大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(25)バロン吉元さん
2009.10.04 大阪朝刊 21頁 大阪総合 写有 (全1,596字) 
□キャラクター造形学科教授 バロン吉元さん

 ◆作品に魂を込めよう

 小さいころから私は漫画が好きでした。でも漫画家になれるとは思わなかった。せめて、挿絵画家になれればと考え、美術大学に入学しました。

 大学生になって、一流の挿絵画家の作品を模写しました。来る日も来る日も。それこそ懸命でした。漫画も描けるようになり、自分のスタイルが確立できたと錯覚し、作品を出版社に持ち込んだところ、なんとあっさり採用されました。これで天狗(てんぐ)になってしまったのです。

 しかし、みなさんはまねをしてはいけません。その出版社の雑誌はこれもあっさり2号で廃刊となったからです。だから私みたいな若輩者の未熟な作品を採用したのでしょうね。

 この落胆からギャンブルに手を染めるようになりました。通常なら転落の一途なのですが、私はギャンブルをする人を自然と観察し、こともあろうにギャンブラーの人間賛歌を漫画にしました。

 このギャンブルシリーズは少し売れたのですが、ある日、住居を竜巻が襲い、原稿が霧散しました。締め切りが近づいていたので、出版社の編集長に竜巻の件を説明しました。すると、編集長は「もっとうまいウソをつけ」。これが転機となり、ギャンブルから足を洗い、真摯(しんし)に作品と取り組むようになったのです。

 《自身の体験を踏まえて講義するバロン吉元さん。小人数のゼミでは絵筆を持って指導するが、聴講生約130人の授業では破天荒さを披露することで、常識にとらわれない独創性あふれる発想を求める。それが「漫画に重要なキャラクターづくりの手法」と説く》

 「キャラクターアート」って言葉を知ってるよね。私の造語のような言葉だけど、基本的にオリジナルのキャラクターを中心に描き、その世界観をよりドラマチックに、よりアーティスティックに表現する人物画です。これが漫画制作には必要です。

 漫画を描く際は、白い紙とにらめっこをすることから始まるよね。どんな漫画にするかイメージをふくらませ、キャラクターから入るかアイデアを浮かべるか、ストーリーを考えるか、順序はどうでもいいけど、キャラクター造形学科で学ぶ限りはできればキャラクターを最初に考えてほしい。

 キャラクターをつくり、動くように生命を与えればしめたもの。鉛筆の線が引かれ、キャラクターに応じてアイデアやストーリーも展開されていきます。

 《キャラクター造形学科では、魅力あるキャラクターをどう誕生させるか、をプロの漫画家から学ぶ。キャラクターの重要性を理解したうえで、学生たちは想像力を働かせる》

 ここで課題作を提出してもらいます。テーマだった「サロメ」「八百屋お七」などについて、一枚の絵に描いてきてくれたかな。ああ、みんな仕上げてきたね。

 この作品は豊かな芸術性を感じるよ。この絵はヘタだけど、きちんとキャラクターアートになっていて訴えかけてくるね。百点満点を付けたいが、天狗になるのはやめてね。天狗は私一人だけでいい。立ち直るのに時間がかかるからね。

 《「厳しく優しく講評することで学生たちのモチベーションを高めます」とバロン吉元さん》

 漫画を支えるのは、キャラクターです。あなたたちは自分のつくり出すキャラクターに感情移入したうえで、感性豊かなアイデアを駆使し、アピールできるストーリーを今後も考えてください。作品に魂を込めるのですよ。

 (構成・三宅統二)

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 【プロフィル】バロン吉元(ばろん・よしもと)

 漫画家。本名・吉元正。昭和42年、漫画雑誌に掲載した「ベトコンの女豹」からバロン吉元のペンネームを用いる。45年から大長編「柔侠伝」シリーズを漫画雑誌に連載、人気を得る。以後、時代劇、戦記もの、SFなど幅広い作品を発表。劇画風のタッチで知られる。二科展奨励賞など受賞多数。平成16年から大阪芸大教授。

 撮影・大塚聡彦

産経新聞社