れーらの気侭小説 -2ページ目

れーらの気侭小説

フィクション小説を書いていましたが、醒めてしまい休止中です。


∮前回までのあらすじ


リニアを見た場所に向かった篠田たちだが、そこには既にリニアはなかった。

先を急ごうとする秋元を止めたものの、結局は火山に向かうこととなる。

一方、そのリニアの中で不穏な気配を感じ取った大島が全体に声をかけるも、指原だけはそれに気づかず、仁藤が無理やり皆のもとに向かわせた。

しかし、突然起きた事態に彼女が捲き込まれ、犠牲となる形で敗退していったのであった。


-----------------------------------------------------------------


エトナ城から解放された魔女たちの増援により、戦局は拮抗し、エトナと魔女の軍は活気を取り戻していた。

しかし、あの男の一手で戦局はまたもあちらに大幅に傾くこととなる。

「どうした?ポアズ。もう息が切れているじゃないか」

異次元の中で余裕の笑みを浮かべるルイマリーに対し、ポアズは疲弊し、ぜえぜえと息を吐き出している。

「ふん、私も年を取っただけさね」

ルイマリーに向かって、衰え知らずがと吐き捨てたが、彼は気にも留めず笑うだけだった。

それから指をパチンと鳴らして二人を覆う異次元空間を解いた。

戦局は拮抗している。

「ふむ。どうしてやるのがよいか」

空高くから眼下に広がる戦場を瞥見した彼は顎に手を当てた。

(元は同族。殺めるのは気が進まないな)

「ふっ!」

前に開いて構えた手。

その腕には年ながら隆々とした筋肉が浮かび上がる。

空いた右手を天にかざすと、島を覆っていた水のドームは曲線を描くように空を滑り落ち、海へと還っていった。

続いて構えた左手を掲げると、島の上空だけ空が晴れ、オレンジ色の光が戦場に降り注いだ。

「やはり長居は無用。勝利を我が手に」

開いた手をぐっと握り締めると、空からなにやら神々しく光る球が現れ、ルイマリーの元にやってきた。

その大きさは島の半分ほどもある。

「お前、まさか!!」

「案ずるな。殺しはせんよ」

止めに入ったポアズを右手で制して、左手を下方の宙に叩きつけた。

「これで、終わりだ!!!」


球は分散して地上に降り注ぎ、エトナの軍を鎮圧していった。

ポアズには戦場に広がる気がどんどんと減っていくのが分かったが、ルイマリーにおさえつけられてただ見ていることしかできなかった。

ただ、彼の言葉通り、その攻撃で命を落とす者は一人としていなかった。

(止めるには今しかないか……)

「降参だ」

「ん?」

ルイマリーは軽い笑みを浮かべながらポアズのほうを見やると、彼女は歯をくいしばって地上を見下ろしていた。

「エトナの全員に終結を伝える。だからお前のところにもそう伝えてくれ」

ポアズの提案にルイマリーは黙って頷き、二人同時にその意を戦場の全員に伝えた。


戦場から音が消えた。

聞こえてくるのは火山の不気味に鳴る音だけ。

「話は明日にしよう。城の王にもそう伝えておいてくれ」

そう言い残してルイマリーは姿を消した。

同時に、島にいた彼の軍もいなくなった。

エトナは負けたのだ。

「……ともか」

項垂れるポアズの隣には板野がいた。

「ごめん、なさい……力になれなくて……」

その目には今にも溢れようとする涙が溜まっている。

「ヒッヒッヒ。気にすることはないよ。ただ居場所を変えるだけさね。誰も死んじゃあいない。あんたもね」

無事でよかった。

そう付け加えると、板野の目からはついに涙が零れ落ちた。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

泣きじゃくる彼女を、ポアズは力いっぱい抱きしめてやった。


「さあ、もうお行き。ゆっくりしてる時間はないだろう」

指で板野の涙を拭ってやり、ポアズは彼女の背を押し出した。

「本当に――」

「もう謝るんじゃないよ。そうだね、あいつの弟子を倒してきな。それで私は十分さ」

板野はコクリと頷き、火山に向かって飛んでいった。

ルイマリーの弟子、渡辺麻友を倒すために。


ブーン。

『第3ステージ生存者45名中、残り22名。脱出者19名』


ルイマリーの残した球は空に飛んで行き、嵐を打ち飛ばしていった。

荒れていた海は静まり、疲弊したエトナの民を癒すように、優しい光が空から照らしていた。

「これからが始まりだね。この国も」

ヒッヒッヒ。

彼女はそう笑いながら、魔族の元へと帰って行った。



その頃、リニアの者たちはゴールにさしかかろうとしていた。

戦争が終結したことによって、幾分早くゴールにたどり着くことが出来たのだ。

「本当に火山に入るの?」

「一瞬だ。楽しめっ!」

いくつもあがる不安の声を大島一人で一蹴し、まるでジェットコースターに乗っているかのようにはしゃいでいた。

野中の作った氷のレールは火山の火口まで一直線。

大島の提案により、上空高くにそのレールを伸ばしているのだからまさにジェットコースター。

「ひゃっほー!!」

絶叫に混じった笑い声は一直線にゴールに突っ込んで消えた。


ブーン。

『第3ステージ生存者45名中、残り7名。脱出者34名』



その後、篠田たちも無事ゴールし、脱出者37名、残り4名となった。

残る枠はあと三つ。

その三つのうち二つを、この二人が埋めようとしていた。


「クリス~、本当に火山に入るの?」

危ないからやめようよと駄々をこねる小嶋の腕を、中塚が強引に引っ張っていた。

中塚は自身の持つ能力で、火山に入りゴールする者たちを何人も見ていたため、火山がゴールだという確信を持っていた。

だが、彼女の能力を知っていても、小嶋には抵抗がある様子だ。

もう夜だというのに、火口まで来ても一向に足を動かそうとしない。

この空間にいるのはあと四人だけ。

中塚は後ろに振り返り、能力を発動した。

残り二人の運命を見るために。


見えたのは森の中。

高橋と誰かが争っている様子だ。

(たかみなさん……!?)

「ねえ、クリス!」

「え!?」

小嶋に呼ばれて、能力を中断した。

「どうしても行かなきゃだめ?」

それを聞いて、中塚はため息をついた。

「なら私先に行きますよ?」

「あ!待って~!」

先に飛び込んでいった中塚を追うように、小嶋も飛び込んでいった。

そこで見たのは、木に生った蜜柑が風に揺られている風景だった。


ブーン。

『第3ステージ生存者45名中、残り2名。脱出者39名』



それから間もなくして、最後の一人がゴールし、誰もいなくなった島に花火が打ち上がった。


『十分後、スリープモードを解除します』


脳にその言葉が響いて十分。

メンバーたちは目を覚まし、会場中の歓声に包まれた。

長い眠りから覚めた前田は伸びをし、真っ先に高橋のコクーンに向かった。

高橋はまだコクーンから出てきていない。

「たかみな!」

呼びかけても返事がなく、もう一度声をかけようとすると、コクーンが開いた。

「たか……」

前田は言葉に詰まった。

「どうだった?」と聞こうと思ったのだが、コクーンの中で座っている高橋は、俯き、涙を流していた。




to be continued...