『秋備団子!!~AKBDANGO~#15』



A long long time ago‥‥
むがーしむがしあったづもなヒウィッひうぃごっ!ヒウィ、ヒウィ、キウィ、キビィっ!キビィキビィキビキビキビキビキビキビキビィあッッ!あきびぃダぁンッ!




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「きたまるちゃんきたまるちゃぁん」

石丸まであと一里。十三夜の月に淡く照らされた驢毛糸街道の夜道。滲み浮かんだ二つの影がゆうらりゆうこどんぶらこと、西へ歩みを進めていた。


「きたまるちゃん、お月様で明るいんだけど、すっかり暗くなっちゃったね真っ暗くらもちだね」

「‥うむ、今宵は大塚の社あたりで夜を過ごそう。川を渡るのは日がで‥」

「行っこおっ行こうー餅買いへ~♪行こおっ行こおっ餅買いえっ♪もちっくら♪くらもちっ♪もちっくらっくらもつぅィいぃ~~~~っッ」

「てか‥ら‥。‥‥‥。」

北里英丸が言い終わらぬうちに、指鮭がまた「例」の唄を喚‥うたい始めた。


「‥‥‥。」

辺りを憚らぬその歌声に、またかと苦虫を噛みつぶす。

1番腹がたつのは時々釣られて、自分もいつの間にか「フンフフン♪フンフフン♪」と口ずさんでいるのに気付いた時だ。

そんな時は慌てて辺りを見回すのだが、一度、キョロキョロしていた時ふと目が合った莉乃が「にまぁーり」と笑った時などは思わず刀に手が掛かった。


「きぃなぁあア~~コあんころズンダモツィい~~♪食べよお~食べよほぉ~‥」

カンツォーネか。欧米かっ。いちいち微妙に唄い方にアレンジを加えてくるのが尚更余計欝陶しい。

指鮭がわめき‥気分よくお歌いになられておられまするのは、屋台販売の全国チェーンで有名な「餅の倉持」の宣伝唄である。

どうやらこの曲が今、莉乃ブームであるらしいのは、喉枯れするほど今日一日中喚き散らしていることで判る。

わかるも何も、そもそも‥

日の落ちきらぬうちに石丸に着く筈であった予定が狂ったのは‥今朝がた出会った、モチクラクラモチを唄いながら客を呼び込む屋台の売り子に出会ったところから始まる。

指鮭いわくその歌声に「びびっびびっ」ときた‥ということで、餅も買わずに「歌だけ教えてくれろ」と土下座して拝み倒し、半日余りも居座って歌のレッスンに時間を費やしたからだ。

完璧を目指し、売り子といえどもフランチャイズ小さくったって一国一城の主だナメんなよ高橋ミナミさん(仮名)へ、マンツーマン徹底指導を懇う指鮭莉乃齢三ヶ月と十二日。

熱血レッスンを繰り広げる二人の横で、店番として何故か餅売りのバイトをするはめになった北里英丸さん二百十七才。

レッスンの様子が思わぬ客寄せになり商売繁盛てんてこ舞い、しかし客の列が出来ても熱血師弟は見向きもせず「腹から声っ!」と師匠の激が飛ぶ。

その間、実戦に磨かれ餅の焼き方のコツをつかんでしまっていた北里英丸は‥。己の焼き加減の巧さに不覚にも「Yes!」と繰り出してしまったガッツポーズを、そそくさとひっこめたの事、約二回。

そんな北里英丸を師匠高橋ミナミさん(仮名)譲りに「きたまるちゃん」と呼ぶのも、本日の莉乃ブームらしい。


ただし莉乃ブームは周期が極めて短いことも、ここ数日間の旅中で北里英丸は十分知っていた。

やめろといっても右耳から左耳の鮭ゆえ‥あとは一刻でも早く、遅くとも明日目覚めた時にはこのはた迷惑な拡声エンドレスはキレイさっぱり飽きている‥ことを願うばかりであった。



「モチッくらっクラッもちっ」

星は無いが、薄雲を通しての月が明るい。

綿菓子解きほぐして敷き詰めたようなその淡い雲の御蔭で、日中の余韻がほんの微かに残り、寒さがきつくない夜である。

そうはいっても零下であるには違いない。その寒さをものともせず前を行く指鮭は、蒸気機関車のように口から白い息を吐き続け、モチクラクラモチのメロディを奏で続ける。

「行こう行こう餅買ィいェーイ!」

のー天気な莉乃の歌声が蒼みを帯びた月明かりのもとに響く様は、逆に浮世離れした‥よく言えば幻想的な雰囲気を作り出している。

今彼女達にこの夜道、ばったり出くわしたら誰もが狐の嫁入りの結婚しきぃーの二次会帰りぃーのノリノリぃーの化け狐か?と思うかもしれない。あまり出会いたくないタイプではある。



長く連なる堤防の黒い直線、その川向こうの石丸の街の灯がぽつぽつ見える。やがてその街明かりの帯を、北噛川の水神を奉る大塚神社の鎮守の森が黒々と塗り潰した。


喚き続ける莉乃の耳に届くかどうかわからないが、とりあえず今日の就寝場をここにすべく北里英丸はそれなりに声を張って、

「鮭!」

どうせ聞こえまいと踏んでどさくさまぎれにそう呼びかけた。

ゴーイングな莉乃の影響のせいか、どうやら北里英丸も少しばかり性格に変調をきたしつつあるのかもしれない。

様子見のジャブへの反応の無さに安心して勇気倍増のブラック里英丸は、さらに声を張った。

「しゃけっ!今日はここで宿をとると‥し‥ん?いかがした?」

先をゆく莉乃がふいに唄い止め、ぴたりと足を止めていた。北里英丸の背筋に緊張と冷や汗が走る。

(まさか聞こえて‥さ、鮭と呼ばれてカチンときたか?嗚呼英丸様リエコ最大のピーンチもも申し訳申し訳っ‥)

走馬灯が見えたコンマ5秒、一瞬どぎまぎしたが、どうもそうではないらしい。

鮭‥、莉乃の注意は前方に向けられていた。

「‥いかがした?莉乃‥」

「きたまるちゃん‥今日‥ここで休むの?」

立ちつくす莉乃は、大塚の森の入口に立つ鳥居の方を見据えたままだった。


北里英丸もそちらの方を見遣るが、何も見えず「匂い」もしない。

「何か、見えるのか?」


「‥うん‥‥あっ!?」

莉乃の眼に写るその白い影は、ふいに消えた。まるで莉乃の視線に気付いたかのように、それから逃れるように。

「いなくなった。なんか何だかヘンな影だったけど、境内には入れないみたい。大丈夫かな?大丈夫だよ」

「そうか‥」

北里英丸にも大塚神社の結界は感じている。就寝中の安全の為、これまでもそういう場を宿に選んできていた。

「まぁ、大丈夫であろう」

二人はそろそろと境内に足を踏み入れた。途端、北里英丸の、莉乃にしか見えぬ犬耳がぴくりと動いた。

「しっ!」

右腕で制止しながら莉乃を後ろ手に庇うようにすると、左手は直ぐさま鯉口をきれるよう愛刀・弐小判安胤(にこばんやすたね)の鞘へ、鍔に掛けた親指の腹に力を無意識の意識を込めた。


「なんだ?‥私にも見える‥何か居るっ!」

静かな黒い冷気が帳のようにおりた大塚神社の境内を、ぼうっ、と揺れる白い影が小走りするかのように動いていた。




【To be こんてぃにゅー】