とある日の事に御座います。

朝、髪をとかしていたお豆は…見てはいけない物を見た…ほんの一瞬、頭皮に空白を見た気が致しました。

恐る恐る、確認致しますと…悲しいかな、見間違いでは御座いませんでした。

かき分けた髪の隙間から…正に十円大の白光する禿がその姿を現しましたに御座います。

慌てて…職場の近くの皮膚科を探し、駆け込みました。

『ストレスは貯め込まない様にしないとね』

短い診察の後…老医師が穏やかに優しい口調で申しました。

お豆は…不覚にも泣きそうになり、ヒシと堪えましたに御座います。

遅刻ギリギリに職場に滑り込んだお豆は…まだ誰にも話す気になれず、寝坊した振りで仕事を始めました。

しばらくして、大局様が出勤して参りました。

妙にご機嫌な様子で…普段は決してご自分の方から言う事の無い『おはよう』をお豆より先に言って参りました。

更に…。

お豆ににじり寄って参りました。

さり気なく警戒しるお豆に大局様は申されました。

『そろそろ辞めようと思うの。後は宜しくお願いね』

何でも…。

仕事をリタイヤしたら趣味に没頭しようと計画しているらしいが目が疲れる等の体力の低下をヒシと感じるので体力のある内にリタイヤするとの事で御座いました。

『辞める』とはあちこちで頻繁に言っているとの噂も御座いますので…少々、眉唾な気がするお豆で御座いました。

お豆が隣の売り場のベテランパートさんにこの話をしますと。

『あの人は気まぐれヴィーナスだから』

と…指で眉をなぜながら申されました。

何でも…大局様は若かかりし頃は美しかったそうに御座います。

『本人は過去の栄光を引きずってるけど…残念ながらもう見る影も無いよね』

だそうに御座います。

はてさて…。

大局様は本当に辞めるのか?

お豆に何をお願いしたいと言うのか?

くわばらくわばら…。

無意識に唱える、お豆で御座いました。