大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(15)デザイン学科長 喜多俊之さん
2009.06.14 大阪朝刊 27頁 大阪総合 写有 (全1,698字) 

 ◆バランス感覚を磨いて

 デザインって何でしょうか? デザインはアートだから理想を求めるのもいいんですけど、最終的には自分のためのものではなく、人のためのものなんです。「自分はこうだ」と自分本位なデザインをしても、使ってもらえないと意味がありません。バランス感覚がないとだめで、そのための訓練が必要です。

 《デザイン学科では、デザインの対象が多様化する中であらゆるジャンルに適応できるよう教育している。学科長を務める喜多さんは専門分野のプロダクトデザインを中心に、考え方や方向性を指南。プロダクトデザイン、スペースデザインを志す2年生を対象にした授業ではこの日、実際にデザインするのを前に、同じテーマを持つ学生同士がグループに分かれ、構想をぶつけあってディスカッションした。「話をする中でいいアイデアが浮かぶんですよ」と喜多さん。喜多さんは各グループを巡回。「文具」のグループでは-》

 これまでどんな話が出てきましたか? このホチキスの芯が入れにくい? そういう配慮は必要やね。使いにくい文房具ってあるでしょ。いかにもこれでいい、と一般に言われていても、実際に使ってみたらそうじゃなかったものってね。そういう話がユーザーから出てこないと、企業は勘違いしてそのままになっていることってあるんですよ。

 君のこの筆箱、ぬいぐるみがついてるけど、なんで買おうと思ったの? かわいいから? (別の学生に向かって)君のはだいぶん使い込んでるね。いつから使ってるの? 小学生のころからか。ということは「愛着のもてるもの」って大切なんですね。

 そういえば先日、ミラノで行われたグッドデザインショーの展覧会でホチキスが出ていました。わずかな力で30枚くらいの紙をぱちっととめられて、すごい技術やと思ったね。テクノロジーと、使う愛着との合体を考えていくのが面白いかもしれないですね。

 《喜多さんは学生たちの議論の中に入り、プロの視点から次々にヒントを与えていく。学生たちは喜多さんの一言から発想が広がり、議論が活発化した。喜多さんは次に「靴」のグループへ》

 今靴を買うんやったら何を頭に置きますか? 色? 形? 服とのコーディネート? 君はどう思う?

 足が痛くなる靴ってはいたことない? 靴で健康状態が変わると思うよ。だから靴と健康の関係を調べてみるのもいいかもしれないですね。足のツボとかね。

 メーカーが今何で競争しているかを研究してみるのもいいんじゃないかな。色なのか、機能なのか、ファッションなのか、価格なのか。それらは君たちが靴をデザインするうえで知っておいた方がいいよ。もし彼らが気付いていないことをポーンと出せば、大ヒットするかもね。デザインプロデュースってそういうもので、形だけじゃなくて総合的にどうするか考えないといけないんですよ。

 それから、コンセプトをしっかり出してくださいね。カラフルなのもいいし、素材を変えたものもいい。何か特徴のあるものをね。今そのへんにないものがいいと思います。

 《このほか、レストラン・劇場▽花屋▽スピーカー-の各グループでも、喜多さんはそれぞれ発想のヒントなどを示した》

 今みんなで議論したことも踏まえて自分のアイデアをまとめてください。まとまったら、スケッチしたりミニチュアモデルをつくったりして、クライアントを想定したプレゼンをしてもらいます。自分のデザインの良さを相手に分かってもらうよう説得することは非常に重要。「気に入った」と言ってもらえるように頑張ってくださいね。

 (構成・山口淳也)

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 【プロフィル】喜多俊之(きた・としゆき)

 デザイナー。国内のほかイタリアなどでも創作活動を行い、家具、家電、ロボット、家庭日用品などでヒット商品多数。近年ではシャープ製液晶テレビ「AQUOS」などを手がけた。作品の多くはニューヨーク近代美術館などの世界的コレクションに選定されている。また近年は国内外でワークショップを開くなど教育にも力を入れる。平成14年4月に大阪芸大デザイン学科教授となり、16年4月から学科長。

 撮影・頼光和弘

産経新聞社