【第402場 上野公園】
(11月1日 12:00頃)
(仁と大輔が散歩している)
仁:「昨日の今日で誘って悪かったな。」
大輔:「いえ、嬉しいです。」
仁:「この上野公園にもよく来てたんだ。
不忍池って名前が好きだって。」
大輔:「忍ばず、つまり隠さないで堂々としていられるからって俺が言ってましたよね。」
仁:「覚えているんだな。」
大輔:「はい、昨日帰ってから、手に残った温もりを思い返していたら、断片的になんとなく。
まだモヤがかかっていますが。」
仁:「そうか。焦ることは無い。
こうしてまた2人で歩けるだけで十分だ。
ん?蝉の死骸?こんな時期に?」
大輔:「また『ジジッ』ってなりますよ。」
仁:「え?」
大輔:「あ…。
昔、散歩していた時に、蝉の死骸が道にあって踏まれたら可哀想だからって掴もうとして、まだ蝉が生きていて驚いたこと……ありましたよね…?」
仁:「ああ!そうだ!そうだ!大輔…。」
大輔:「仁さん…。
全部は無理でも、仁さんと過ごす時間が増えたら、もしかしたら思い出せるかもしれない…そんな気がしています。」
仁:「大輔…ありがとう。
なら、昔みたいに『仁』って呼んでくれないか?敬語もなしで。」
大輔:「仁、わかったよ。なんか照れくさいけど(笑)」
仁:「もし、もし思い出せなくても、もう一度大輔に好きになってもらえるように努力するから。」
大輔:「俺も、思い出せないままの俺でも、仁にまた好きになって貰えるように頑張るよ。」
仁:「2人で歩み寄ろうな。」
大輔:「うん、仁のことを色々教えて。
昨日ホストしてるって言ってたけど、昔もホストしてたよね?」
仁:「あ、ああ!」
大輔:「昔はすごく売れてたイメージなんだけど、今も変わらず?」
仁:「今の店、俺の後輩が出した店なんだが、オープン以来1位を不動で守ってる。
ただ先月はナンバー入ってる奴のデカいバースデーイベントがあったから、怪しいな。」
大輔:「結果は今日出るの?」
仁:「ああ、今日のミーティングで発表だ。」
大輔:「じゃあ死守出来てるように祈ってる。」
仁:「ありがとさん。
大輔はあれから仕事どうしたんだ?」
大輔:「元々ライターだったよね。
結局書くしか才能が無くて、今はホビー雑誌の小さいコラムの仕事してる。」
仁:「大輔が書いてたホストタイムズは人気だったからな。」
大輔:「それで出会ったんだよね?」
仁:「大輔…。」
大輔:「ごめん!違ってた?」
仁:「いや、思い出してくれてるのが嬉しくて。
ホストタイムズの取材で来た時に出会ったよ。」
大輔:「あのさ!
間違えることもあると思う!
でも思い出したことは、確認していきたいんだ。何度も聞かれて嫌かもしれないけど、できるだけ思い出したいから!」
仁:「嫌なもんか!何でも聞いてくれ!
これまでの思い出も、これからの思い出も2人で作って行こう!」
(大輔が記憶を取り戻しつつあるのは、仁にとっては奇跡と呼ぶに等しいもので、また新しく積み重ねられる思い出も輝いて見えた。)