2008.04.15 大阪夕刊 14頁 写有 (全878字)
◆咽頭がんで声帯切除 事前に録音、ソフトで合成
がんで声帯を切除して声を失った大阪芸術大教授の牧泉さん(59)が15日、約1年ぶりに教壇に復帰し、切除手術前に録音していた自分の声を合成するパソコンソフトを利用して講義した。〈自分の声〉で語りかけることで自信をもてたといい、学生らに「何かに感謝する人生を送って下さい」とパソコンを通じて呼びかけた。
「チャンスを与えてくれた皆様に感謝します」。この日午前10時50分から、大阪府河南町の大学キャンパス内で始まった「情報処理概論」の講義。牧さんがキーボードで打った言葉は、スクリーンに映し出され、スピーカーから滑らかな声となって教室内に響いた。約60人の学生は、低く落ち着いた声に耳を傾けた。
牧さんが咽頭(いんとう)がんと診断されたのは2000年10月。放射線治療で職場復帰したが、昨年2月の検査で食道への転移が見つかった。「自分の声を残す方法はないか」と調べたところ、通信機器大手「沖電気工業」(東京都港区)が、事前に録音した本人の音声を組み合わせ、再生するソフトを開発中と知った。
翌月、同社の協力を得て、講義で使う専門用語や日常会話などを約7時間かけて録音した。完成したソフトでは、声色や口調まで再現され、牧さんは「これなら声を失っても、講義をできる」と思ったという。
4月から休職し、10月に声帯を摘出する手術を受けた。その後は、妻恵子さん(58)に支えられてキーボードを速く打つ練習に取り組むなどして、合成音声による講義の準備を進めてきた。
質疑応答を含め、約1時間30分の講義を終えた牧さんは「少し不安はあったが、まあまあの出来だった。学生の反応もよく、うれしかった」と振り返った。
NPO法人「関西喉友(こうゆう)会」(大阪市)によると、病気などで声を出せなくなった人は全国で2万~3万人。会話の方法としては、食道を使う「食道発声」や、機械をのどに密着させて発声する「電動式人工喉頭」が一般的という。
写真=パソコンで再現した声で授業を行う牧さん(15日午前11時9分、大阪府河南町の大阪芸術大学で)=泉祥平撮影