの後ろ姿だった。
大きな背中は、いつものあなただ。
「あなたが先だったわ」
私はそう言いながら椅子に座ると、あなたは、「喉が渇いていたからビールを頼んだよ」と言った。
私はあなたとの約束に遅れたことがないから、タイミングよくオーダーしてあった模様だ。
ドラフトビールの泡が消えていない状態で、テーブルの上にグラスが置かれていた。
「タイミングがいいわね。寒いとはいえ、私も喉が渇いていたところよ」
私は笑った。
ふと、外の景色に視線を移すと、遠くに青白く光るイルミネーションが見える。
え?あれは?
よく見ると、スケートリンクだった。
私は、驚きの声で言うと、あなたに振り向いた。
「もしも、君がニューヨークでスケートリンクを見ながら食事をしていたのであれば、ここではないところにしようかと思ったんだが」
「ニューヨークでは、スケートリンクと隣接したレストランでお食事した、と私は言ったわ」
「ああ、そうだね。雪の降るニューヨークのロックフェラーセンターでの食事はロマンティックだろうと僕は思う」
「でも・・・」と私が言うと、あなたは、それをやさしく遮って言った。
「そう、『でも』なんだ。
今回は、僕は少しばかり計算の上手な男になってみたんだ。
だから、君の、『でも』の後は僕が続けよう。
でも・・・君のロマンティックに必要なものが、ニューヨークではそろわなかったんだよね?
だから、今日は東京のミッドタウンでニューヨークのロックフェラーセンターのシーグリルを再現することにしたんだ。
今日は、君にとっての不可欠なものがあるはずだからね」
「雪がないわ」
私は、頬を紅く染めつつ微笑みながら言った。
すると、あなたはいたずらな目で私の瞳を覗き込んで言った。
「だから、雪がない分、スパイシーフードでピリッと利かせてみたんだが」
「それってインド料理ってこと?」
あなたは、うなずくと続けた。
「スパイシーフードは体温を上げる。
体温が上がったところで、お互い抱き合って今夜の寒さをしのぐっていうのはどうだい?」
私は微笑んだ。
最高の笑顔で。
The end・・・ Written by 鈴乃@Akeming
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■ 後記 ■
イルミネーションってどうしてロマンティックに感じるのかしらー
お料理の後ろに写る青白い光がなんともその場を盛り立ててくれました
このお店、お話の通り、2回目の訪問
たまたまご一緒したお友達が、ここのオーナーと知り合いで!
さて、オーダーしたのは、前菜盛り合わせ、タンドリーチキン、サラダなどなど
おなかがいっぱいで食べきれなかった。。。
そして、お話に出てくるニューヨークのシーグリル!
ここもロマンティックだったよ!
私が行った夜は、大雪
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雪の中ここに行きました → NY10日目(夜の部)






