「私はコロンゾンがいるから、生きていける……」
「そうだねえ、私。大切な弟と、いつか絶対に分かり合いたいからっ!」
フレイム・タンと、オルセニックは、それぞれの生きる事の根拠性を述べた。
紅蓮の闇と、黄色い悪魔。
二人共、何故だか、真実の愛を知っていて。神なるものを信じていて、大切な人がいて、この世界が生きるに値するものだと考えていて、それで、世界を簡単にぶち壊せるだけの力を有している。
フェンリルと、レイアは、何処かで、彼女達を羨ましく思う。
愛する事も出来ないし、愛されたいとも思わない。
何の為に生きているのか分からないから、自分を愛するしかない。
「お前らは、他人に対する愛を知っているんだな?」
フェンリルは、皮肉交じりで、二人に対して告げた。
二人は、何の衒いもなく、素直に首を縦に振った。どうやら、皮肉はまるで通じなかったみたいだった。
今いる場所、綺麗に整えられた大聖堂だ。
此処は無人だ。外は、ただただ野山が広がっている。近くには、野イチゴなども生えていた。空が白に近く、蒼い。
ステンドグラスは、黄道十二宮が描かれている。
十字架の背後には、セフィロトの樹木が幾何学模様のように記されていた。
此処で。
みなで、食事を行っている。
明日は、敵同士かもしれない。
少なくとも、フェンリルは、フレイム・タンを憎悪しているし。オルセニックも気に入らない。何故、こんなにみなを好きになれないのだろう。
四名は、一緒に、食事をしていた。
レイアは、毒を盛られないように、慎重に二人を観察していた。
細切れにした野菜や、豚肉に牛肉、羊肉を手に入れてきて、みなで焼肉を行っていた。どうせなら、鍋でもやれば良かったが、レイアが警戒して、鉄板での食事に決めた。レイアいわく、鍋だと毒物を入れやすいらしい。
本来ならば、フレイムとオルセとは敵対している筈だった。
けれども、それも、今はどうでもよくなっていた。
レイアとフェンリル、かつて二人は、それぞれ彼女達と熾烈な戦いを行った。しかし、今は関係性が変化している。
フレイムは、幾つもの精神安定剤を口に入れて、かなり眠そうで、体調も悪そうにしていた。
オルセニックは、それと対比するように、はしゃぎ回って、変な空想に耽っていた。もしかすると、みんなを家族のように思い始めているのかもしれない。そんなお花畑のような幸せの境地に至れるのは、彼女くらいのものなのだろう。
ゴルゴンは、白パンをもぐもぐと口に入れていた。
何とか、味が分かったような気分になる。
やはり、彼は人に混ざるのが苦手のようだった。
ゴルゴンは、デス・ウィングやエスプリとは、多少、仲は良いらしいのだが。それでも、違和感もあるらしい。実際、関係性というものは、そんなものなのだろう。
ある意味で言えば、誰も一番、強くはないのだ。
強さとは、相対化されていくものでしかないのではないのか。
フェンリルは、全てが下らなく思えてしまう。
「オレさあ、漫画やゲームや小説でさ。敵同士が、最終的に仲良くやっていくって、展開が大嫌いなんだよ。悲惨なストーリーで、殺し合いとかしている癖にさ。でも、みんな、仲良くなりやがるのな。オレがもし、文章が上手くて、ストーリー構成が上手くて、ちゃんと小説っていうものが書けるんなら、そういう展開を絶対に選ばないな」
ははっ、と。フレイム・タンは笑う。
「じゃあ、全滅パターンとかどうですかねえ? いいですよ。最後に主人公が、首を括る、とかね。脇役が拳銃自殺をして、別の脇役が仲間をリンチして殺す話とか、書きましょうよ? とっても、面白いですよ?」
「お前の趣味はいいよ、もう」
フェンリルは溜め息を吐きながら、羊肉をレタスで巻いて口に入れる。
オルセは、アイス・クリームを熱した鉄板の上に置いていた。彼女にとっては、極上に美味しいものらしい。
アイスは、何にでも合う不思議な魔法の調味料だ、と彼女は変な事を言うのだった。
ゴルゴンは、そんな四名を見ながら、何だか柔和な顔を浮かべている。
「何故、みんな仲良くなれないのだろう、と思った。苦しかった、しかし、お前らは本当に何なんだろうな、何で、そんなに仲良くなれるんだ? 聞く処によれば、お前達は、殺し合いをした仲ではなかったのか?」
フェンリルは自分の皿の中に、生卵を落とす。そして、その上に、調味料を注ぐ。
「オレは此処にいる全員を殺害したいんだけどな」
「人を殺した事が無い癖に」
レイアは冷たくせせら笑った。
フェンリルは嫌そうな顔をする。
「私は病気だからな。……この世界を壊したい、っていう衝動がいつも込み上げてくる。世界は無限の暗闇だ。私はずっと、その中にいる。しかし、何故だろうな、私は本当は愛されたいのかもな?」
フレイムは、何処か寂しそうに言った。
「私はねっ、みんな仲良く出来るなら、そうすればいいと思うんだよっ! だって、みんな大好きになれるだろうし、みんな一緒に遊べたら、それでいいと思っているからねっ!」
オルセは、どろどろに溶けたアイスを口に運ぶ。
焼肉の垂れなどがこびり付いていたが、特に彼女は気にしていないみたいだった。
「お前達、……生きているんだな。それも、真剣に……」
ゴルゴンは、彼らを見ていると、何だか安らいでいく。
自分の存在に価値は無いと、彼は思っていた。今もそうなのだろう。
しかし、こんな光景を眼の辺りにするのは、悪いものではないような気がする。
そして、胸の奥に過ぎったものがある。
それは、四人全員の孤独だ。
彼らは、それぞれ、自分達の信念や価値観や世界観を持っていて、ずっとずっと戦ってきたのだろう。
そして、彼らが本質的には、分かり合っているわけではないのだろう。
あらゆる世界のあらゆる可能性、それを見てきた上でも、彼らは、何故だか不思議な気分にさせられる。
†
「そうだ、ゴルゴン・ブレス。お前、農業やれよ、農業」
フレイム・タンはゲラゲラと笑いながら、教会の椅子に寝転がって、彼を指差して言った。
「工場のネジ締めやスーパー・マーケットの荷降ろしでもいい。職人や定食屋で働くのもいい、そういう下らない人間らしい生活を送るのもいいんじゃないですか?
労働で人間らしさを手にするんですよ。もっとも、私なら、絶対にやりませんけどね、テロルと革命にこの身を捧げていますからねえ」
ひゃっはっはっはっ、と裏返った声で、彼女は哄笑する。
向精神薬の副作用なのか、かなりの躁状態に入っていた。
そして、少しだけ真面目そうな顔になる。
「貴方のですねえ、多重体の何名かは、農家でもやるんですよ。それで、自給自足する、そして、日々、人間らしい暮らしを送る。すると、貴方の役目だの何だのってのは、別にそれが全てじゃ無くなるんじゃないですかねえ? かつて、十字架に掛けられたとかいう歴史を持つ荊の冠を被った男も、転生したら、農民でもやればいいんじゃないですかねえ? まあ、私のような明らかにまともな生活出来ない人間は、絶対に出来ないんですけど。貴方なら、やってみると面白いかもしれませんよ?」
そして、一通り、まくし立てた後、面倒臭そうになって鼾をかき始めた。
それを聞いて、フェンリルが更に、囃し立てた。
「それは、面白いな? 相当、シュールだな? 聖典や神話の住民達が、有名な奴が、日々、凡庸に人間に紛れ込んで生きるのか。確かに、神々ってのは、何らかの職業を象徴している奴も多いものな? ゴルゴン、お前は普通の人間をやってみて、日々、生活するのも面白いのかもしれないな?」
毛布を被って寝ていたレイアは冷たく言い放つ。
「絶対に出来もしない癖に、やりもしない癖に。貴方達は、本当に、他人事のように言うのね。私は彼が、更に苦しむ事を望んでいるのだけれどもね? どうせ、私達は傭兵やテロリスト、暗殺者や賞金稼ぎみたいな暮らししか出来ない事を分かっている癖に。本当に、何なのかしらね?」
「デス・ウィングは、変な店開いて商売しているぜ? 憧れるよな。普通の生き方ってのは」
フェンリルは、悪意に満ちた挑発を続ける。
レイアは彼の戯言を放置する事にした。
フェンリルは、罰の悪そうな顔になった。
「……まあ、もっとも、あの女はまともな店なんて、開いていないけどな。なあ、レイア。お前さ、出来れば、貴方、馬鹿じゃないの? あんなのが、まともな仕事と言えるわけないでしょう、ってな感じで。突っ込んでくれないと、寂しいだろ? はあ…………」
彼は、すねたように言った。
「何で、私が貴方達の下らないお話に混ざらないといけないのかしら、寝るわ」
レイアは毛布を頭から被る。
話題のネタになっているゴルゴンは、何だか、可笑しくて仕方が無かった。
自分は、ずっと孤独なのだと思っていた。
しかし、此処にいる全員が、孤独なのだ。そして、苦悩し、絶望してきた。
苦しみは相対化出来るのかもしれない。
「俺に人間らしい生き方か……成る程、俺は神を降りる事が出来るのだとすれば、俺は幸福になれるのか…………」
†
「貴女は、感受性が強くて、傷付きやすいんだよねえ」
オルセは、フレイム・タンに向かって、ふふっと優しく微笑んだ。
毛布に包まりながら、オルセは彼女に話し掛ける。
特に、話すべき事なんて無い筈だった。それ程、お互いの事を知っているわけでもない。ただ、ラハブという少年を介して、知り合った。
そして、お互いの力を駆使して、共闘した。
本来ならば、それだけの関係性だった。
しかし、互いが互いに、多少なりとも、興味を抱いてはいた。
「かつて、私はレイアに言ったの。お友達になりましょう、って。でも、レイアは私を拒んだ。何でなのかなあ。私は、いつだって、寂しいのになあ」
フレイムは、眉間に皺を寄せる。この女は本当に掴めない。まともに話していると、かなり不安定になってくる時もある。
出会ってから、ずっと笑顔を絶やさない。何がそんなに幸せなのか。
生きていて、素晴らしいと、いつも顔に書かれているかのようだ。
それが、とても不思議で溜まらなかった。
まるで、彼女は前しか向いていないかのようだった。
「結構、食いしん坊だよね?」
そう言われて、フレイムは、はっと嘲るような顔になる。
確かに、焼肉をぱくぱく、際限無く食べていたような気がする。
何で、よく分からない連中に心を許してしまったのだろうか。
本来ならば、自分と大切な一人の男以外は、全員、殺害するべき敵としか認識していない筈なのにだ。
「みんな、皆殺しにしたいんだっけ? 貴女は?」
「そうですよ、それがどうしたんだよ」
フレイムは癖のある、敬語を織り交ぜた言葉で返す。
この言葉の使い方は、彼女の持っている感情の不安定さを端的に現すものでもあった。話している途中に、呂律が回らなくなったり、いきなり激情に駆られたりする。
フレイムは、いつだって、自分の中にある衝動に押し潰されそうだった。
二人共、世界を壊したかった。
けれども、二人はそれぞれ、別のロジックの下に世界を壊したかった。
フレイム・タンの破壊衝動は、他人や自分を認めてくれない世界に対する深い憎悪だったが、オルセニックの破壊願望は、子供が無邪気に他人の作った積み木の塔を壊す独占欲のようなものでしかなかった。
どちらも、みんなと分かり合えなかった。どうしようもない程、他人から理解されなかった。フレイムは呪詛と怨嗟だけを根底に生きてきたが、オルセはいつだって楽しかった。
けれども、どちらも他人と上手く分かり合う事が出来なかった。
フレイムは抑え切れない感情を込めながら、語り出す。
「コロンゾンと出会って。初めて、私は自分以上の存在が出来たような気がするんだ。私は憎むしかない世界の中で、何で、こんなに私の孤独を理解してくれて。誰もいなかった世界に、光を灯してくれた存在がいるのかを。多分、私は愛を知ったんだと思う。きっと、私はそういう人間を欲していた。他人は全部、私と同じように生きているようには思えなかった、殺害して、虐殺して、虫とか潰すみたいに死んで貰うしか無かった。街とか壊す時も、全部、紙芝居みたいでさ。何で、私はこんなに他人の痛みが理解出来ないんだってくらいに、壊して、壊して、踏み潰してきた。楽しかった。…………」
彼女の瞳は、曇天の空のように濁っている。
オルセは逆に、雲一つ無い空のような澄んだ瞳をしていた。
「そう……私、寂しいよ。弟もレイアも仲良くなってくれないから。ねえ、フレイム、私達は生きている。こんなに色んな事が頭を駆け巡っているのに、私達はいないんじゃないかって、そんなの嘘だよ。そうだよね?」
都市を、国を、大陸を、惑星を。
この世界を滅ぼす事が可能で、それを望み続けた女二人が欲しかった者は、誰もが欲している形の無いもので、それでも、誰もが求め続けるものでしかった。
愛されたかった。
あるいは、普通に愛するべき相手を手に入れたかった。
フレイムは、一気にまくし立てる。
「物語の悪役になるのが、幼い頃からの夢だった。ずっと、そういう本ばかり読んできたし。正義のヒーローだとか、英雄だとか、幸せな人生を送っている奴らの話が大嫌いで。私は読書家だったから。強さが欲しかったし、誰だって殺せるのだと思った。空しかったから、罪悪感なんて、ずっと無いし、今だってそんなもの存在しないんだ。私の生きていた国は、支配者がいて、そいつの政治が最悪で。世界の最底辺のような場所だった。餓死する奴、多過ぎて。身体を売っている女も多くて、人の肉を食う奴とかも。生きる為に、他人の物を盗むしか無かった」
オルセは彼女のくすんだ汚い金髪を撫でていく。
「もっと、自分を大切にして欲しいよ。私はみんな大好きだから。でも、私はみんなから嫌われるんだよ? 私、自分自身をコントロール出来ないから。私の弟、ブラッドも沢山、沢山、殺している。それで、弟は苦しんでいる。力があるから、仕方が無いんだよ。そして、貴女も私も、レイアも、力があって。自分自身の持っているものと、戦い続けているんだと思うよ。それは、もうどうしようもない事なんだと思う」
オルセニックは、おそらくは宇宙さえも握り潰せる。
フレイム・タンよりも、強大で凶悪な力を有している。
そして、幼い頃から、自分は異常過ぎるのだと理解するしか無かった。
けれども、オルセは友達が欲しかったし、理解されたかった。
彼女は、この世界を紙屑のように壊せるにも関わらず、他人というものを求め続けた。それは、彼女が力の代わりに手に入らなかったものだった。
何が人を破壊への道へと追い立ててしまうのか。
他人との関係性、認可されたいという事、多分、愛するという事はどうしようもない程に難しい事で、愛されるという事はもっと難しいのかもしれない。
誰でも出来そうでいて、簡単に手に入れられない者だっている。
「いい? フレイム。正義の味方なんていない。私ね、童話がとっても大好き。優しいから。子供の純粋な心が詰まっていると思うから。だから、大人なんて嫌い。この世界にいる人達って、正しさを欲求する。勝った人の方に、英雄譚が作られるんだよ。気高いとか、高潔な人格だとか。たとえ、その人が、罪の無い人達をいっぱい死に追いやっていても、殺していたとしても、『正義の味方』って未来の世界では崇められていたりするんだよ。何で、正しい人と正しくない人を振り分けたがるのか、私には分からない、何で、みんな悪人なんて作りたがるの? だとするなら、私の弟はどうなるの? やっと出会った彼は、殺人鬼と呼ばれていた。自分自身の力をコントロール仕切れなくて、沢山、殺し続けているから。彼を憎んでいる人は、星の数程いるんだよねえ。弟を憎む、この世界を私は壊したい。みんな赦せなくなってしまうから。でも、そんな事、やっても、弟は嫌がるんだよねえ。でも、たとえば、みんなの世界を守っている王様とかって、とっても怖い人なんだよ。平気で、弱い人達を虐げる。全部、鏡みたいなもので、物事ってのは、見る人によってその角度が違っていたりするんだよ。一人の人は、色々な目線から見えるのにね」
オルセは今にも、泣きそうな顔になる。
純粋故の暴力性、オルセは自分自身の破壊衝動と弟ブラッドの殺人行為に関して、考え続けている。何故、他人というものに苦しめられるのだろうか。
オルセは馬鹿のように見えても、元々は高いIQを持って。政治や経済、法律の知識も多大に学んできた。ただ、彼女は他人と同じように、この世界を見る事が出来なかった。
他人と同じ感覚を共有出来ず、他人に合わせて会話をするのが得意では無かった。
友達なんて、まともに作れなかった。
勿論、恋人なんてものも出来るわけがなかった。
いつの間にか、オルセは世界を破壊出来るだけの力を有していた。
勧善懲悪なんて、おかしい。
悪人にならざるを得ない立場に立たざるを得ない二人は、どうしようもない程に、正しい人間なんているのかという命題を懐疑し続けている。
「フレイム、貴女は。正義の味方の可能性だってある。この世界を赦せない。きっと、それは貴女の優しさなんだ。貴女は子供の頃に凄い苦しんで、こんな世界、存在してはいけないんだって、思っているんだよね? 憎むしか無い他人、きっと貴女はずっと、そういう憎悪と生涯、戦い続けていくんだと思う。救われないのかもしれない、貴女は一生。でも、愛されたいって、願おうよ? 私、ずっと手に入らないけれど、それを求めているよ」
オルセは強く言った。
彼女は生きる事に希望を見い出している。他人も自分も信じられるものだと思っている。たとえ、それが歪なものであったとしても、彼女は自分なりの答えを見つけたいと思っているのだろう。
フレイムには、それが無い。どうしようもなく、心の中が空っぽなのだから。
一体、何をどう生きればいいのか分からない。何もかもが廃墟となった場所で、一人佇む事、そうやって心を慰めてきた。
「いい? 私達は『主人公』。孤独かもしれない、理解なんてされないかもしれない。貴女が、誰よりも悪人になりたいのは分かったけれども。誰よりも、愛されたくて、救われたいのも分かっている。そして、とっても繊細で傷付きやすい事もね」
「そうなんだ、私は……愛されて、生きたい。……弱過ぎるから、他人を憎んで、殺害するしかない。破壊と殺人だけが、私を慰めてきた。悪人になるしか、私はこの世界と分かり合えなかった。魔王になると、真っ赤なドラゴンになりたいと。私はきっと、自分の作り出した世界の中に閉ざされて生きている。妄想の中で、それを振り払う事なんて出来はしない。何で、闇しか見えないのか、幼少時から分からなかった。実感が無い時もあって、人の死も、悲しみも苦しみも。私は炎に焼き続けられているかのようなんだ。いつだって。私は分かり合えない世界と分かり合おうとして戦ってきたのかもしれない…………」
「よく言えたね」
オルセは彼女を強く、抱き締める。
自分達は、邪悪な存在でしかないのだろう。
どうしようも無い程に、他人や世界と分かり合う事が出来なかった。
その点では、同じなのだから。
「一緒に、この世界を壊したい? 私はそれだって、構わない。かつて、こう私は言われた。『黄色い悪魔』と。他人を踏み潰して、踏み壊して。私は色々なものを壊してきた。どうすれば、良かったのかな? でも、私は私でしかないんだよ」
彼女はとても、寂しそうに言う。
「正しい事なんて、為せないんだと思う。どうしようもないくらいに、手に入らないものがあって。でも、私は全部、欲しいから。夜空に輝くお星様の一つ一つさえも、私の物にしたいから。こんなに大自然の何もかも、みんなが作った都市も愛しくて仕方が無いのに。私は何一つとして、手に入らない気がする。だったら、全部、壊したいなって。寂しいから。どうしようもないんだよねえ」
二人共、邪悪さの塊そのものでしかないのかもしれない。
けれども、友達が出来たっていい。そんな人並みの幸せを感じられるなら、どれ程、良いのだろうか。
「お話出来て、良かったと思える。貴女と」
何が損ないだったのか。
本当に欲しいものを手に入れられないオルセに、生きている価値を本質的には何一つとして見い出せないフレイム・タン。
何故に、この世界と分かり合えないのだろう。
生まれ育った環境からか、あるいはお互いの性質が、こうなるように運命を決定付けられていたからなのか。
空に浮かぶ太陽は、光や希望の象徴であると共に、旱魃や酷暑の悪夢を齎す。
暖や食卓に必要な炎は、家を焼き、破壊の牙を創り出せる。
「壊す事でしか、癒せないものもあるのかもしれない。私達の生きる為の役目って何なんだろ? 考えて見つけ出すしかないよね?」
オルセは強くフレイムの手を握り締めた。
お互いに、お互いの体温が伝わってくる。
もうじき、夜が明ける。
二人はその後も、言葉を交わし続けた。
何故に、世界を憎むのか。何故に、世界を壊したいのか。
二人は分かっている。本当の意味で、愛というものを探しているし、二人共、間違った場所から出発して、狂った論理の下、生きるしかないけれども、それでも、愛だとか自分らしい真実だとかを求めているのだから。
†