朝、いつものように目覚まし時計のアラームが鳴る前に目が覚めた。
昨夜、なかなか寝付けられなかったので、ぐっすり寝た気がしない。
疲れが残ったまま、朝を迎えた感じだ。
今日は一体何曜日なのだろう?とぼんやりとした意識の中で思い出す。
昨日、自分は何をしていただろうか・・・
誰と会ったっけ・・・
すると、君の笑顔がぼやけた背景の中にはっきりと映し出された。
昨日、僕が撮った君の写真の顔がそのまま映し出された。
君は、テーブルに肘をついて微笑んでいる。
君と会う前日に手に入れたiPhoneを君に見せて、それで、一枚写真を撮った。
「わぁ、すごい!カメラみたいに性能いいのね。その画像、私に送って!」
と言いながら、君は、僕のiPhoneを手にとって画面に手を触れてはしゃいでいた。
「これ、写真撮ってもいい?」
「iPhoneを?いいよ。」
「すごい機能なのね!私が持っていたらもったいないわ。だって、使いこなせないもの。」
陽気な君が登場したかと思ったら、次は、泣いている君の姿が再生された。
「私・・・本当はつらいの・・・」
本当はつらいの・・・
・・・つらいの・・・
・・・いの・・・
・・・・・・
・・・
君の声が夢と現実の狭間にいる僕の中で響き渡り、フェードアウトしていく・・・
少しずつ、頭が覚醒されて現実の世界にたどり着いた僕は、やっと自分のいる位置を僕の頭の中のカレンダーで確認した。
今日は月曜日か・・・
僕の嫌いな月曜日だ。
僕は月曜日が嫌いだ。
頭の中にスケジュール表の枠が現われた。
自分がいる四角い場所は、前から数えて2コマ目。
2コマ目から予定がギッシリつまっている。
1コマ目が日曜日って誰が決めたのだろう。
一週間の2日目にすでにきていることを喜ぶべきか、迷う。
僕は、最後のコマの土曜日が好きだ。
頭も心も一日ゆっくり休めることができるから。
日曜日も仕事は休みなのだが、日曜日は残り少ない時間が余計焦りを募らせる。
月曜日がくるまで24時間もあるのに、日曜日の朝になった途端「ああ、明日は月曜日か・・」と思ってしまう僕だ。
だから、月曜日が2コマ目というのは、僕的にはちょうどいいのかもしれない。
日曜日も月曜日と連動して嫌な曜日だから。
月曜日から新しい週、という見方もあるが、僕は、日曜日から土曜日が一括りという派だ。
だから、本当は土曜日に君と会うのが好きだ。
心を思いっきり開放できるからね。
日曜日に君に会うと、何だかせつなくなるんだよ。
君を連れてどこかに消えてしまいたくなるから・・・
昨日の日曜日、君とお昼過ぎに会う約束をしていた。
遅めの昼食を軽くとろう、ということだった。
ところが、お昼ちょっと前に届いた君のメールがまるで子供のようだった。
>おなかがすいてきちゃった!
>少し早めにお迎えにきて(>人<)
最後の絵文字が控えめな君らしく、そんな君を想像したらおなかをすかせた小さな子供のようで愛しく思えた。
「じゃあ、早く彼女にご飯を食べさせないと」
なんて、子供の親のような気持ちで、僕は大慌てで支度をして車に乗り込んだ。
「まるで、僕はヒナ鳥にえさを運ぶ親鳥ようだな・・・」
運転しながら、ふふっと苦笑いをしつつ、君がおいしそうに食事しているシーンを思い浮かべた。
約束は前夜決めた。
先週、君が何やら大きな決心をした様子だったので、その話を聞いてあげようと思っていたところ、夕方過ぎに君から電話をもらった。
君から電話があるときは、かなり落ち込んでいる時か、困っている時だ。
うれしい報告は、メールで済ませる君だからね。
だから、君の名前が買ったばかりの僕のiPhoneの画面に表示されたとき、「おや、何かあったのかな?」と思った。
案の定、君は困った様子で、その困ったことの原因となった出来事を吐き出すように僕にしゃべりだした。
話し出したら止まらなかった。
僕は、君の話を聞く余裕はあったが、「きちんと会って話を聞こう。それに、別件で君の決心も聞かなくちゃね。」と、優しくなだめるように言い、日曜日の約束をした。
きっと、今回の困ったことは、明日会った時には君なりに解決しているはずだ、と思いながら。
君はいつも自分で消化する。
困ったことや嫌なことが起こると、僕に泣きついてくるけれど、治癒力が人一倍強いというか、いつの間にか傷が癒えている。
その見えない力は何なんだろう?といつも不思議に思うよ。
たぶん、明日会って僕が「どうした?解決したかい?」と聞けば、週末悩んでいた自分のことを笑いとばすのだろう。
なんて、電話を切りながら思った僕だった。
「昨日、お電話ではありがとう。」
君は、僕の車に乗り込むと、何となくふっきれた面持ちで僕に言った。
「もう大丈夫なんだね?」
僕は、「やはり」とほくそ笑みながらギアを入れ、車を発進させた。
「なんでわかるの?」
「君のことならだいたいわかるよ。」
「まあ、魔法使いみたい。」
「あはは、そういう能力はないよ。普通に見て、普通に考えればだいたいのことはわかるものさ。」
「ふぅん、でも私には人が考えていることなんてわからないわ。」
「そう、それに、君は特にわかりやすい。」
と言って僕はまた「あはは」と笑った。
君は、普通の人以上にオープンハートだからね。
かくしだてがなくてありのままの自分をさらけ出す、あけっぴろげな人。
そして、信じやすく、真珠のような純な心を持っている。
言い方が悪いけれど、だから、君は人につけ込まれやすい。
利用されやすいと言った方がいいかな。
でも、君はわかっているんだよね、そういう自分を。
わかった上で、すべて許容してしまうんだ。
その結果、つらいことが起こって僕の出番が登場するわけだ。
電話で聞いた困ったことは解決したようだが、君からはまだぐずついた何かが感じられた。
でも、それも僕には予想済みだ。
君のことは、なぜか手に取るようにわかる僕だからね。
「さて、どこに行こうか。」
「そうね、あなたは軽く、がいいんでしょ?前に行った合鴨の炙り焼きがあるお蕎麦屋はどうかしら。」
「君を夕方までに送り返さなくてはいけないから、あまり遠くに行かず、車がとめられるところにしよう。」
僕たちは、恵比寿駅近くを走っていた。
「ホテルにしよう。ホテルの駐車場にとめて、何を食べるかはそれから考えよう。」
「そうしましょう。ホテルなら和洋中なんでもあるから選べていいわね。」
そんなわけで、僕たちは、ヨーロピアンクラシックで統一された恵比寿駅近くのホテルに向かった。
しかしながら、軽く食事ができるレストランは満席だった。
ラウンジの席でさえも1時間待ちだった。
2階の和食の店しか空いていなくて、軽く食べようと提案した僕だが、結局、軽食というわけにいかず寿司を食べることになった。
君は、少し遠慮がちに店に入った。
なぜ遠慮がちだったのか、僕にはわかっている。
思ったとおり、君はテーブルにつくと、小さな声で言った。
「ねえ、お寿司で大丈夫?」
「大丈夫だよ。」
「だって、ご飯よ。」
「たまにはいいのさ。いつもは節制しているのだから。君と一緒の時だけだよ。」
「そうね、いつも我慢しているのはつらいわ。じゃあ、食べちゃいましょ。」
遠慮がちだった君の瞳が、きらきら輝き笑顔にかわった。
僕は、血糖値が高い。
医者から糖分の節制を言い渡されている。
それなので、炭水化物類は極力控えなくてはいけない身だった。
でも、君と一緒の時は、そんなことを忘れて楽しく食事したいものだ。
月に数回のことなのだから。
オーダーを済ませると、僕は君にiPhoneを披露した。
「あら?なぁに?それ・・・また新しい秘密兵器を手に入れたのね。」
君は、何も知らないからなぁ、と僕は心の中でふふっと笑った。
「iPhoneだよ。昨日やっとの思いで手に入れた。」
僕は、君に画面を見せて、いろいろとデモンストレーションしてみせた。
君は目を輝かせ、「すごい!」を連発していた。
「写真を撮ろう。」
と言って、君にレンズを向けると君は頬杖をついたまま、こちらに目を向けて微笑んだ。
撮った画像を見せたら、君はうれしそうだった。
「わぁ、すごい!カメラみたいに性能いいのね。その画像、私に送って!」
「ああ、いいよ。」
「これ、写真撮ってもいい?」
「iPhoneを?いいよ。」
「すごい機能なのね!私が持っていたらもったいないわ。だって、使いこなせないもの。」
そう言いながら、君は、鞄からデジタルカメラを取り出した。
「その写真、何に使うの?」
「わからないけど撮りたい。」
笑いながら、君は、iPhoneの写真を撮っていた。
こうして、食事の間は、たわいない話題で時間が過ぎた。
僕は、おなかをすかせたヒナ鳥に食事をただ与えたいと思ったから、こちらからはあえて何もふらなかった。
そんなわけで、君にとっての重要な話は、帰りの車中で始まった。
ホテルから君の家までは車で10分ほどだ。
君の話がそんなに短い時間で片付くわけがない。
でも、言い出しづらかったのだろう。
きっと、切羽詰っていたに違いない。
僕はそのあたりも理解しつつ、君の話に耳を傾けた。
「竹のようにまっすぐ生きたいのに、それを折ったり、まっすぐに生きていることにつけこんで、騙す人が許せない。」
前にもそんなメールが届いたことがあったな、と思いながら僕は君の話を聞いていた。
君は、この数ヶ月、友人に騙されたことでいろいろなことが起こり、その処理のため、心が病んでいた。
「でも、怒っている場合じゃないわ。現実を受け止めて、今やらなくてはいけないことを私はやらなくてはいけないと思うの。」
「で、どうするの?」
「不本意ながら、自分のやりたくないことをするわ。」
「そうか。」
「でも、すべて学びと思ってやるけれど・・・だって、ここまでのことが起きたのなら、そうしなくはいけない運命だと思うから。」
「僕は何も言わないよ。君が決めたことならやればいい。」
僕は続けた。
「でも、嫌々やるんならやめた方がいい。君がやろうとしていることは、大変だろうと思う。でもどんなことも君らしさを出してうまくいく方法があると思うけどな。」
「私らしさ・・・?」
「そうだよ。だから、選択が大事なんじゃなくて決めたことを君らしくやりとおすことが大事なんだと思うよ。」
僕がそう言うと、君は黙ってしまった。
助手席をちらっと見ると、君は黙っていたのではなく、涙を堪えていたのだった。
「・・私・・わたし・・・」
と、君はむせび泣いた。
悲しみがこみあげたのか、息をつまらせながら君は泣いていた。
「私・・・本当はつらいの・・・」
僕は、車を車道の端によせ、ハザードランプをつけて停めた。
そして、何も言わず、君を泣かせておいた。
「いつも明るい私でいたいから、我慢してきたけれど・・・本当はつらくてしょうがない・・・」
僕は、泣いている君を抱きしめたいと思った。
大丈夫だよ、泣きなさいって。
確かに君は、いつも明るく楽しそうにしている。
はたから見ると、とても華やかな女性に見える。
でも、君はそれだけではないのを僕はよくわかっている。
僕は、むせび泣く君にやさしく言った。
「君は目立ちたがり屋やお金目的の人たちよりももっと崇高なレベルにあるんだ。僕が君を尊敬しているのはそういうところなんだよ。君本人がまだ自分でも気づいていないところがきっといっぱいあるはずだよ。だから、君らしいやり方で何でもできるよ。」
「・・うん・・・ありがとう・・・」
君はハンカチで涙を拭いながら、震える声で答えた。
「僕は何も言わないけれど、実は僕だってつらいことはいっぱいあるんだ。さあ、元気を出して。」
そして、言おうか言うまいか迷ったけれど、僕は言った。
「僕がついているから。」
すると、泣き止んだばかりの君は、また半べそをかきながら言った。
「・・わたし・・あなたが一番好き。あなただけはみんなと違う。やさしくしてくれる人や甘やかしてくれる人はいるけれど、きっと私なんか彼らにとってそのときを楽しむオモチャに近いんだわ・・・」
「それは、君がいけない。」
「私が?」
「そう、君が彼らにそう思わせる態度をとるからだよ。」
僕はその後は続けなかった。
ジェラシーととられたくなかったし、君自身が気がつかなくてはいけないことだからね。
君ってなんとなく頼りなく思えるから、男性は女として征服できそうって思っちゃうんだろうな、と僕は思う。
それに、君はオープンで親しみやすいから「彼女は自分がコントロールできる」って勘違いしてしまう人もいるだろう。
今までのことを思い出してごらんよ。
君はそういう相手とのつきあいに四苦八苦して僕に何度も泣きついてきただろ。
僕は、君が好きだったから、最初はそんな話を聞くのは嫌だった。
やきもちなんかじゃないんだ。
君を大切にしない男性が許せなかった。
だから、君がそんな男性のために苦労している話を聞くのが嫌だったんだ。
でも、僕は、もしかしたら君のチャージャー、いわゆる充電器みたいなものなのかもしれない、と思ったからいつも側にいて君を守っていた。
僕はね、君が唯一本心から甘えられる男性になるために君と出会ったのだから。
君は沢山の人を幸せにしてあげたいと思ってる。
でも、僕はその対象じゃないんだよ。
僕は君がそういうミッションに向かって進んでいけるように、唯一君が頼ったり、甘えられる人間になってあげること。
それが僕の使命みたいだね。
「さあ、がんばろう。」
僕は、君が泣き止んだのを確かめると車を発進させた。
君の本当の力を知っているのは、僕くらいだ。
君の奥底で目覚めはじめた魂の部分に触れたことのある人間じゃないと君のことはわからない。
僕は、「君なら大丈夫だよ」と心の中でつぶやきながら、アクセルを踏んだ。
日曜日の日暮れ時。
今朝は土曜日に近かったのに、もう月曜日に近い。
「さあ、がんばろう」と君に言ったものの、僕は翌朝憂鬱になる自分を想像すると、君を連れてどこかに逃げたくなった。
仕事も家族もすべて捨てて、君と逃避行。
いいかもしれない。
どこに逃げようか・・・
夕暮れの明治通りをそのままずっと走るのもいいな、と思った。
このままあてもなくまっすぐ走ったらどこに着くのだろう。
信号待ちで隣の君を見たら、君は、涙ともにつらいものが剥がれ落ちたようで、微笑んでいた。
きっと、今の君は僕との逃避行についてきてくれないだろう。
君は、さっきまで泣いていたのに、すっかり治癒していた。
君は、本当に立ち直るのが早い。
まっすぐ走るのはやめだ。
君の家へ向かうために右折ラインに入った。
THE END Written by 鈴乃@Akeming
【 逃避行願望 後記 】
男性の語り口のお話、いかがでした?
一部の会話はノンフィクションです。
しかし、この男性、やさしい人ですね。
感激しながら書いていました(自分で書いたくせに(笑))
ところで。
今回のショートストーリーのタイトルは
逃避行願望
誰だって逃げたくなることはある。
私、去年、現実逃避のために日本を脱出しました。
そのときは気がつかなかったけれど、よーく考えると現実から逃げたくて(つらいことがありました)出かけてた。
「自分は行くべきなんだ」って言い聞かせていたけれど・・・
ある海外の知人のメールでハッと気づいた・・・
彼とは会ったことはないのだけど、友人の紹介でメールを送ったの。
「あなたのいる国に行きたいです。
今、私はトラブルに巻き込まれていて困っています。
こんな私を受け入れてくださいますか?」
そんな内容だったかな。
そうしたら、その方は
「君は今来てはいけない。
トラブルを解決してハッピーになったらいらっしゃい」
と。
その他、いろいろアドバイスをくれて、結局、私はまだその方と会っていない・・・
でも「ハッピーになったら会いに行こう!」という目標ができた!
その彼の返信を読んで、現実から逃げてはいけないんだなって思った。
立ち向かって、ひとつひとつ解決していかなきゃね~~
さて、このお話に出てくるiPhone
はじめて見たけれど、すごいね~~~
ワードやエクセルはできないけれど、これ一台あればだいたいの用事は済ませられそう。
インターネットにつないでサイトが見られるのだけど、他の携帯電話と違って、携帯サイトではなくPCで見るのと同じものを見られる!
こんな感じで~ ↓ (私のブログね!)
便利なものが増えましたね・・・
私はどうせ使いこなせないので買いませんが・・・



