アキバのラーメン屋さん
まあ、わたくしごとではありますが、僕はここ十五年位、職種は違うものの、
なんとなーくアキバに関係するような仕事をしてまして。
メーカーの営業だった時には、ほぼ毎日のようにこの街に来てました。
それだけに、ここ数年のアキバを取り巻く環境の変化、そしてアキバ自体の
変化ってものに関しては、何というか複雑な気持ちになりますねー。
老舗のでんき屋さんが潰れ、パーツショップが潰れ、おしゃれなビルが
建ち・・・。そんな、渋谷センター街もかくや!とういくらいな変化の波の中で、
昔から変わらずにいてくれるものもあるんです。
僕がアキバを訪れるときに、たまに立ち寄るラーメン屋さんがそれなのです。
当時、いやーなお客さんがありまして。なんかこのまま帰りたくない、
とブラブラ歩いてたら、偶然発見したんです!
ほそーい路地にぽつんとある、一見ボロボロの店構え。ただラーメン一杯380円
という妙な安さの看板が目を引きました。
僕もラーメンには一家言ありますので、これは食してみなければと
暖簾をくぐったのが十年以上前でしょうか。
狭い店内は六人も座ればぎゅうぎゅうで、(ま、誰もいませんでしたが)
競馬中継をジッと見ている店主はやる気があるようには見えませんでした。
とりあえず定番のラーメンを注文し、待つこと5分。
値段から予想していたよりもちゃんとした(笑)ラーメンが出てきました。
スープを一口。ずずずっ・・・。あれ?けっこうウマいぞ??・・・
ラーメンの味というのは、人それぞれ好みがありますから、極端な話、
誰にとってもマズイラーメンというものは存在しないと思うのです。
ただ好みに合わない、というだけで。
高いラーメンが必ずしも万人受けするとは限らないですもんね。
ただ、僕にとってはこの380円のラーメンはかなり好きだったとういことで。
まあ、それ以来転職してもアキバに行くたびに、路地を入ってボロボロの暖簾を
くぐることになるわけです。
僕もべつに常連さん、ってわけじゃないですし、店主も愛想が悪いって
こともないんですがお互い別に話すこともなく、だったのですが。
ある日、店主が競馬新聞越しに、
「アキバも変わったよねえ」
と声をかけてきました。一瞬、自分に言ってるのか分からなかったのですが、
狭い店内には確実に店主と僕しかいません。
「いや、確かに変わりましたよね」
競馬新聞をガサガサとめくりながら、店主が
「隣にさあ、けっこう有名なラーメン屋ができるらしいんだよな。
お客さんが次に来るときには、ウチつぶれてるかもしれないよ?」
「えっ!・・・」
ずっと、変わらずにそこにあると思ってたものが、ある日突然
なくなってしまったときの喪主感というのは、けっこう大きいもんです。
失くした時に初めてそのものの大事さを思い知る、ということは。
日常生活の中でもよくある事件ですよね・・・。
で、それからしばらく経ったある日、確かに店の隣に、なんか
見るからにうまそう!というようなこじゃれたラーメン屋ができました。
結構はやってる感じで、ときどき覗いてみるのですが、
いつもお客さんが入ってます。
が、相変わらずボロボロの店構えなラーメン屋もそこにありました。
ホッと胸をなでおろしつつも、暖簾をくぐることはしばらくありませんでした。
なんか、そこにあるとわかってるだけでお腹いっぱい、みたいな(笑)
…で、昨日、アキバに行ったついでに、寄ってみました。
果たして店は健在で、お客も二人いました。店主は相変わらず
競馬のテレビに夢中で、あまりやる気があるように見えません。
僕が注文したラーメンが出来上がる頃には、
先にいたお客さんも帰ってしまって、また店主と僕の二人になりました。
競馬の中継の音と、ラーメンをすする音だけ。なんか妙に気恥かしい感じ。
「…ずいぶん久しぶりじゃないの。仕事忙しかったの?」
「ああ、あ、ちょっと最近、こっちの方に来れなくて…」
妙に言い訳をしながら、少なくとも年内にもう一度このラーメンを食べにこよう、と思ったのでした。
ずっと、変わらずにそこにあるもの、
僕にとってはアキバの380円ラーメンなんですよね。
…あれ、なんか妙にマジメな内容になっちゃいました…

