大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】文芸学科教授 長谷川郁夫さん
2010.01.13 大阪朝刊 20頁 大総3 写有 (全1,220字) 
◆編集は創造的作業

 編集者とは何か。新人の発掘やプロデューサー・ディレクターの役割もありますが、その根本を支えるものが2つあります。

 1つはエディターシップというべきもの。例えば、100冊の本を並べようとすると、本の大きさ順で並べる人、著者別で並べる人がいるでしょう。著者も50音順か世代別か、好きな作家からという人もいるかもしれない。人間にはだれにも知的な編集能力が備わっているのです。それは、編集者だけでなく、プレゼンテーションや営業にも役立ちます。

 もう1つはクラフツマンシップ、職人的な作業です。実際に手を動かして、本や雑誌を制作するということです。この2つは切っても切れない関係にあります。

 《長谷川さんの「文芸と創作III」では、1年間かけて1冊の雑誌を作る。今年度のテーマは「ずばり大阪」。大阪の寺社をリポートしたり、大阪出身のSF作家、眉村卓さんにインタビューしたりするなど学生が記事を書き、すべて編集する。この日は、刷り上がったゲラを点検した》

 この原稿ははみ出ているが、下の写真は左と同じアングルだから、1枚減らせばいいね。

 今日、校正ゲラが戻せる人はいるかな。ん、ここは削らないと入らないね。(学生から「書き直していいですか」と質問が出たのに対し)、だめです。書き直すと、元の原稿の赤字記入個所が分からなくなってしまい、いつまでたっても校了にならない。校正とは何かという問題にかかわるからね。削って原稿を規定の行数に収めるプロの経験をしてもらわないといけません。ここにいるみんなに尋ねてみて、ボツにするというなら新たに書き直してもいいけれど。先ほどのクラフツマンシップにかかわる問題だね。

 お互いに厳しく批評しないと雑誌はいいものにならないんだ。なあなあにやっていたらつまらないものしかできない。

 《長谷川さんは「どんな古典でも大先輩の表現との苦闘の歴史であり、人ごとではない」として1年生に古典を読むよう指導している。学生は2週間に1冊読んで感想文を書いて提出する。文学とは言葉だけで築かれた世界ではあるが、そこに色彩や映像、主人公の顔まで出てくるようにならなくてはいけないともいう。イメージを高め、ボキャブラリーを増やし、リアリティーのある自己を構築するには本を読むほかないと強調した》

 本や雑誌の目次は一見バラバラに並んでいるようでも、有機的なつながりがあって、目に見えない力が読者を引きつける。編集もまた、詩や小説と同じクリエーティブ(創造的)な作業なのです。

 (構成・慶田久幸)

                  ◇

 【プロフィル】長谷川郁夫

 はせがわ・いくお 文芸編集者。昭和22年生まれ。早大在学中に小沢書店を創立、平成12年まで約700点の文芸書を発行した。最近著は600ページにおよぶ詩人・堀口大学の生涯を克明に描いた評伝「堀口大學 詩は一生の長い道」(河出書房新社)。平成19年から大阪芸大教授。

産経新聞社

企業情報
企業プロフィール、関連情報など
人物情報
人物プロフィール、経歴情報など