2004.10.11 大阪地方版/大阪 33頁 大阪2 写図有 (全2,362字)
静か・ゆったり・ホッ 近世の面影、さりげなく守る
近鉄の富田林駅から南へ約400メートル。寺内町(じないまち)は、端から端までまっすぐ歩けば2~3分の小さな町だ。そこに、近世の面影を残した家や蔵が200棟ほどギュッとつまっている。レトロな町並みを散歩する人は多いけれど、飲んで食べてお土産を買う観光地ではない。代々ここに住む人が静かに暮らし、さりげなく町を守っている。
「仲村家」は江戸時代に栄えた造り酒屋。府の有形文化財に指定された屋敷の中で、嫁いで約50年になる富子さん(80)が暮らしていた。内装や外観は変えていない。「屋根が高くて風通しもいいから、真夏でも扇風機さえつけません。よく造ったもんです」
町の誕生は16世紀半ばにさかのぼる。京都・興正寺の証秀(しょうしゅう)上人が土地を買い、宗教都市として開発した。とがった竹や木を並べた「忍返し」など、侵入者を防ぐ戦国時代の工夫が残る。
造り酒屋が栄えたのは江戸時代。幕府の直轄地として、商人の町になった。当時の繁栄ぶりは、市が管理する杉山家で400円で見学できる。
この静かな町にも、静かな動きがある。車の運転も難しい町を敬遠して後継ぎがいなくなった町家を借りて、移り住んだり、工房を始めたりする新住民が増えてきた。
町家の鬼瓦や格子を見て歩くと、なぜか懐かしい。古い住民が多くて近所付き合いが盛んだからか、あいさつを交わす姿があちこちに。みんな一様に、「ここにいると、なんかホッとするんです」という。わかるなあ。(市原研吾)
○モーツァルトとチョーク
喫茶ナロードは、ツタでみっしりと覆われた入り口が目印だ。寺内町の静かさが気に入って、マスターの武田京(みさと)さん(58)がここで店を始めて30年を超えた。店内のれんがの壁にはチョークでメニューが書いてある。「酔った勢いで書いたのが始まり。消えるので、10年に1回は書き換える」とのこと。音楽はモーツァルトのピアノ協奏曲が定番。ボルシチ(780円)やピザ(900~1380円)が人気メニューだ。
○サンマ、注文に応じて調理
店先からサンマの薫りが漂ってきた。国産にこだわる鮮魚店戸田市の戸田善一店長(68)は、明治初期の開業から数えて4代目だ。「さんま二六〇円」などみっしり記入した手書きのお品書きを持ち、得意先に御用聞きに行くスタイルは変わらない。「無言で買い物するスーパーと違う、対面販売の良さってあるんですよ」。注文に応じて刺し身、焼き魚にして自転車で配達する。若い人にこそ本当の魚の味を知ってほしいそうだ。
○檀家回りは自転車こいで
城之門筋を歩くと、興正寺(こうしょうじ)別院の重厚な門が目に入る。「伏見城の門を移築したから、城之門筋の名がついた」と、華園勝文住職(73)。お寺が開かれたのは16世紀半ば。現在の本堂は1638年に再建したもので、狩野寿石秀信のふすま絵がある。だがよく見ると細かい傷が。「大戦中に疎開した子どもが枕投げをした跡です」。狭い道だから檀家回りは自転車が多い。「町自体がスローライフですわ」
○景観を守る気持ち、育んで
住人でつくる「富田林寺内町をまもり・そだてる会」は結成10年。佐藤康平さん(61)が3代目の会長だ。以前は、伝統的な建物が残る町の貴重さを住民は意識していなかった。専門家の話を聞くうちに景観を守る気持ちが高まってきたという。だがサラリーマンになった若い人が出ていってしまうのが悩み。佐藤さんは空き家の実態調査を計画中だ。「若手の職人が工房など作ってくれたら。きっとこの静かな町に似合います」
○冬は寒いけれど温かい
建築家の横関正人さん(42)は97年に寺内町の町家を初めて設計して以来、この町がすっかり気に入ってしまった。自分もいい空き家があったら住みたいと、02年6月、建築家の妻三木万貴子さん(40)と、共同の庭がある長屋に移り住む。「冬は寒い。でも共同の庭で洗濯物を干したり、おしゃべりしたりする温かさがあります」。建築家としては、現代に合うイメージで、かつ昔ながらの景観に背かない家づくりを目指している。
○目に優しい20年代の洋館
古い日本家屋が並ぶ中に、1920年代半ばに立った3階建ての洋館がふしぎにマッチしている。1階は中内眼科、上階は中内正海院長(60)の自宅だ。欧州の石文化にあこがれて、75年に元銀行の洋館を買い取った。窓が多く、吹き抜けのある建物は明るくて住みやすいとか。分厚い金庫扉の中は診療器具置き場だ。国の登録有形文化財になり、この3月、玄関を新築当時に近いものに造り替えた。夢は「将来は史料館に」。
○童心にタイムスリップ!
工房飛鳥は、阪本光枝さん(54)=写真右=がつくった皿や椀(わん)などの陶器を置くギャラリーと、陶芸教室の拠点。以前から「子どものころにタイムスリップしたみたい。すてきな町」と憧れていた町に念願の工房を開いたのは01年春のこと。借りた空き家の内部を改修し、木、金、土曜日に教室を開きながら、自らも製作に励む。昨春から千円のランチ「飛鳥プレート」を開始。阪本さんの器と、教室の元生徒が作った料理が好評だ。
○素通りはもったいないよ
町を歩いていると、首に名札を下げ、白いジャンパーを着た案内者を見かける。98年にできた「富田林寺内町ボランティアガイドの会」の人たちだ。ガイドは地元住民12人。「町に来た人が、『古い家が多いね。どんな地域なんだろう』と思っただけで素通りしてしまうのはもったいない」と、葭谷武雄代表(82)=最前列右=らは歴史の勉強を重ねてきた。今では年に千人以上を案内している。
◇次号(18日)は「空堀かいわい(中央区)」です。
【写真説明】
寺内町は近くの園児の散歩コースだ。車の通りが少ない狭い道を選んで、はしゃいで歩く=富田林市富田林町の城之門筋で