A long long time ago‥‥
はではぁんで話すっこの続きだはぁんども。
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莉乃と北里英丸、深夜の語らいはなおしばし続いたが‥やがて、それぞれの寝床に戻りました。
おのれの白い吐息が天井の方へ立ちのぼり消えゆく、その闇。見えぬ天井の、さらに先を見据えるようにして‥思いを馳せるのは二百年前‥まだ、ただの犬だった頃の飼い主の面影。
「リエ!かけっこだほらっ!」
そう言って駆け出したまだ元服前らしい子の後ろ姿。
「ほらっ!早く!」
そう言って振り向いた武家の子‥英丸(ひでまる)という名のその男児の笑顔は、孤魔犬が侍姿に変化した北里英丸にとてもよく似た面差しだった。
一方。
夏希の床に潜り込んだ莉乃もまたなかなか寝付け‥いやいや瞬時にぐっすり寝入ったそうな。ばかりか寝言で
「やあーやあー我こそは鮭から産まれたハロー桃太郎娘。なるぞなるるぞにゃむにゃむ‥」
などと叫んでいたそうな。その横で寝ていた夏希と、佳代だが。莉乃が床に戻るまでは寝息をたてていたはずだが、莉乃が寝入った後はその寝息がぴたりと止まったようだったのは‥はてはて何故であったろうか‥。
翌朝。
朝餉の支度の匂いが居間に漂いだした頃、その匂いに誘われるように姿を見せた北里英丸に夏希じぃさんが声をかけた。
「おはようごぜぇやす。寒がったべんども良ぐ眠れやんしたが?」
「うむ、火鉢の心遣いで暖かく眠れた」
寒さは別にして、実際にはさほど眠れたわけでなく、皆が起きその気配から頃合いを見計らって居間へ姿を現したのだった。ただ、この家の気遣い、そして何より‥『運命』の導きともいえる出会いは、心に小さくない灯を点した。
「それはそれはようがんした。今朝餉の支度出来たはんで、味っこはともがぐ温まるはんで、ささ、どうぞどうぞ」
「いろいろ、忝ない」
チラと、土間へ目をやるとすり鉢で長芋をすっていた莉乃と視線があった。とたん、ニカッと莉乃が笑った。
その笑顔に、昨夜闇の中で想い描いた英丸の笑顔が重なり、思わず眼を逸らしてしまった。
莉乃がすった長芋を味噌汁で幾分おったそれをたっぷりかけた「とろろ飯」は旨いうえに、眠れずに疲れた胃にもやさしいものであった。
眠れない身体に、胃に優しい‥一体「誰」の?もしくは‥皆の?
朝食を終え、出されたでんぐり豆の煎り茶にひと口つけた後、北里英丸は居住まいを正し、改まって夏希、佳代にこう切り出した。
「莉乃殿をしばらくお預かりしたい」
と。
それに対して二人の答えは意外にもあっさりと
「ようござんすよ」
「それは‥それは、ありがたいのだが、理由は聞かれないのでござるか?」
すると夏希があごをさすりながらとぼけたような口ぶりで、
「理由、とゆうより条件がごぜぇますなぁ」
「条件‥とは?」
「鬼退治を手伝って欲しいのでありますよ」
「行っていいの!?じっちゃん!」
破顔して夏希と佳代の顔を交互にうかがう莉乃。別に、北里英丸との昨夜の話や「計画」は二人にはまだ何も告げていなかった。
「‥鬼‥」
莉乃のきゃぴきゃぴをよそに、北里英丸は夏希の口にした『鬼』という言葉に反応した。もしや‥
改めて夏希、佳代の様子を窺うと二人共目の下に隈が色濃い。
そんな北里英丸の視線にもとぼけた様子で、佳代もまた、
「実は、驚がねぇで聞いでくらっしゃい。莉乃は、桃から産まれた桃太郎なんでがんす」
「違う違う桃太郎じゃなくてハロー桃太郎娘。まる、「。」が重よイタッ!」
莉乃が横から口を挟んだが、途端に佳代に尻を抓られた。
「いいかい莉乃。お前の方から北里英丸さまにしっかとお願ぇしなっさい。鬼退治の助太刀を、ほらっ」
抓られた尻を撫でていた莉乃であったが、その言葉をうけて少し大袈裟に畏まって頭を下げた。
「どうぞ、鬼退治の助太刀をお願いします」
莉乃の言葉を合図に三人共三つ指ついて平伏した。
北里英丸は言葉につまった。夏希、佳代は昨夜の北里英丸が莉乃に語った話しを聞いていたのであろう。
狭い家屋、ましてや雪降る音さえ聞こえそうな深夜。盗み聞きでなくとも、起きてさえいれば自然に耳に入る。
北里英丸の胸に、込み上げる何かがあった。
「よろしいのか?」
佳代が答えた。
「ドンブラコと流れてきた桃太郎的には鬼退治は義務教育でごぜぇますんで。だから莉乃はいずれ鬼退治に出はねばなりません」
夏希も莉乃を愛おしく見つめながら言葉を継いだ。
「ご迷惑でしょうが、北里英丸さまの旅先で、もし鬼に出逢うごどがありましたら‥ウチの桃太郎の‥莉乃の鬼退治の助太刀をどうか‥どうか‥」
「太郎娘。だってば」
やいのやいのととぼけたような会話を続ける三人へ、頬に血を昇らせ北里英丸が頭を垂れた。
「忝ない‥莉乃殿は私が命をとして守る。毛ほどの‥毛ほどの傷もつけさせませぬ」
そんな北里英丸の様子に騒ぎをやめた三人。そして莉乃は、鼻の頭を人差し指で撫でつつこう言った。
「あたしがさあたしがさ、あたしがこの"瞳"でその見えない鬼を‥茨嵬童子をさ!見つけちゃってやるよ!」
茨鬼童子。
英丸ばかりか幾多の子供を喰ろうた鬼。茨鬼童子は「隠れ蓑」を纏うて姿ばかりか気配までも消すという‥‥
「あたしのさ、あたしのこの"瞳"が、瞳が!やっと役に立つかもしれないんだっ」
(うちらとは違う)
(そんなのみえねぇよ)
("オバケ目"だって)
(よそから来たって嘘じゃね?)
(拾われたのさ)
(鬼の子だってよ?)
(莉乃ちゃん『気持ち悪っ』!)
やっと‥
やっと役に立つんだ。必要としてくれる人‥本当はわんこだけれど‥必要としてくれる人が居るんだっ!
その叫びは莉乃の胸の中でいつまでも響いた。
第一部・完
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あらあらまんつまんつ、まだ出掛けねぇ前に第一部完だどよ。たまげだたまげだなんたら馬鹿話だごどよ。
んでばまんつ、このつづぎばすぐ書げってケツひっぱだいどぐがらな。どくろーんどくろん。