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【大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(29)保育学科長 渡辺純さん 2009.11.01 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,498字)
◆自己肯定感を持って
今配ったプリントは恋愛依存症かどうかの判定テストです。「『あの人なしでは私は生きていけない』と思ったことがある」なんて書いてあるね。 精神的にも肉体的にも何かに依存してしまうこと、それがすでにこころの病気なのです。 昔からモノに対する依存がありました。代表的なのがアルコールや薬物です。 15~20年くらい前からは、行動に対する依存もあるとされています。パチンコ、ギャンブル、作家の中村うさぎさんは買い物依存症だといわれています。 人間に対する依存も増えています。その代表が恋愛依存症であり、セックス依存症です。 ひとつひとつにいろいろな背景があります。例えばアルコール依存症。酒好きというより、飲んでいやなことを忘れられるから早く酔いたいという願望があるんですね。最近の研究で、依存している間に気持ちいいと感じてしまう物質が出ているといわれています。 《大阪芸大短大は、幼稚園教諭や保育所の保育士を養成する。渡辺さんが受け持つ「医学知識入門」は、教諭や保育士として子供たちの健康を維持するのに必要な知識を学ぶ。この日は、子供の心理を推察したり、自分のメンタルヘルスを守ったりするための基礎知識を学んだ。まずビデオで、15歳の少女が語る恋愛依存症の実例を見た》 この少女は両親が離婚して、母親の顔色を見て育ちました。母親は自分の基準に合った良い子なら認める。子供から見ると、良い子でないと見捨てられるという不安があるわけです。基準が他人にある。常に周りに認められなければならない空虚感を持っています。 このむなしさを、その辺にあるもので埋めようとするのが依存症です。自己肯定感を持っていればそんなことにはならないのです。 恋愛依存症かどうかとは、「彼以外は考えられへん」となるか「恋愛は生活の一部」となるかということです。自分で自分のことを認めているから、相手のことも認めるのか。それとも相手が自分のことを認めてくれる間だけ自分を認めるのか。それは信頼の気持ちとつながっています。 ちょっとテストをしてみましょう。 2人一組になって向き合ってください。 片方の人が相手に話しかけてみて、その距離を覚えておいてください。 反対の人、話しかけてみて。さっきの距離とどう違っていましたか。 次に、立ち上がって向き合って片方の人が目をつぶってください。そのまま前に倒れてみて。相手が受け止める前に目を開けてしまうか、それとも支えてくれるまで目をつぶっていられましたか。相手が逃げた? そんな人は信用せんほうがいいよ(笑い)。 さっきの話をした距離が相手と心地よい距離感なのです。この距離感が信頼とか居心地の良さにつながるのです。 話していて、やけに近くにくるとか、やたら触る人とかがいるでしょう。それは距離感が違っているからなのです。 子供との距離も同じです。教師や保育士の中に「子供命」という人がいますが、子供との距離が近すぎるのです。ときに、自分のむなしさを子供で埋める人がいます。皆さんも教諭や保育士になったら気を付けてください。自分のむなしさは自分で埋める。そのために信頼できる人を見つけておくことが大切です。 (構成・慶田久幸) ◇ 【プロフィル】渡辺純(わたなべ・じゅん) 医学博士。昭和30年生まれ。大阪大学医学部大学院博士課程修了。専門は児童青年精神神経医学。平成5年、大阪芸大短大教授に就任。主な著書に「障害児と性 思春期の実像」(日本文化科学社)「小学生メンタルヘルスエッセンス こころの危険信号」(共著、同)。 撮影・甘利慈 産経新聞社 |