-Fantastic 4-






「ねぇ、‥私にもしもの事があったら‥あ~ちゃんは亜美菜に代わってもらって。」


あまり深刻になり過ぎない程度の声音を選んで、明日香は切り出した。エアPerfumeのあ~ちゃんは明日香の担当だった。



明日香の言葉に、美香ちぃはいぶかしげに眉をひそめた。

「なによ?もしも、って」


成瀬も「餅‥あんた」と言いかけたが、黙った。なるるは『美香ちぃの脚のこと解ってて言ってるの?』と続けるつもりだった。



美香はもともと左膝に難を抱えていて、激しいダンス等は医者にも止められていた。今も膝には女の子としてはお洒落とは言い難いサポーターをしている(彼女はそれを戦友と呼ぶ)。亜美菜に代わりを頼むのなら寧ろ、佐伯美香の"のっち"だろう。

しかし美香は、自分達の好きなもの、自分達の決めたことには流石に命まではかけてないが、多少入院程度は構わない(出来れば日帰り‥)、ぐらいの事を思っていた。

膝が悲鳴をあげると、泣き事の一つや二つは言うが、決してフリコピを辞めようとはしなかった。


他の生徒達はむろんのこと大人達は、そんなくだらない事の為にメリットなんか何も、と馬鹿にするだろうが美香ちぃにとって‥いや、佐伯だけでなく亜美菜を含めたこの四人は、自分の行動に代価を求めてなどいなかった。

自分の心と夢に何時も真っ直ぐであること。それが彼女達の矜持だった。


そんな事は当然、明日香も理解している。それでいて尚、あえて口に出したのであれば余程の事があるのだ、と成瀬は理解した。



「九兵衛に関係があるのん?」

「まぁ‥ね。」

佐伯もそれだけ聞くと、あとはもう何も言わなかった。

殴り合いの喧嘩をした直後でも、その相手‥仲間に何かあれば黙って火中の栗を拾ってやるだけの覚悟は常に持っている四人である。

その辺に転がっている安っぽい親友ごっことは較べ物にならない、まさに真友と呼べる四人であった。


「キュー‥ッ」

三人の内に流れる"何か"に感応したかのように、九兵衛がせつなげな、それでいて暖かな声でひと鳴きした。

三人はそんな九兵衛に視線を集めたが、誰も何も言わなかった。不思議と九兵衛が何を言いたいのか、その場にいたみんなが解ったような気がした。


いいないいな
にんげんていいな‥

なかまっていいな‥


「キュッキューッ‥。」

三人に伝わったのがうれしいのか、また九ちゃんが心地よさげに鳴いた。その瞳はウルウル(T^T)していた‥が‥

‥それは単なる角膜保護の為のゴマフアザラシにしてみればごくありふれた通常の生理現象だった。

だが、ここにひとり‥

佐伯だけは何を勘違いしたか訳も分からないままその生理現象にもらい泣きしていた。面倒くさいので成瀬はあえてそこにはツッコまなかった。

明日香は、といえば‥佐伯のマイバックの膨らみがカフェラテかどうかの方が気になっていた。





3人+1頭がそんなやりとりを交わしていた頃‥


黒餅達が居る3番コンテナの他に、ドアに掛けてあるまくろす看板娘仲谷明香手作りの札が「使用中」になっいてる部屋が一つだけあった。

2番コンテナ。

部屋の中に客は一人だけだった。カラオケを歌うわけでもなく、早朝である事を考えれば、仮眠に利用しているのかとも思われた。

だが、照明を落とした薄暗い部屋でその客は眠ってはいなかった。iPodを聴きながら指先で軽くリズムをとっているその客は、どうやら黒餅達と同年代の少女のようだ。


テーブルをトントン鳴らしていたその指先が、ふと止まったのがちょうど黒餅が「私にもしもの事があったら‥」と口にした瞬間だったのは、はたして偶然であったろうか?


勿論、隣のコンテナとはいえ、話し声等聞こえはしない。


「ふーん‥」

溜息に似た何かを確認したかのような声をもらすと、少女は携帯を取り出しメールを打ちはじめた。

打ち慣れているのか、携帯の電話帳にはメモリーされてないそのアドレスは、迷いがなかった。

そして短い本文を打ち、送信が完了すると、即座にそのメールを消去した。


消去されたメール‥そこにはこう書かれていた。



『鍵は開けり

 黒い朝の夜明け近し』




携帯をポケットにしまうと少女はカラオケボックスを後にした。


ドアを開いたその逆光に黒く浮かぶ後ろ姿は‥そう‥昨晩、ビルの屋上で会話を交わしていた二人のうち、柵のこちら側にいた少女のその後ろ姿に似ていたかもしれない。





(おわり)