私のアトリエは、マンションの南向きなので日中はよく陽が入る。
冬でも晴れた日は陽がまぶしく、私はその陽の当たる部屋のライティングデスクで文章を書く仕事をしている。
南側の窓際に置いてあるパリで購入したカラフルな布が貼ってあるボックスは、陽が当たっている側が日に焼けてしまっている。
最初気づいた時は「まあ、せっかくパリで買ってきたのに」とがっかりしたが、ボックスはそのまま陽のあたるところに置いてある。
私ってそんな人間だ。
風薫るある午後、あなたが私のアトリエにやってきた。
連絡もなく急な訪問だったが私はそんなこと気にしない。
逆にそんなサプライズが好きな私だ。
「まあ、うれしい訪問者だわ」私はにっこり笑ってあなたをアトリエに迎え入れる。
私ってそんな人間だ。
「無謀な訪問だと思ったんだが」とあなたは笑った。
「まあ、私に会うことが無謀なの?」と、わざと目をまるくさせる私。
「君が毎日ここにいるとは限らない」というあなたに
「その無謀な訪問は成功だったってわけね。よかったわ」と私は微笑んだ。
「君がいなかったら隣の店で1人でワインを飲みながら昼食をとるつもりだった」
と、あなたは親指をあげながら言った。
私のアトリエの隣のビルの地下には知る人ぞ知るといったフレンチレストランがある。
土曜日のみランチ営業をしている。
そう、今日は土曜日。
あなたはファミリーデーのはずなので、まさかのうれしい訪問者。
靴を脱ごうとするあなたに私は「待ってて。ちょうど休憩をしようと思っていたところよ」と、言った。
「いや、君のペースで仕事をしてくれ。僕を風と思って放っておいて」あなたは靴を脱いで部屋に入った。
「あなたが風?ならば、玄関ドアを開けた途端入ってきた素敵な風だわ」
私はあなたの手をとり、部屋に招きいれた。
「さ、この椅子に座って待っていて。すぐ終わるわ」私が椅子を引いて言うと
「とにかく風はここに座って仕事をする美しい女性を見ていることとするよ」
と、あなたは椅子を戻して私のライティングデスクの真正面にあぐらをかいて座った。
「いいの。そのあなたの言う女性は口の中ではじける泡を感じたかったところよ。
あなたはワインと言ったけれど私はシャンパンをいただきたいわ」
私は座るあなたの前に膝をついてあなたの目を見つめながら言った。
「じゃあ、口の中ではじける泡を楽しみつつ、おなかを満たしに行こうか。
僕は君のペースを壊したくなかったんだが」
と言うあなたに私はやさしく微笑んで
「だから、いいのよ。風が入ったちょうどその時に私のペースがかわっただけなんだから」と言った。
本当は早く仕上げなくてはいけない書き物があった。
でもいいの。
あなたという人が私に入り込んだ途端、プライオリティは刻一刻とかわる。
私ってそんな人間だ。
隣のレストランは土曜日の昼というのにカップルの男女がカウンター席を占めていた。
皆、優雅にフレンチキュイジーヌを食しながらワインを楽しんでいる。
奥様のランチ会といったグループがいないし、女性同士でランチという客もいない。
ここはどちらかというとデートをするカップルご用達の店なのかもしれない。
土曜日のデートのためにこの店を選んだといった感じのワインが好きと思われるカップルが多かった。
その中にテニスウェアを着たテニス帰りの男女もいる。
近所の夫婦って感じだ。
「ね、私たちって恋人同士に見えるのかしら、それとも夫婦に見えるのかしら」
と、カウンター席の端に座った私は小さな声であなたにささやいた。
「ふむ、どうかな。僕らの年齢的には夫婦に見えるかもしれないね」
と、あなたは他人からどう見えるかなんて関心のないようなそっけない口調で言った。
あなたが私との関係をどう表すかといったことに興味がなくても私は傷つかない。
だって、あなたと私はそのまま、あなたと私なのだから。
「私があなたの奥様だったらよかったのに」などと、私が言うわけがない。
私は多くを望まないもの。
それに、人から奪う行為はいけないことだ。
でも、実際には私は誰かの夫であるあなたの時間を使っている。
奪っているわけじゃないけれど、何だか少々心が痛む。
私ってそんな人間だ。
私たちは、アミューズのパテに合わせて1杯のシャンパンから始まって、前菜、メイン、デザートのコースを楽しみながら、白と赤のワインを1杯ずつ飲んだ。
「デザートはやめておこう」と言うあなたに従って私もデザートはソムリエに断った。
二人とも健康管理のために食べ過ぎは控えている。
私はあなたの支配下に置かれているわけではない。
あなたの意見に共感できたので、私もデザートを拒否しただけ。
私にとって大好きなあなたは優先順位が一番だけど、私はあなたには依存しない。
きっとあなたという人間が私をそうかえてくれた。
かえてくれたというのは、私は以前は依存型人間だったから。
心からあなたとの出会いに感謝して、出会わせてくれた神様のような存在にもありがとうって言える。
私ってロマンティストだなって笑ってしまう。
そう、私ってそんな人間なの。
「ね、ちょっと散歩していきましょう。適度な運動が今の私たちには必要だわ」と私が言うと
あなたは「そうだね」と言い私のおなかに手を当てて「これらを多少は消費しないと」と真顔で言った。
私は思わず笑った。
「どうしたの?」というあなたに私はこう答えた。
「今、あなたが私に触れただけでカロリー消費できたわ」
私のおなかは温かくなっていた。
あなたの手のひらの体温が私に伝わっただけではない。
恋のエネルギーも働いたから。
あなたにちょっとでも体を触れられるだけで私の体は熱くなる。
友人たちに「あなたってば、どんなに彼を好きなの?」と笑われることがあるけれど、私は自分に正直なだけ。
正直者の私。
これと決めたら、からだごとまっすぐ向かう私。
私ってそんな人間だ。
私たちはレストランの前の道を公園に向かって歩き出した。
「公園の中を突っ切って、向こう側の出口に出る。そうして、公園の周りをぐるっとまわって戻ってこよう」
というあなたの提案に「私もそのコースがいいと思ったわ」とうなずいた。
「君とは意見がだいたい一緒だね」とあなたは微笑んだ。
「不思議なくらいだわ。こんなに一緒にいて心地いい人ははじめて」と言うと
「僕もだ」とあなたは私と手をつないだ。
私はあなたの手の大きさ、やわらかさを感じながら言った。
「私があなたをずっと好きでいられるのは、あなたといる時、私はある意味ニュートラルでいられるからよ」
するとあなたは「ニュートラル?中立的なってこと?」と思いもかけないといった口調で言った。
「中立的っていうのかしら。どちらにもいかずに真ん中にいられるってことよ」
「どちらにもいかないって、どっちとどっち?」とあなたは笑った。
「おぼれないし冷めない」と私は言った。
あなたは、しばらく沈黙していたが「なるほど、それはいい状態かもしれない」と小声で言った。
「あ、でも恋の場合よ。愛はまた別だと思うわ。
たぶん、恋をする人にとって一番心地よい位置だと思うの。
私はある時、どうして自分がこの位置にいられるのだろうって考えたわ。
それは、あなたと私だからなの。他の人だったらそうなれないと思うわ。
あなたがニュートラルの位置を守る人だから、私もそれに慣れたのね。
私がいいと思ったから同じ気持ちになれたの。
決してあなたに支配されているわけではないわ」
「ははは。僕ってニュートラルなのかい?初めて知ったよ。思いがけない発見だ」あなたは声を出して笑った。
そうして、「君っておもしろいね」とつないだ手をほどき、私の体に腕を回し
「でも、そんな君が好きだ」と私の体を引き寄せた。
「私ってこんな人間なの」と私は笑った。
笑う私の髪に顔をつけてあなたは言った。
「いい香りがする」
「森の香りかしら」
「いや、君を引き寄せた時に感じた君の香り」
「私の?・・・これね、今の私にぴったりな香りなの」
「確かに。君にぴったりの香りだ。いつもと違う香りだなって思った」
「Bloosoming Romanceっていうボディミストよ」
「ブロッサミング ロマンス?」
「ええ。花が咲き乱れるような成熟したロマンス」
「激しい恋愛って感じだね」
「私はいつでも真っ直ぐで真剣よ。だから気持ちは激しいかもしれない。
でも、激しいだけじゃないわ。
私は、大人だからきちんとわきまえている。
咲き始めの花と違って、咲き乱れつつも穏やかな成熟した大人の恋愛をしたいと願うわ。
ね?ぴったりでしょ?
私はこういう女性だから、それを自然に受け入れてくれるあなたのような人と恋愛できてよかったわ」
私たちは再び手をつなぎ、公園の周りを歩いていた。
「成熟したロマンスか」とあなたはささやくと、私の手にあなたの手を通して温かいものが流れてくるような感覚をおぼえた。
「手が温かい」と私が言うと、あなたはしばらく黙っていた。
そうして、テニスコートが見えてくると私に言った。
「僕の手が温かいのは、今、熱い思いが僕にこみ上げてきたからだ。
だから僕の手から君の手に伝わったのかもしれない」
「熱い思い?」
「そう。君へのね」
「まあ、私への熱い思いが?」
「ちょっと聞いてくれ。僕は今、ニュートラルなのだろうかちょっと心配なのだが・・・。
これを言っていいのかわからない」
「話してちょうだい」
「僕は、君のような女性が素敵だと思う。というか、僕にとって君の存在は大きいと最近気づいた」
「うれしいわ」
「でも、今、わかった。僕はニュートラルでいる必要はないと。
君の言うとおり、僕は仕事と家庭とバランスをとりながら、君との関係はニュートラルな状態で保っていたのかもしれない。
もしも、僕に今の仕事がなかったら・・・、家庭がなかったら・・・、君との関係はニュートラルに保てなかった。
でも、人間なのだから無理に真ん中を保たなくても片寄ってもいいんだよ」
「おぼれるの?冷めるの?」
「もちろん、おぼれるのさ」
「ひとつにおぼれたら他のものがなおざりになるわ」
「でも、成熟した恋愛を楽しむのなら思いっきりおぼれるのもたまにはいいと思う」
「成熟した恋愛っていうか、若い子の恋愛みたい」と私がくすっと笑うと、あなたは立ち止まった。
そして、背の高いあなたは私をやさしく見下ろすと言った。
「この前、僕が来年仕事をセミリタイアすること言ったよね」
「ええ」
「我が家はそれを機会に夫婦が別々になることになったんだ」
「まあ・・・」
「いや、君のせいではない。僕ら夫婦の問題だ」
「知らなかったわ」
「君に伝えるつもりはなかった。君とは今の状態でつきあっていこうと思っていた。
でも、今日、君がニュートラルの話題をふったので僕はちょっと考えたんだ。
そうか、家庭がなくなり、仕事もなくなるってことは、僕はニュートラルでいる必要がなくなるんだってね」
あなたは、私の手をしっかり握って歩き出した。
私は聞いた。「もう一度聞くわ。おぼれるというの?」
「そうだ。でも、女性におぼれるのではなく、成熟した恋を愛にかえるために大人のラブロマンスにおぼれるのさ。
二人でね。
僕らはこれからまた違う関係になって、今までと違うものを目指して新しい関係になるんだ。
新しいラブロマンスに二人でおぼれるというわけだ。
僕らはニュートラルな自分たちを経験しているから、きっとうまくおぼれられるはずさ」
テニスコートでは老夫婦がプレイを楽しんでいる。
ふっと風が流れると、ブロッサミングロマンスの香りがした。
成熟した夫婦の香りなのだろうか。
私は成熟した花のかぐわしい香りを感じながら考えた。
激しい恋愛だけが成熟したものとは限らないのだわ、穏やかな平和な愛こそが成熟したそれなのかもしれない、と。
そうして、その成熟したロマンスを知るには、恋する自分をニュートラルにできる術が必要なのだ。
ということは、ニュートラルな自分って恋している時だけに感じるものなのかもしれない。
それが、愛にかわるときニュートラルからどちらかに傾く。
冷める側かおぼれる側か。
おぼれるというのは悪い意味ではない。
シャンパンが注がれたバスタブの中でその香りに酔っておぼれるように、成熟したラブロマンスをつくり上げる楽しみにおぼれるのだ。
恋が愛にかわる瞬間。
それは、真ん中にいなくてもいいと許しが出たその時なのかもしれない。
The end・・・ Written by 鈴乃@Akeming
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【 Bloosoming Romance 後記 】
恋愛物が書きたくて、昨日の朝から夜出かけるまでチャチャっと書いてみました
私の考え方そのものがそのまんまストーリーに反映されてます
「私ってこんな人間だ」
ってストーリーの中で何度も繰り返してますが、実は私自身のことを書いてました
こういうシチュエーションだったら、私ならこうするな、こう言うな、、、っていう感じで
さて、このお話に出てくる女性の最後の台詞
「それは、真ん中にいなくてもいいと許しが出たその時なのかもしれない。」
真ん中にいなくてもいいという許しはどうしたら出るのでしょう
お話に書いたのをまとめると下記の通りです
●恋愛の相手との関係を縛らない。自分と相手は「私とあなた」以外の何者でもないと理解している
●お互い依存し合っていない自立した関係
●多くを望まない
●一緒にいて心地よい関係が築ける
ストーリーに書かなかったけれどあと、こんなのも大切なのかと。。。
●お互いを尊重し合って認め合う関係
↑
これができていればOKと私は思う
片方が認めているだけではなく、お互いが認め合うことが大切
そのためには自分の人生の意味を深く考えて、自分がどうやって生きたいのかしっかり持つことが必要かと、、、
難しく考えなくても何でもいいのです
いただいた自分の命を尊いものと感謝する気持ちを持つだけで、人生の意味を考えているのだと思う
自分の命に感謝できれば、パートナーの存在も愛しいと思うんですよね。。。
そうするとこんな自分に気づくはず
↓
●人はそれぞれだと認識できる。支配欲、独占欲などのエゴを捨てられる
さてさて
カタイ話は置いておいて~
お食事の写真が中途半端だったので続きね!!
今回、ストーリーではランチと書いてありますが、使った写真はディナーのもの
でもこちらのお店はディナーのメニューがランチに出てます
この日、私はオードブルは迷いに迷って鱧
メインをウナギにしたかったので似たような鱧はどうかな。。。と思ったのだけど
コーンのフリットにひかれてオーダー
ソース+ポロネギ+鱧+コーンのフリットが最高の組み合わせ
で、メインのウナギを使ったお料理
パイ包みだったので前菜とはまったく違うお味!
パイの中にウナギとフォアグラが!!
めっちゃおいしかったーー


