2009.02.08 大阪朝刊 25頁 大阪総合 写有 (全1,610字)
◆空間をつかみ取れ
生徒のみなさん、あなたたちは芸術に対する才能があると思いますか?あると思う人はどのくらいいますか?手を挙げてみてください。
あれ、だれもいないのですか。それは先祖様に対して失礼なことですよ。あなたたちのなかに流れている遺伝子には、芸術の才能がみんな宿っているのですよ。それに気づかないだけです。もっと右脳を開発しましょう。さあ、車座になって言葉遊びのゲームをしますよ。
《大阪芸大舞台芸術学科が使う約100平方メートルの講座室。授業を受け ている学生約20人は浜畑さんの指示に従って会場いっぱいに広がり、円座 を組む。合図でゲーム開始。学生が一つの単語を発し、それに関連する言葉 をリレー方式で語っていく。「浴衣」→「温泉」→「卓球」…。次々に発せ られる単語を瞬時にイメージでとらえ、思い浮かんだ別の単語を披露する。 約10分間のゲーム。浜畑さんはゲームによって右脳が鍛えられると説く》
そろそろ頭が柔らかくなってきたはずです。これでゲームはおしまい。次は顔面のトレーニング。まず目で上を見て、そして下を見てください。さらに寄り目にして、片方の目だけをもとに戻しましょう。今度は口を開けて舌を回しましょう。まずは左方向に10回。逆に右方向で10回。脳がどんどん活性化してきたはずです。
《浜畑さんが学科長を務める舞台芸術学科では、実技を通して演技力や演出 力を磨くのに重点を置いている。ゲームなどはその準備運動と位置づけられ る。1年次では演技表現の基礎となる体力づくりや発声練習、感情の表し方 、セリフ術など、さまざまなトレーニングが用意されている。2年次には学 内公演、3年次は学外公演、4年次には卒業公演がある》
芝居の重要な点は2つあります。ひとつはリアルに、よりリアルに表現することです。これは出発点。もうひとつの大事な点は、空間をつかみ取ることです。両手を横に広げてください。すると、そこに小さな空間が生まれます。これが空間をつかむ始まりです。
みなさんが舞台に立ったときは、会場全体の空間をつかんでください。会場の壁、天井、照明を意識のなかに入れ、舞台の一番奥まで意識を飛ばしてください。ここまですれば空間は大きくつかめるはずです。そのためには姿勢をよくすることです。背筋を伸ばす。胸郭(きょうかく)を上げる。足を踏ん張ることが必要です。
《舞台での上演を前提とした実践的な授業。浜畑さんは、俳優としての豊富 な経験を伝授する。上演にあたっては、出演する学生同士のチームワークが 何よりも大切。それだけに細かな指導を心がける》
舞台では客席に向かって目で訴えることも求められます。上演者が見るという演技をする際は首だけを動かして見るのではなく、上半身を動かさないといけません。それは先ほど話した空間をつかみ取るところから始まります。プロの俳優は自分の前にある空気、空間を押して演じています。空間をつかむことによって、オーラも出てきます。等身大だけの演技ではオーラを発することはできません。
運はだれにでも、どこにでも転がっています。それをつかむか、つかめないかだけです。私は原石であるあなたたちを磨くアドバイスはしますが、実際に磨くのはあなたたち自身です。空間をつかむ訓練から始め、運をつかんでください。
(三宅統二)
【プロフィル】浜畑賢吉(はまはた・けんきち)
俳優。俳優座養成所を経て、劇団四季の「カラマーゾフの兄弟」で舞台デビュー。「ハムレット」「コーラスライン」「ジキルとハイド」などに出演、ミュージカルスターとしての人気を不動とする。テレビドラマでは「進め!青春」で脚光を浴び、NHKの「男は度胸」で主役を演じる。平成16年4月から大阪芸大舞台芸術学科教授となり、17年4月に学科長に就任。
撮影・甘利慈
産経新聞社