その家の居間には
たくさんのコスモスが花瓶に生けてありました



優しそうなご夫婦がお茶を出して下さり
娘のことをいろいろ話しました




4月から仕事に復帰したかった私は
その時11ヶ月になる娘を預かってもらえる所や人を探し歩いて
ようやく出会えたご夫婦です









これで一安心と
3月までの日々を大切にしようと思っていました




ところが思ってもみないことが起きました
3月3日のことです
もうヨチヨチ歩きもできるようになっていた娘が   急に座れなくなり  動けなくなり……
すぐに日赤病院に入院しました




目も見えなくなり
母乳も飲めなくなり
私以外の人に抱っこされると  火がついたように泣きました









先のご夫婦が見舞いに来て下さいました
娘の様子を見て
申し訳なさそうに
「ちょっと  面倒をみることができないです」
そう言われました
当たり前のことです





私は辞職もやむを得ないと病院の付き添いの簡易ベッドのなかで決めました
娘の命さえあればいい




ところが
医者もずっと分からなかった娘の病気の原因が  3月も終わろうとする頃に明らかになったのです




口内炎がもとで体内に入ったウィルスが脳の1ヶ所から出ていかず  悪さをしていたのです
それが何かの拍子に排出されました




と同時に
娘は  また前の娘に戻りました
泣くだけでなく
飲んで
笑って
立って
歩いて









無事に退院できたのが4月
職場は1ヶ月後の復帰となるように申請することができました




親戚に助けていただき
5月から娘は保育園に預かってもらえる運びとなりました




その保育園に孫が通園しています




コスモスの花が
10月の爽やかな日に揺れると
あの家の居間やご夫婦や病院のことやらを思い出します




ある花を見ると
ふと昔のことを思い出される……
それは   皆が経験することかもしれません




私は
花物語
幾つもあります