十月も半ばを過ぎると深まる秋の中に冬の気配が混じりはじめる。


ぐんと日が短くなり、午後5時ともなるとひんやりと肌寒さとともに夕暮れがもう、降りてくる。




伏見通りから駅へ抜ける近道である、ここ稲荷塚公園の散策路に連なる銀杏並木も、その下を行き交う人の影も、そろそろ濃くなりはじめていた。


二駅となりの大学からの帰り路、僕はいつものように銀杏並木を歩きながら、

(今日の夕飯はどうしようか‥)

自炊も面倒だし、結局いつものように伏見通りに出てすぐのロッテリアで済まそうか、などとぼうっと考えるともなしに歩いていた。と、突然、

ザサ―――ッ
「あっ!?」

後ろから無言のまま自転車がかなりのスピードそのままで、僕の左肩を掠めながら走りさっていった。

まるで無機質な突風に煽られたかのように危うく転びかけた。

すでに遠ざかった自転車の背中に向かって怒鳴り付けようとしたが、回りの視線を気にしながらその文句を、僕は飲み込んだ。

バカヤロー!‥それを飲み込んでしまった自分の方があの自転車の非常識さよりはるかに恥ずかしい事に思えて、早くこの場から立ち去ってしまいたいが為に慌てて駆け出した。

すると‥

ドンッ!
「あっ!?」

こうゆう時はついてないもので今度は、誰だか通行人にぶつかってしまったようだ。

今度は自分の過失だけに、流石に黙っているわけにもいかなかった。

「あ、ごめ、すすみません」

かなり慌てふためきながら頭を下げた僕の視界に入ってきたのは、黒いソックスに膝上の黒スカート。制服?だろうか‥女子高生?

(やべっ。こりゃギャーギャー言われ‥)

徐々に視線をあげると上着も(‥どうやら制服ではないようだが‥)それは夕闇の中でもはっきり黒と判るそれであり、ストレートの黒髪も大きな瞳も‥吸い込まれそうな黒だった。



黒い瞳の少女は僕をゆるやかに見つめたまま、しかし黙ったままである。


「あ、あの、すみません‥高校生?‥制服じゃないけど‥き、綺麗‥」

(うわわわわ!な、何言ってんだオレ?)


深く黒いその瞳に思わず見とれてしまった僕は、それを取り繕う言葉を探しそこねて、なにやら安っぽいナンパみたいな言い方になったことにまたまた慌てた。

カーッと耳まで赤くなるのがわかった。いたたまれず再び視線を落とした時、彼女が何か呟いたようだった。


『‥‥マガトキ‥』

「え?‥」

ちょっと聞きとりそこねてしまった。う‥ま‥何とか‥馬?


顔をあげた僕の視線の先で、彼女の唇が幻のようにゆっくり動いた。




〈つづく〉