(居間)
ヒロママ:「今帰りました。」
父親:「ヒロシか!ずいぶん大きくなったな!」
ヒロママ:「おかげさまで。父さんも元気そうだね。」
父親:「定年してから草野球を初めてな、なかなかいい体力作りになるぞ!ヒロもやるか?」
母親:「お父さん、ヒロシは何か話があったから、帰ってきたんじゃないの?」
父親:「そうだな。数十年も留守にして帰ってくるのには、なにかあったんだな。
借金でもできたか?」
ヒロママ:「そんなんじゃないよ。
驚くと思うから、覚悟して。」
母親:「覚悟?」
父親:「うむ。」
沙知代:「おっけー!」
ヒロママ:「あのさ…俺…ゲイなんだ。
男が好きなんだ。すみません!」
母親:「やだぁ、そんなこと?!
命に関わる病気かと思っちゃったじゃない。」
父親:「多額の借金とかな。」
ヒロママ:「驚かないの?」
母親:「そりゃあ直接言われればびっくりするけど、なんとなくそんな雰囲気あったからね。」
沙知代:「部屋にエロ本1冊もないとことかねー(笑)」
父親:「そんなことで今まで帰ってこんかったのか。なら、これからはいつでも堂々と帰って来れるな。」
ヒロママ:「待って!まだ続きがある。
実は結婚したい人がいるんだ。」
父親:「男と結婚するのか?」
母親:「どうやって?」
沙知代:「パパもママも知らないの?!
養子縁組して、『息子』か『兄弟』になれば、ゲイの結婚だよ。」
ヒロママ:「そうなんだ。戸籍を動かしたい。」
父親:「好きにすればいい。」
ヒロママ:「え?」
母親:「ヒロシが好きになった人なら、私達も応援するわ。つまりその相手がうちの戸籍に入るか、ヒロがその人の戸籍に入るかでしょ?」
ヒロママ:「そうだけど、そんな簡単に返事していいの?」
沙知代:「いいって言ってるからいいんだよ!」
父親:「それより会わせてはくれないのか?」
母親:「そうね!それが大事ね!」
沙知代:「イケメン?」
ヒロママ:「会わせるのはいいんだけど、実は俺、いつもはオネエ言葉なんだ。」
母親:「あら、じゃいつも通り話せばいいじゃない。」
ヒロママ:「気持ち悪くない?」
沙知代:「全然!でも化粧とかはしてないんだね、残念。」
ヒロママ:「今は調理と人に関わる仕事してるから、身なりは普通にしてる。」
沙知代:「じゃあ化粧のこと教えてよ!」
母親:「それより恋人さんの写真見たいわ。」
父親:「ヒロシが結婚したら息子が2人になるのか!」
ヒロママ:「認めて…くれるの?」
沙知代:「きゃはは。」
母親:「あはは。」
父親:「はっはは。」
ヒロママ:「どうしたのよ、笑いだして。」
父親:「ゲイだろうがオカマだろうが、ヒロシはヒロシだろ?」
母親:「そうよ、ゲイくらいなんでもないわ。」
沙知代:「お兄ちゃんとお姉ちゃんの両方になれるしね!」
ヒロママ:「あり…が…と…。」
父親:「泣くやつがあるか!
よし今日の昼飯はヒロシが帰ってきた記念で寿司とすき焼きだ!」
母親:「あら、じゃお寿司注文して買い物行かないと。」
沙知代:「私も手伝う!お兄ちゃんもね!」
ヒロママ:「うん…ありがとう…ありがとう…。」
(ヒロママの一世一代のカミングアウトは、明るい家族に両手で受け止められ、直哉を会わせる約束をして帰った。)