私はベッドに寝転がって洋書の表紙を見ていた。
「easy food」と書かれたその洋書は、青山の洋書専門店で今日買った。
表紙の写真のパスタに何が入っているのかを私は想像していた。
easy foodというようにシンプルなパスタ。
ドライトマトにグリーンピース、そしてたぶんスィートバジルの千切りだろう。
一見、紫蘇に見えるけれど洋書のクッキングブックだからバジルだと私は思った。
味付けはシンプルにオリーブオイル、ガーリック、赤唐辛子、塩コショウ、あとアンチョビが少しかしら、
などと考えていたら、枕に置いてあった携帯電話が光った。
待ち受け画面には「Joe」と表示されていた。
ジョーは日本人だ。
本当の名前は泰成。
サンフランシスコに住んでいるとき、アメリカ人の友人たちにジョーと呼ばれていたそうだ。
ヤスナリは外国人には呼びづらい日本名だ。
城嶋という姓だからジョーと呼ばれていたのだけど、ジョーは日本でも「Joe Johshima(ジョー・ジョーシマ)です」と自己紹介する。
「あなたかと思った」
と私は電話に出るなり言った。
「電話をとるのが早いね。コールはたったの1回だったよ」とジョー。
「そろそろかかってくると思って構えていたのよ」私は笑った。
ジョーは仕事が終わると毎晩私に電話をくれる。
「何してたの?」
「今、私はベッドに寝転がって『これは紫蘇じゃないし、スィートバジルだわ』って考えてた」
「お料理のレシピを考えてたのかな?」
「いいえ。クッキングブックの表紙のパスタを見ていたの」
「よし、その表紙のパスタがどんなパスタか僕が当てよう。
シンプルなトマトソースのパスタ。その上にちぎったスィートバジルだ」
「違うわ」
「それなら・・・。赤と緑のコントラストが白いパスタに映える一品だな。赤はフレッシュトマト、緑はスィートバジル」
「近いけど違うわ。赤はドライトマト、緑はグリーンピース。そこにスィートバジルの千切り」
「おいしそうだ。今、僕は仕事の帰りで非常におなかをすかせながら歩いている。
夜の10時過ぎというのにまだ夕飯にありつけていない」
「まあ、それはかわいそうだわ」と私は気の毒そうに言った。
「ミサキが今何をしていたのかはわかった。では、今日は何をしていた?」
「この洋書を買ったわ」
「ほしくなってわざわざ買いに出かけたのかい?」
「いいえ。今日は一歩も家から出ずに仕事をするはずだったの。
でもお風呂に入ったら急に髪の毛を切りたくなったの」
「いつものことだ。君はお風呂に入ると予定が変更することが多い。で、切ってきたの?」
「ええ。いつも行くサロンは何週目かの月曜日がお休みだなの。
だから、『今週の月曜日はお休みではありませんように』ってお願いしつつ一か八か予約の電話をいれたわ。
そうしたら、誰も出なかった。『あら、やっぱりお休みなんだわ』ってとてもがっかりした気持ちになった。
思い立ったらすぐに行動に移したかったから他のサロンに行くべきか悩んだ。
でもいつものところがいいから今日はあきらめようと思ったの」
「いつものところってアロマオイルをシャンプーにブレンドしてくれるサロン?」
「まあ、よくおぼえているわね。そうよ、ここ数年はそこしか行っていないわ」
「ある時君の髪がいつもの香りと違って『香りが違うね』って言ったら
『ヘアサロンのシャンプーの香り。好きなアロマオイルをブレンドしてくれるの』って君が言っていた。
あの日は前髪を切った日だったね。じゃあ別のサロンに行ったの?」
「それが、もう一度電話してみようっていう気になってリダイアルしたら今度は電話が通じたの」
「その前にかけた電話はタイミングが悪くてスタッフが誰も出られなかったんだね」
「そうね。そして、予約を入れたわ。歩いていけるところだから20分後に。
今日私のしたいと思ったことがすぐ実現できて大満足だった。
それでね、髪がさっぱりしたら気分もさっぱりして、何かお買い物したくなったの。
お買い物はお洋服や靴では今日の私は満足できないと思った。
自分の中のクリエイティブなものとかアーティスティックなもの揺さぶる何かがほしいと思った」
「そうか、それで洋書なんだね」
「そう。ヘアサロンで髪を切っているとき、終わったら行くところを頭の中の地図に描いていた。
ヘアサロンを出て、骨董通りの信号を渡る。
骨董通りを青山通り方面に向かって最初の信号の角の右の小道に入る。
そして、私の好きな雑貨屋でガラスの大きな器を探す。なかったら洋書屋に行く。
フレンチカントリーのインテリアか、クッキングのカテゴリーで気に入るものを探して何かしら購入する。
そうしたら今度は表参道駅まで歩いて角のマーケットでいちごを買って、歩いて帰宅する」
「頭の地図通りに動けたの?」
「ええ。めずらしく寄り道しないで行きたいと絞ったところだけに行けたわ。
ブティックのショーウィンドーのパステルカラーのお洋服は素敵だったけれど、それらを見たい、ほしい、という気持ちは私の中を素通りして、私の思いは洋書の写真に向かっていた。
雑貨屋へは自分の業務的な指示で行ったの。
プレゼントでいただいた薔薇でドライフラワーを作ったのでそれを入れるガラスの器がほしかったのだけど、気に入ったものがなかったのが残念だった」
「洋書はクッキングブックにしたんだね」
「芸術的な絵画やフォトグラフもいいけれど、きっと見ていてすぐに飽きると思った。
それよりも自分の好きなカテゴリーで素敵な写真が見たいなと思って。
で、お料理の本とインテリアの本。
私が選んだ本は『easy food』といって忙しい人のためのすぐできるお料理のレシピブック。
お料理の写真がきれいなので購入を決めたわ。
あとは『White Home』という真っ白なインテリアのインテリアブック」
「じゃあ、今度、真っ白なリネンのテーブルでそのクッキングブックの君のお気に入りのレシピをごちそうしてくれ。
想像したら我慢ができなくなってきた。
今、外苑西通りを歩いているところだが、もうすぐ先にイタリアンレストランがあるんだ。
グラスワインを一杯とトマトソースのパスタを食べて帰るよ。じゃあ、明日また」
「イタリアンディナーを楽しんできてね」
私は電話を切ると、クッキングブックを開いてみた。
お料理の写真がとてもアーティスティックなクッキングブックだ。
写真を見るだけで想像力が働く。
何が入っているのだろう。
どんな作り方なのだろう。
そして、意外な材料に驚かされる。
英語だけど、easy foodというだけあって簡単な英語のレシピだ。
なので「これならこのレシピのお料理をジョーに作ってあげられる」と思った。
私はクッキングブックを見ながら創造的なアイデアと芸術的な何かが沸き起こる自分を感じてわくわくした。
今日は髪の毛を切っている最中に、自分の中の自分がアートを楽しみたいと言った。
なぜだろうか。
髪を切ってもらっているときの私はとても正直な自分だったと思う。
傷んだ髪の毛が切り落とされると、悪いものがなくなったかのような清々しい気持ちになれた。
すると、自分が「今日は自分が喜ぶことをしよう。心が躍るようなものを手に入れよう」と言った。
すぐに洋書屋が頭に思い描かれた。
私は物質的な欲求を満たしたいわけではなかった。
そして、欲していたものは、知的なものではなく、アート的なものだったのだ。
「ふーん、トマトスパゲッティにアボカド、フレッシュチェリートマト、コリアンダー、ガーリック、レモン・・・
コリアンダーが入っているのね。アボカドと合うのかしら。食べてみたい」
私は自分の中の創造的な何かが揺れ動き、いろいろなひらめきが頭を駆け巡るような感覚をおぼえた。
ジョーは今頃ワイングラス片手にトマトソースのパスタがテーブルにサーヴされるのを待ちに待っているところだろう。
今から急いで支度すれば間に合うかしら。
このクッキングブックを持って出かけよう。
ジョーと食後のデザートワインを飲みながら、一緒にこの洋書の素敵な写真を見る。
easy food
簡単に作れる食べ物。
そして2人で決めるのだ。
2人で食べるeasy foodを。
インスピレーションで決めよう。
easyに。
私はジョーにメールをうった。
「ゆっくり召し上がれ。そして、食後にデザートワインをオーダーして。2人分よ。
白いリネンでのディナーのメニューを今夜決めましょう」
The End・・・ Written by 鈴乃@Akeming
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【 easy food 後記 】
ヘアサロンに行った日のわたしは何かを自分に与えたい気持ちでいっぱいだった
でも、主人公のミサキが言うように物質欲を満足させたいわけではなく、アート的なものを欲していた
で、髪を切ってもらいながら、今日は洋書を買おう、そして洋書の写真を見て自分を満足させよう!って思った
お料理の写真がきれい!!
リコッタチーズ入りトマトスープ!おいしそう!
洋書、好き!
この日は思いつきのお買い物だったけれど、とっても満足できたわ~
そうして満足する自分を確認しつつ、ある本に書いてあったことを思い出しました
「クリエイティブな活動はたましいから物を見ることができるように導き、直感的な自己へつなぐケーブルの役目を果たす」という・・・
創造的なことをしているときにインスピレーションがおりやすく、ひらめきが起こりやすいそう
それは、一時的に考えることをやめるので、ただあるがままになるから
確かに。。。
文章を書いたり、絵を見たり、または描いたり、お料理をしたり、縫い物をしているとき、などなど
何かを自分が生み出しているときって考えることをやめて集中するよね
その状態って自分がただあるがままって感じ。。。
そういった状態って、わたしたちの本質、生まれついてあったものだと思う
だって小さい子供って何かを作ることが好きだよね?
自分が作るものはさいこー♪って、夢中になって楽しみながら作るよね
小さい頃の自分が心からアートを楽しんでいたことを思い出すと、今はあんなに純粋に楽しめるのかなって思う
アーティストにならなくてもいい
アートを楽しめばいい
自分を開放して創造的なことや芸術的なことを楽しむ心が大切だと思うから
そうすることで、ひらめきが起こりやすくなるとわたしも思うなー
ひらめきって大切なメッセージだと思う
大好きな大切な自分からのメッセージをぜひ受け取って
そして、受け取りやすくなるために忘れていたことを取り戻してほしいとわたしは願います!
わたしは今回洋書の写真を見ることでアートを楽しんでいました
インスピレーションは何かおりた?って?
はい、おりました
こうして今回のショートストーリーを書き上げましたから!φ(・ω・ )
そして、文章を書くことによってさらに創造的なことをしたわたし
子供の自分に戻って話を書くことを純粋に楽しみながら一話綴りました
で、夢中になって文を綴りながら、この後記に書くべき大切なことを思いついたのだから、
やっぱりクリエイティブでアーティスティックな活動って自分にとって大切なんだなって実感
余談:
もっと大きな間口のポプリケースのようなガラスの器がほしいの~
これ、クリスマスプレゼントにいただいたローズバス用の薔薇





