2009.05.31 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,622字)
◆自分の歴史 詞に乗せ
みなさんは子守歌(唄)にどんなイメージを持っていますか。ブラームスの子守歌のように子を寝かしつける歌というイメージが強いのですが、日本の子守歌は大半が奉公に出された子供の恨み歌なのです。
ここで日本の子守歌のいくつかを紹介しましょう。「島原の子守唄」「竹田の子守唄」などを披露してもらいます。
《教室はいきなりミニコンサートの様相に。もずさんの門下生で歌手、久ぼたなお子さんがギターで弾き語りを始める。歌が終わったところで、もずさんが子守歌の説明をする》
「島原の子守唄」は、若くして売られていく女性の心情をつづっています。力のない人たちからの異議申し立てが歌われ、メッセージ性があります。こんな力強い歌を作ってみたいものです。「竹田の子守唄」からは、奉公先で苦労している子供の悲痛な叫び声が聞こえてきます。ワンコーラスがたったの2行。私のとても好きな歌です。
日本の子守歌に共通しているのは、むだを徹底的に省いていること。それだけに、聞く人の心に響くのです。
《もずさんの授業では、学生たちが作った歌を発表する学内のコンサート「UTADAMA(歌霊)」の歌詞づくりが行われる。歌霊は言霊をもじった、もずさんの造語。「歌には魂がある」との視点で名付けられた。コンサートを通じて作詞、企画構成、演出、照明といった音楽産業の現場を知ることで、音楽著作権についても学ぶ。受講生は年々増え、今年度は2~4年の65人が集まった》
コンサートに向けて、まずは作詞に挑戦しましょう。全員が歌を作り、私に提出してもらいたい。1作品ずつに講評を書きます。履修する人間が多いからといって手抜きをしないから、みなさんも懸命に取り組んでください。
あなたたちの先輩が作った歌詞には、レトリック(修辞法)にとらわれ過ぎて、何を訴えたいのかが分かりにくくなり、メッセージが伝わらないものがあります。この点に注意してください。
授業で子守歌をあえて披露したのは、いいたいこと、つまり本音が出ているからです。だからこそ長い間、人の心に残る。短期間でヒットチャートに乗り、消えていく歌よりは、何十年も歌われる歌を作りたい。それが作詞家の思い、願いです。
《ミリオンセラーを出しているもずさん。詞の魂を学生に熱く説く。もずさんが教授を務める芸術計画学科だけでなく、放送学科、デザイン学科、映像学科などからも履修した学生は、もずさんの言葉に聞き入る》
作詞の手引きとして、まずはテーマの設定を説明します。歌は3分間のドラマといわれます。このため、何を書くのかということについては欲張らず、的を絞って明確にドラマを構築することが必要です。ドラマの展開では、誰の口を借りて表現するかを決めましょう。主人公を私にするのか、あなたにするのか、あるいは三人称にするのか。また、起承転結の作法など決め事も守りましょう。
タイトルの付け方も非常に大切。タイトルによって歌詞が生きてくることもあるので、じっくり考えてみてください。
それでは、いったいどんな詞がいいのか。オリジナリティーの有無が歌詞の評価を左右するので、新鮮な自分の言葉づかいを発見したいものです。
基本をいえば、自分史を自分詞に変換させることにあります。何がいいたいのか、相手に伝える努力をしてください。歌は作者自身が納得するだけでなく、他者が納得してくれるものであるべきです。
(三宅統二)
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【プロフィル】もず唱平
もず・しょうへい 作詞家。詩人、喜志邦三に師事し、昭和42年に「釜ヶ崎人情」でデビュー。代表作に「花街の母」「はぐれコキリコ」など。最近はミュージシャンを育てるために音楽祭のプロデューサーを務めるとともに、高校の特別講師も引き受けて生徒の感性啓発に力を注ぐ。日本音楽著作権協会理事、日本作詩家協会理事。平成20年4月から大阪芸大教授。
撮影・甘利慈
産経新聞社