【大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(7)音楽学科専任講師 森川美穂さん
2009.03.15 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,530字)
◆自分のスタイル確立を
この歌をあなただったらどう歌いますか? 自分の歌い方がわからないまま歌うのはよくないことですよ。
ステージで歌うとき、お客さんにこびる必要はまったくありません。どういうステージであっても、自分のスタイルが出せるかが問われます。スタイルを確立することが大変重要なのです。
自分のスタイルを探すためには歌い込むことです。声が出たからと思って、そこで満足したらダメです。私の経験上、ほとんどの人が声が出た段階で練習を終えてしまうのですが、それを一歩超えることが求められます。歌い込まないと体が覚えません。
歌っていうのは最初からまとめようとしたらいけません。世の中で一番、意識してまとめてはいけないのが歌だと思います。歌い込んで、さらに歌い込むことによって自分のスタイルが確立され、そうなると歌が勝手にまとまってくるのです。
歌い込むことによって、「これは自分の曲だ」「自分の声の質を生かしている」という自信が出てきます。その歌を歌いきれれば「うまいね」という領域に入り、聞いている人もあきさせないでしょう。
《大阪芸大のレッスンスタジオ。防音装置が完備され、機材も録音スタジオ並みの質と量を誇る最新鋭の設備。現役のボーカリスト、森川さんと3年次の学生が1対1で歌と真剣に向き合う。個人レッスンによって学生に歌の神髄が吹き込まれていく》
あなたが描いているプロ歌手になるという夢をあきらめないでください。これから就職活動も視野に入れなければいけないし、卒業後のことも頭をよぎるでしょう。しかし、卒業してからでも音楽はできるはずです。何歳になってからでもやり直しはできます。30歳になっても、60歳になってからでも「始めよう」と思ったときがスタートなのです。
ジャンル、タイプの異なる歌をいろいろと歌うのも必要です。そうすれば得意分野が自然と分かってきます。そのうえで、自分の歌を10曲くらいもってください。古い曲もあれば、最近の曲も入れましょう。夢を追い続け、ステージに臨みましょうね。
《音楽学科はポピュラー音楽コースと音楽制作コースからなる。森川さんが担当するポピュラー音楽コースの教授、講師陣は全員が第一線で活躍中のアーティストたちだ。学生たちは授業でアーティストから刺激を受け、技能の向上を図っている》
歌を歌うときは集中してくださいね。これは私が歌ってきて気づいたことです。つまり、経験から学んだことなのです。
集中するといっても歌は1曲につき、たかだか4~5分です。集中したうえで、主人公になったつもりで歌いきってください。それが生きた歌になり、伝える歌となります。
《授業はここで会場をレッスンスタジオから広いホールに移し、ミニコンサートに。多くの学生が詰め掛けるなか、森川さんが歌を披露。透明感のある声質とパワフルさは健在だ》
私は歌が好きなので、歌っているときは至福の時です。歌い続けていけるのは、自分のスタイルを確立しているからです。それは愛する歌、愛する人がいるからです。
人生は1回しかありません。これからも前を向いて、果敢に歌い続けていきます。
(三宅統二)
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【プロフィル】森川美穂
もりかわ・みほ 歌手、女優。昭和60年、シングル「教室」でアイドル歌手としてデビュー。同期に中山美穂、南野陽子、浅香唯らがいる。62年、シングル「おんなになあれ」を機にアーティスト路線に変更し、「学園祭の女王」と呼ばれる。劇団四季のミュージカル「アイーダ」をはじめ、テレビドラマ、映画にも多数出演。歌唱力が買われ、平成20年4月から大阪芸大音楽学科ポピュラー音楽コース専任講師。
撮影・門井聡
産経新聞社