三島由紀夫、『お嬢さん』。
何もかもが健全で幸福な家庭で育った娘・かすみは、幸福に慣れ過ぎて不幸に憧れを抱いてしまう自意識の高い女子大生。
ある日、友人の千恵子と駅に訪れた時、ホームで父の部下の青年・沢井を見かける。ただならぬ仲と見える女を連れた沢井の表情は、父といる時に見せる明るい好青年的な顔からは想像もつかない、暗いものだった。
その一件から沢井に興味を持ったかすみ。沢井が千恵子の従兄弟でもあったことから父に隠れて接触する。かすみの前で素顔を見せる沢井は、なかなかのプレイボーイで駅であった女の他にも何人かの女と付き合いがあり、またかすみの目の前で平気で女の子に声をかけたりもする。
沢井のまとう不幸の気配に惹き付けられたかすみは、一緒に喫茶店やクラブに出かけて沢井の女性遍歴を聞きだしたり、からかったりしているうちに、友達のような関係を築き、あっという間に恋人たちになる。
沢井がかすみの両親に挨拶に向かい、両親がそれを快諾したことで、二人は結婚する。
不幸の気配に憧れ、ある種の共犯関係から若夫婦になったようなかすみ。この出発点から、彼女は沢井の別れた女たちが見せる嫉妬とは無縁の存在で、情動を知性でコントロールできる人間だと信じていた。
しかしそれは、沢井の元交際相手だった銀座のデパートの売り子の浅子が、二人の新宅に押し掛けてきたことから一変するのだった。
三島由紀夫によるエンターテインメントな風俗小説。
トレンディドラマ的な味わいの小説で、当時のそこそこ裕福な家庭の様子を想像して読むと、大変楽しい。
早い話が、自意識は高いが世間知らずのお嬢さんが、恋愛をして人間関係の難しさに苦しめられ、そして自分の思い上がりを反省して一人の大人になる…というような、少女小説にはよく見られるパターンのお話の一形態になりましょうか。
しかし読みようによっては「自意識が高くて俗な幸せに背を向けたかすみが、恋愛をして詰まらない女になった」とような、成長ではなく転落の物語と読む人もいるやもしれません。
転落か「鼻持ちならない世間知らずのお嬢さんが、恋愛をして鼻をへし折られて大人として成長した」物語と読むかは、人によって異なりそうです。
私は浅はかな所も含めて好きですけどね、かすみ。
それにしても、モダンで硬質なかすみというお嬢さん像を、適度な距離感を保ったまま拵えあげることができた三島由紀夫ってすごい、というのがこの本を読んだ一番の感想でした。
絶対心の中に乙女的な何かを飼ってたね、三島。
(11.11.03)