「少し休むか?」


ギンコの言葉に首をふり、打掛を肩までずらすと、遊佐は空を仰いだ。

日になど当たったことのないであろう透けるような白い肌に木々の間から差し込んだ光が照らされる。


これが日か、そうとでもいいたげな表情で見上げる様はなんとも儚げであった。


「葉の色は生命の色のようだ」


漆黒の瞳が嬉々に満ちているのがわかる。


今まで屋敷から外にでたことのない女にとって、山を歩くこと、空を仰ぐこと、日に浴びることは、生物根本の生きていく上での糧を初めて得た時の喜びを感じているに違いない。


命をはぐくむ、息吹く山の中に身を置いて初めてそれを感じた。



「生きているのだな、私も、この山々も」



光を受けた葉は何故こんなにも美しい。



「風が心地よい」


頬を撫でる風は、木々の影でふけばひんやりと気持ちがよい。



「なぁ、ギンコよ。外はこんなにも美しいのだな」



ギンコは遊佐の初めて笑った顔を見た気がした。



「……これはほんの一部にしか過ぎない。こんな世界が続いているんだ。季節が変われば、山も表情をかえる。土地をかえれば、見えるものもかわってくる。そんな連続でなりたってるんだよ、この世界は」



「お前はそんなところをたくさん見てきたのか?」


「少なくとも、お前さんよりはな。だが、俺が見た世界だって本の一部にしかすぎんのさ。それに、きれいなものばかりとも限らんしな」


「そうか、それでも、うらやましいと思った」


遊佐の言葉にギンコが目を細める。


「お前さんだって、これからいろんなものを見りゃいいだろ」


その言葉に、悲観的になることもせず、涼しく遊佐は笑った。



「私はこれで十分だ」






つづく